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1308 ジュニアの冒険:山の朝の空気は美味しい

 外界の情報を突きつけられ、当事者たちがとった行動は様々。


「こうしちゃいられん! 山を下りるぞ!」


 数十人もいるのでリアクションも多種多様。

 その中でも一番多いのが一目散に山を下りていく人たちだった。


「何よりも事実確認が重要だ! 王都に戻って魔法学院の無事を確認する!」

「魔法学院が残っていなかったら、こんなところで走り込みするだけ間抜けだぜ! 早く戻って真偽を確かめなければ!!」


 と言ってゾロゾロと下山していく。


 あの……。

 もうすぐ陽が沈むので、これから山を下るのは危険……。


「おーい、どうでもいいが訓練途中での逃亡は、冒険者でいる意志がないとみなして資格はく奪もありうるぞー? それでもいいのかー?」


 ゴールデンバットさんから警告を受けるも……。


「うるせー! 大元が潰れたかもしれんのに意味なく走ったりなんかできるかー!!」

「そうだそうだー! キツい思いなんて未来に希望がないとできないぜ! 楽して儲けられるなら、それがいいに決まってるんだよー!」


 山を下りていく足が止まらない。


 だから今からじゃ、もうすぐ夜になって遭難の可能性大! ってなるんだから。

 仕方ない、力ずくで求めるか……?


「安心しろ必要ない」


 とゴールデンバットさんが止めた。


「下山ルートには老師が結界を張ってくださっている。無理やり下りようとしても結界の中をグルグル回るだけでどこにも行けん」


 あッ、そうか……。

 たしかに石兵八陣があった。


 僕が破っちゃったけど再生されているかな……?


「とりあえず明朝まで堂々巡りをしていればいいさ。それからは好きにすればいい。オレも『嫌だ』と言うヤツらを無理やり鍛える趣味はない」


 大部分の人々は下山していったが、全員というわけではなく中にはその場に残った人々もいた。

 引き続き冒険者の訓練を受けようというのだ。


「本当に魔法学院が潰れてたなら、冒険者になる以外道はねえ!」

「お願いしますトレーナー! オレたちを一人前の冒険者に育て上げてください!」


 また腹を括った人たちだった。


「はははははははは! その意気やよし! よかろうやる気のある者らに寄り添ってこそのスーパートレーナー! 安心しろ! オレがお前たちをS級冒険者になれるまで鍛え上げてやろう!!」

「「「「「そこまではいいです!!」」」」」


 何やらいい感じに話はまとまった。

 しかしあの石兵八陣……、この訓練場の人たちの安全確保のためにあったんだな。もちろん脱走防止の意味合いもあるんだろうけれど。


 結界を張れるのはノーライフキングの老師しかいないはずだし、この山を根城にするあの御方もこの訓練場を運営することに同意されているっていうことか?


「当然だ、そうでなければこの山に施設開設なんてできないからな」


 老師はこの不死山の主。

 そんな老師の許しもなく冒険者の訓練施設を建てるなんて、それこそ地主に無断で建物を築くようなものだろう。


「今から何年も前に、不死山の開山宣言がされてな。今まで人の入れなかった領域にもある程度自由に出入りできるようになった。だが不死山が聖域であることには変わりない。この場でやるべきはストイックな修練と研鑽……ということでこの訓練場ができたわけだ」


 そこまで話題になっているが、実際に姿を一度も表していない老師は?


「知らん。あの方もお忙しいようでな、大抵あちこち飛び回って不死山に帰ってくることはあまりない。しかしあの御方の霊験は不在時にもしっかり不死山を追いつくしている。まこと偉大な御方だ」


 あのゴールデンバットさんがここまで手放しに賞賛するなんて。


 先生並みのノーライフキングとして老師の凄さが改めて浮き彫りとなった。


「ジュニアくん!!」


 さあ一件落着と思っていたところで、高山の澄んだ空気をつんざく声。


「いつまでここで足踏みしているんだ!? 我々の目的はただ一つ、四天王ベルフェガミリアだ! 彼を説得するためにガンガン前に進もう!!」


 と言うのはゴティア魔王子。


 そうだ、そういやそういう話だった。

 ゴールデンバットさんの再会と、こんな山頂付近に人的施設があったことへの驚きと、魔法学院壊滅に関わる後始末に専心してしまって、すっかり心の領域から飛び出してしまっていた。


 すみませんね魔王子。


 とりあえずはもうすぐ夜になるんで今日はここに泊めてもらいましょう。

 完全に諦めていたけど今晩は温かい夕食が摂れそうだ。やったあ。


「大量の下山者が出たからあらかじめ用意しておいた食糧にも余裕が出たしな。遠慮せずたくさん食べていってくれ。おかわりもいいぞ」


 やったあッ!


