1311 ジュニアの冒険:必要とされる男
これよりゴティア魔王子とベルフェガミリアさんの交渉がスタートします。
僕はただ傍観。
「何故今更僕を必要とするんです? 既に魔国は僕ナシでも問題なく回っているでしょうに」
「たしかにそうだ、しかし完璧なモノからより完璧を求めるのはいけないことか? 我は自分が魔王となる世に、どんなことがあろうと崩れることがない最高の……いや最高以上の体制が欲しい。そのために必要な人材を求めるのは悪いことか?」
まあ、人材で言えばベルフェガミリアさんは最高クラス。
ランクで言えばSSSぐらいつけてもいい人だろうからな。怠けグセがあるのが問題だけど。
為政者ならば欲しがるのも仕方ないというのはわかる気がしないでもないでもない?
「既にルキフ・フォカレ卿には、我が即位後も宰相を続投してもらえるように話をつけてある。次は貴殿なのだベルフェガミリア卿!」
「いや引退させてやりなさいよ。何代前から苦労を重ねてると思ってるんだあの人」
ルキフ・フォカレさんといえば魔国でも歴代最高と褒め称えられる宰相さんだよな?
もうかなりお歳を重ねてとっくに引退してもいいだろうに、まだ現役やらせるの?
「あの人も苦労性だなあ、彼こそさっさと引退すればいいのに、まだタイミングを推し量っているのか……?」
「我が時代に、二人の助力が必要なのは確かだ! ベルフェガミリア卿、貴殿の腕を我が統治でも振るってくれ!」
「そんなことはないでしょうよ」
ベルフェガミリアさん、気だるげながらも冷静に詰める。
「魔王子、アナタはアナタで自分の世代の僚友を作らないといけません。僕もルキフ・フォカレ卿もアナタより前の世代の人物だ。僕はアナタのお父上の、ルキフ・フォカレ卿に至ってはさらに前の世代の人だ。古き人間が往々に現役に居座り続けるのはあまり健全な体制とは言えませんよ?」
「うう……ッ?」
「それに魔軍司令は、四天王『貪』のマモル君がしっかり引き継いでいるはずでしょう。彼についてはどうお考えで?」
「マモル卿は……問題なく魔軍司令の責を果たしている。ただ可もなく不可もなくと言った感じだ。やはり注目度や派手さという点ではベルフェガミリア卿、貴殿の方が……」
「いけません、いけませんよ王子、その考え方は……」
ふるふると被りを振るベルフェガミリアさん。
「人の活躍に派手とか地味とか関係ありません。堅実にやるべきことをこなす、それだけが問題なんです。見た目ばっかりが派手で中身がないヤツなんていくらでもいますし、そういうヤツほど出世しやすいんですよね残念なことに。アナタが魔王になって周囲にそんなヤツらばかりだったら……アナタの代で魔国滅びますよ?」
「うぐうぐッ!?」
「それに比べて中身ミッチリの仕事をしてくれるのがマモルくんじゃないですか。彼もなかなかの苦労人だから、細やかな心遣いで主君を支えるし、部下を気遣う。お父上の部下の中でも若い方だから、アナタの時代になってもガンガン活躍してくれることでしょう」
「そ、そうか……!?」
「それなのに彼の仕事をまったく評価せずにただ名高いという理由だけで僕と差し替えようとするなんて。仕え甲斐のない主だなあ」
「うぐわぁあああああああああッ!?」
あッ、ついにゴティア魔王子のメンタル許容値を超えて吹っ飛ばされた。
「うぐ……ッ、しかし、マモル卿が有能であっても、我にはベルフェガミリア卿、貴殿という存在が必要なのだ。ここで何としても応じてもらう、そうでなくては我は魔国に帰れない!」
「面倒くさいなあ……」
んッ?
ベルフェガミリアさんのまとう気配が変わった。より不穏なものに。
なんだか当事者でない僕まで緊張してしまう。
「そう言うことなら魔王子、もっとわかりやすい、面倒くさくない方法をとりましょう」
「わかりやすい方法?」
「決闘です」
フワッと。
ベルフェガミリアさんが飛んだ。
空中で浮遊し、ほんの少し上空から僕らのことを見下ろす。
実力者というのは特に断りもなくさも当然のように空を飛ぶものなのか。
「言うことを聞かせたいなら力ずくでやれっ、てことですよ。未来の魔王でしょう? 手下ぐらい四の五の言わずに力でねじ伏せてみなさい」
「さ……三顧の礼で迎えるというのは?」
「いやー、三回も訪ねてくるなんて面倒くさくてやってらんないですわ」
フフフ……と厭世的な笑みを漏らしながらベルフェガミリアさん、言う。
「そもそも僕がなんで不死山の頂上にいるのかわかりますか? 誰も訪ねてこないからですよ。怠惰スーツさえあれば僕はどこででも眠れますからね。だったら人がまったく訪れない辺鄙な場所出て寝ていた方がいい」
誰も訪ねてこず、応対する手間がなくていいから?
