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130 馬創り

 農場内外を素早く移動するための騎乗動物を導入しよう。


 そういう方針を打ち出してまず情報収集をしてみる。


 外の事情に詳しい魔族娘コンビやエルフたちに話を聞いてみると、この世界でも乗馬の習慣はあるようだった。


「人間国でも魔国でも、馬は他の家畜に勝るとも劣らぬ重要な生き物です」


 と魔族娘のベレナが説明してくれた。


「馬に乗って走らせれば、移動時間がだいぶ短縮できますからね。運輸、通信、軍事。馬は様々な局面で重要な働きをします。転移魔法を使える人員は限られていますから、需要はまったく侵されていません」


 と、いうことらしい。


「聖者様が乗用の駿馬をお求めなら、魔王様にご依頼されてはいかがでしょう? 魔王様も、レタスレート王女の件で聖者様にまた借りが出来たとお考えのようですから、頼み事をすればむしろ喜んで引き受けてくださるでしょう」


 魔国から直輸入か。

 一番安直だがだからこそ容易だし、たまには率直に解決してもいいかな?


 レタスレートちゃんの件で魔王さんも気の毒なぐらい負い目を感じていたようだしここは頼らせてもらうか。


「ベレナに転移魔法で飛んでもらおう。このことを魔王さんに伝えるために」

「了解です! お任せください!!」


 ベレナへの奮起ぶりが尋常じゃないんだけど……。

 そんなに活躍の機会が得られて嬉しいの?


 まあいいや。

 これで馬という移動手段を得て、ウチの農場もますます便利になりそうだな。


 馬を飼うための厩舎とか用意するものありそうだけど……。


「ちょっと待って!」


 そこへプラティが現れた。

 何ですか? 話がまとまりかけていたこの段階に?


「よく考えてみて旦那様。この農場の特殊性を」


 特殊性?


「どこにでもある普通の農場じゃないのか?」

「ないわよ! 神から贈り物を頂いた異世界人の農場主に、『魔女』の称号を持つ高位魔法薬学師の人魚数名、元魔王軍の高位武官、悪名高いエルフ盗賊団、変異化した強力なモンスター軍団を擁し、様々な人知の及ばない高級品を生産する農場が他のどこにあるっていうのよ!?」


 そんなこと言われても……!?


「そんな特殊な農場だからこそ、乗馬においても特別なものを用意すべきだと思うの!」


 特別なものって何?


「またダンジョンから馬っぽいモンスターを探し当てようっていうの?」

「それもそろそろワンパターンぽくなって来たから、別のアプローチを考えてみたわ」


 別のアプローチ?


「欲しいものは、創造すればいいのよ!!」


              *    *    *


『アビスの魔女』ゾス・サイラ。


 狂乱六魔女傑……、と呼ぶと本人たちが怒るのでよりシンプルに『六魔女』と称される人魚たちの一団。

 薬学魔法を得意とする人魚たちの中でも、とりわけその能力に秀でた魔女たちのことだ。


 ウチの農場にいるプラティ、パッファ、ランプアイ、ガラ・ルファも全員この『六魔女』のメンバーだが、さらにもう一人『アビスの魔女』という異名を持ったゾス・サイラは『六魔女』最年長。実力知識も他の魔女より抜きんでているらしい。


 そんなゾス・サイラだが、ひょんなことからウチの農場をたびたび訪ねてくるようになった。


 彼女自身の主張としては、彼女の研究に有用なあれやこれやがウチの農場にあるため観察する、とのことなのだが。


 地上では手に入らない特別な薬品を彼女のルートから入手できるということでプラティも重宝しており、「まあ、いいかな?」という感じで現状を黙認している。


 そんなゾス・サイラに相談だ。


「ホムンクルスの馬を創りたい?」


 俺は傍から聞いていて何のことやら少しもわからない。

 プラティとゾス・サイラの会話に耳を傾けるだけだ。


「ゾス・サイラ。アナタの専攻はホムンクルスの製造でしょう。人工モンスターと言い換えることもできるけれど。魔法薬で生物を作り上げ、思う通りに使役する」


 何を言っているのかわからないので、俺はオークボと顔を見合わせて肩をすくめるしかなかった。


 …………。

 ちょっと待て。


 何故オークボがいる?


 ゾス・サイラが訪問する時は必ず応対するようにさせられてるって?

 なんで?


「無限に製造されるホムンクルス軍団の軍事的脅威と、生命を人の手で創り出す倫理的問題から異端視されて『六魔女』の一人に加えられた。アナタのその秘術を使えばウチの旦那様が騎乗するに相応しい駿馬を創り出してくれると思うのよ!」


 いや。

 別にそんな気合い入れなくてもフツーの馬でいいんですよ?


 わかってる?

 プラティさん、アナタ今生命の禁忌を冒そうとしているんですが!?


「ホホホホホ……。人魚国の王族にありながら我が禁術を恐れもせぬとは。さすがは『王冠の魔女』と褒めてやろうではないか」

「光栄ですわ『アビスの魔女』」


 ウチの奥さんが怖いんですけど!?


「よかろう。そういうことであれば日頃多数のサンプルを提供してもらっている恩義もあるし応じねばなるまい」


 サンプル提供って何?

 俺まったく知らないんですけど!?


「ただ、さすがのわらわと言えども、まったくゼロから注文通りのホムンクルスを創造することはできぬぞ?」

「何が必要なの?」

「ホムンクルス製造には、基礎となる生体情報が必要だ。いかなる生物でも、血肉あるものならば、その中に『生物の作り出し方』とでも言うべき情報が刻み込まれている」

「それって遺伝子?」


 最後にポロリと口を挟んでしまったのは俺だ。

 その瞬間プラティとゾス・サイラの視線が一挙にこちらを向き、気の弱い俺超ビビる。


「……な、何か?」

「……遺伝子? 遺伝子か。その実在についてはわらわもまだ突き止めていないが、おぬしは、こことは別の世界から来たのだったな。興味深いことを色々と知っていそうじゃ」


 たははははは……。


「それは置くとしても、そう遺伝子。それが必要じゃ。馬タイプのホムンクルスを作りたければ、その基礎となる馬の遺伝子が必須の材料となろう」


 しかも……。

 とゾス・サイラはさらに付け加える。


「プラティ姫は、ただの馬ではない強力な駿馬をお求めのご様子。されば材料となる馬の遺伝子も、その辺の駄馬ではなく、より優秀な良馬から採取した方がよかろう。馬は陸人たちが重宝しておるゆえ、自然優良個体も選りすぐられておろう」

「わかったわ。三国一の駿馬を用意するから遺伝子の採取は任せていい!?」


 大いに盛り上がる魔女二人を眺めて、俺の中に浮かんだ彼女らにもっとも相応しい形容は。


「……マッドサイエンティスト」


 それ以外になかった。


 魔法なのに。

 魔女なのに。

 マッドな科学者然。


 彼女らの話は門外漢の俺には把握しがたいが、それでもザックリのレベルで理解して、前いた世界の知識と照らし合わせて、多分こういうことだろうと推測することができた。


 俺が推測するに。

 この二人は、多分……。


 ……クローンを作ろうとしている。

 しかも多分改造クローン。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
ここの農場が普通じゃないもう一点。 動植物に限らず、魔・超変異体に成れる事。 普通の馬を輸入するだけでいいでしょう。 ガラパゴス諸島か?
[気になる点] どこにでもある普通の農場じゃないのか? この期に及んでこの認識は酷過ぎます。いくらギャグテイストでも限度が有ります。これでは主人公の頭の具合を心配します。
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