「それは困る! 我は一刻も早くベルフェガミリア卿と話をしなければ……!」

「どうしてそんなに焦っているんだ?」

「うぐッ?」


 簡潔かつ鋭いゴールデンバットさんの指摘。


「たしかにベルフェガミリアは戦力として強大だ。あんなぼんやりした顔をしていてもな。人類最強の呼び名は伊達ではない。ちなみにヤツが人類最強というならオレは人類最適と言ったところだがな!」


 意味がわかりません。

 ベルフェガミリアさんに対抗意識を燃やしているのはわかりますが。


「しかしながら今日この頃この時代は実に平和、ベルフェガミリアが戻らないからって魔族が滅びるわけでもないだろう。何故そんなに焦ってあの男を取り戻そうというのか?」

「うぐッ……! これは魔国の重要機密だ。他国の方の介入は御遠慮いただこう」

「そう言われると何も言えなくなるオレだな」


 なんだろう、このゴティア魔王子の不審な感じは?

 しかし、あの清廉潔白な魔王さんの息子である彼が悪いことを企んでいるとも思えないし、まだしばらくは彼の思うがままに進めてもいいか。


 でも今日はもうここで一泊するのは決定事項。

 それだけは譲れません、安全にもかかわることなので。


 では早速夕食の用意だ!

 せっかくなので手の込んだものを作りたいぜヒャッホウ!


「それなら食糧庫を開放するか! 決意を新たにした者たちの新たな門出の祝いも兼ねてな!」

「どれどれ食材の顔ぶれを見ると……。BBQができます! 山頂のBBQパーティと洒落込みましょう!!」

「なんだかわからんが素晴らしい! 農場にいた時の気分が甦ってくるな!」


 ヒャッホウと皆が盛り上がっている傍らで、ゴティア魔王子は何とも歯がゆそうな表情をしていた。


   *   *   *


 一夜明け、明朝。

 清々しい、山の早朝の空気!

 この空気を丸ごと体内に取り入れたら心が洗われそうだ!


 そしてゴールデンバットさんと腹を括って残留した訓練生たちは既に訓練開始し山野を駆け回っている模様。

 こんな上り坂下り坂を駆け回ったら、さぞかし足腰強くなるだろうなあ。


「さあジュニアくん、朝だぞ出発しよう!」


 朝から元気なゴティア魔王子。


「陽は昇ったぞ! これなら時間は充分だ! さあジュニアくん先へと進もうぞ!」


 はい、そうですね……。

 天気は快晴、風も穏やか、晴朗なれども山高し。これなら進まない理由はないな。


 それではまず朝ごはんを、準備しますんでチョイ待っててください。


「ジュニアくん!? それより先に!?」


 いやいや朝ごはんは一日の元気の素ですからね。

『何があろうと朝ごはんは欠かすな』が父さんからの教えでしたので。


 あッ、ついでに訓練してる人たちの朝食も作っておくか。

 合宿の食堂のおばちゃんみたいな気分になってきたな、楽しい。


「いやそれだと益々出発が遅れないか!?」


 唐揚げ山盛り用意しておこう。

 朝練から戻ってきた訓練生の人たちからは大喜びされ、和気藹々の朝となった。


 それから改めて出発。

 目的はかつての魔王軍四天王ベルフェガミリアさん。


 テクテクと歩いていくが大丈夫。

 彼の情報については前日のうちにしっかり詳細まで聞き取りを済ませている。


 ゴールデンバットさんから。

 彼の話によるとベルフェガミリアさんがいるのは山頂近くというより、まさに山頂とのこと。


 なんでそこまで辺鄙なところに?

 生活できているのか?


 と様々疑問に思いつつ山頂へ向かった。

 ただ一点、探す必要がないということだけは助かる。


 山頂なんてこれ以上ない目標ポイントだからな。『目的地に着いた、これから捜索だ!!』なんてことにならずに助かる。


 そして山頂に到着。

 そこにいた。本当にいた。


 かつて魔王軍四天王の頂点に立ち、魔族軍部の頂点・魔軍司令までも務め上げた男。

 人類最強の呼び声も高い。


 ベルフェガミリア……!


「……ね、寝てる!?」

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
まったく急ぐ必要無し!www
追いつくしている⇒覆い尽くしてる かな? ゴティアくんはいったいなにを隠し事してるのやら……体力ないくせに
下手したら夕方まで寝てそうだ。
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