「それでもアナタのように無理を押し通す人も出てきますがね」
「うぐぅ……!」
「だから僕も無理を押し通すことにします。まあゼダンくんの後継者の才覚、ここで計っておくのがせめてもの忠節と言ったところか」
「もっと別の方法で忠節を示してくれた方が……!?」
いよいよ示される。
人類最強ベルフェガミリアさんの実力が。
僕としては魔王子ゴティアさんだって実力未知数だ。
この二人が勝負するとして、一体どちらに大勢は傾くのだろうか?
「よし、今こそジュニアくん!」
は?
「キミの出番だ! 二人で一致団結してベルフェガミリア卿に立ち向かおうぞ!」
はぁああああああッ!?
何言っとるこの坊ちゃまが!?
なんで僕が魔族さんとこのイザコザに首突っ込まなきゃならんのだ?
そもそも僕がゴティア王子に同行したのは……。
……あれ?
同行したのは、何のためだっけ?
「こうなる可能性は多少ながら予期していた。最悪の事態を想定して……と言ったところだが。こういう事態になっても切り抜けられるように対策をしておくのが名君というもの」
ゴティア魔王子が不敵に語る。
「人類最強といわれるベルフェガミリア卿が相手では、さすがの我も鎧袖一触されるかもしれん。しかしだ、聖者様の息子であり、その才能実力を大いに引き継いだジュニアくんと力を合わせれば、何とか押し返せるかもしれない!」
いやいやいやいやいやいや。
待て待て待て待て待て待て。
なんで僕が一緒に戦う勘定に入ってるねん?
つまりは何か?
魔王子は最初から荒事になった際の助っ人として僕を同行させてたってこと?
用意周到だなッ!!
「自分の思惑に巧みに他人を当てはめる。……王者の才と評価したものかどうか……?」
さすがにベルフェガミリアさんも頬をヒクヒクさせて引いてるッ!?
「まあいいさ、一人試すも二人試すも同じこと。ジュニアくんもゆくゆくは聖者くんの跡を継ぐ大事な人材だ。二人まとめて計ってあげよう」
んぎゃあああああああッ!?
僕、完全に巻き込まれ系主人公!?
一人も二人も変わらないからついでみたいなノリやめてほしいんですけど。
これは本格的に戦いから逃れえない展開!?
「大丈夫だジュニアくん! 二人力を合わせれば如何なる困難をも乗り越えられるはずだ。我々が王者となる頃の魔国と農場国、二国の協力の未来を今ここに投影するのだ!」
僕が王様になった暁には魔国との付き合い方を考えるつもりですが!
ヤバいよ、一定の距離取りたいよこの国と!
「それでは先手必勝! 今こそ受けよ獄炎霊破斬!!」
おッ?
ゴティア魔王子、先ほど放って不発に終わった炎系最強の魔術魔法を放つ。
前回は怠惰スーツの超絶防御力に阻まれたが今のベルフェガミリアさんは生身だ。
かつ、魔王子であるゴティアさんは当然、魔法巧者だ。
例えば魔法学院の人族学生なんか比べ物にならない。
元々魔術魔法は魔族の技能だったから種族的アドバンテージがあるのは無論だが。
その中でもサラブレット中のサラブレット、魔王子ゴティアさんの基礎魔力量も精霊との親和性もトップクラスと言っていい。
そこはもう氏と育ちの相乗効果だろう。
そんなゴティア魔王子の魔法なんでショボいわけがない。
受けるはベルフェガミリアさん。少しは効いてくれないとこの先絶望なんだけど……。
「はいよっ」
全然通じなかった。絶望。
ゴティア魔王子の放った極大火炎は、ベルフェガミリアさんの腕一振りで霧散してしまった。
魔力で打ち散らされたというより、『より上位者の命令があったので解散しました』と言わんばかりの消え方だった。
「なッ……!?」
その様に驚愕し、絶句のまま震えるゴティア魔王子。
彼も気づいたのだろう、その振る舞いの異様さに。
あの一動作だけで悟りえることができたのも、ゴティア魔王子の才覚がそれなりに超一流である証明だろう。
「うん、驚いているし怯えているね。重畳重畳、これに何も思わないほど鈍感だったらとても人を治めることなんてできないよ」
心に何の抑揚もなくベルフェガミリアさんは言う。
「最初に説明しておこう、僕が人類最強たるゆえんを。僕は若き日、この不死山で修行したことがある。ノーライフキングの老師に師事してね」
ノーライフキングの下で修行を!?
「老師はノーライフキングの中でも一際異彩で、自然に揺蕩うマナを取り入れて自己の力に変える術を研究していた。それは奇しくもノーライフキング化の禁呪と酷似していたが、その真髄は自然の、清純なマナを取り入れての超人化なのでノーライフキング化とは似て非なる術法となった」
その極意を完成させ、弟子に伝えたらどうなるか?
人の身で自然マナを取り入れる仙法を会得し、実践したらどうなるか?
「世界のマナを取り入れて最強となる、それはこれまでノーライフキングがしてきたこと。それを全く異なる術法で人間のまま行った僕は……ニンゲンのままノーライフキングとなった存在、といえるのだよ」
それが人類最強の秘密。
人間の身体のままノーライフキングになったベルフェガミリアさんと、これから戦えってこと!?






