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1299 ジュニアの冒険:舞台裏の戦場

 僕ジュニア。


 歓迎パーティを開いてくださるとのことで王城へ招待されたというのに

到着してみたら予定外のことが頻発。

 いや、僕の段取りが悪いのも原因の一つなんだが……。


 とにかくも僕の現状は、無事王城に潜入成功。

 ……潜入?


 しかし厳密な場所はパーティ会場とはまったく違う。

 パーティ会場よりももっと雑然としていて、ある意味熱気にあふれている場所だ。


「オードブル遅れてるよ! 何やってんの!?」

「招待客が来場するまでに全部の皿埋めとかなきゃいけねえんだぞ!」

「メインディッシュの準備は!? 煮込み料理は今からじゃないと間に合わんぞ!」

「酒の用意もきっちりとな! 葡萄酒の貯蔵は充分か!?」

「人が足りないんですよ! 人が!!」


 うーん、ここは……。


 調理場。

 料理を作るところ。


 推測するに、今日のパーティのための料理を作っているものと見た。

 大きな催し物ともなれば忙しさも格段上がるに違いない。


 皆血眼になりながら包丁を振り、鍋を揺らし、ほとんど流れ作業のような勢いで次々料理を作り上げている。

 その雰囲気には鬼気迫るものを感じた。


「ほら、アナタもボサッとしてないで料理にかかってよ!」


 と檄を飛ばされる。

 その主は、僕をここまで連れてきた女の子が言った。


 よく見れば彼女の格好は、白が基調で簡単なシャツとエプロンらしき前垂れを懸けている。

 どこからどう見てもコック……いやコック見習いと言うべき格好だった。

 だから僕をここに連れてきたのか?


「急なパーティで私ら給仕係は大忙しよ! まったく大統領様も下の苦労もわからず無理難題ばっかり押し付けてくるんだから……!」

「す、すみません……!」

「ん? なんでアンタが謝るのよ?」


 いえ、アナタたちが目が回るほどの多忙に襲われているのは、僕から端を発しているでしょうから。


「別にジュニアが畏まることもないのだ」


 隣に控えるヴィールが言う。


「ここの重鎮から命じられてメシを作るのがここの料理人どもの仕事なんだから、多少無茶ぶりされても文句を言うのは筋違いだ。それで給料もらえてるんだから義務を果たすのは当然だ」


 おう……!?

 けっこう現実的なことを言うんだねキミ?


「それに見たところ、急な大仕事に伴って増員やらの配慮はしてくれてるんだろう。だったらなおさら文句を言う筋合いはないのだ」

「まあ、忙しい分特別ボーナスくれるって話だから悪くはないんだけど」


 ヴィールとコック見習いの女の子の言葉が奇跡的にかみ合った。


 ヴィールはというと隠形の魔法でも使っているのか、周囲に全然その存在を悟らせない。

 コイツのことだからその気になれば眼光だけでここにいる全員を吹き飛ばすこともできるだろうが、こんな風に息をひそめているなんて。


 何か考えでもあるのだろうか?


 それで……僕がここに引っ張り込まれたということは、僕がこの料理人たちの増員と見られたってことなんだよな。


 ……なんで?

 そこまでコック的な格好をしていますでしょうか僕?


「え? だってそこまで徹底して真っ白な服着てるなら、料理人に決まってるじゃない」


 とコック見習いの女の子から言われて、改めて自分のいでたちを確認する。


 ……白い。


 父さんから授かったスーツではあるが、何故か上下くまなく純白で真っ白であった。


 コレのせいでコックと勘違いされたのか。

 マジか?


「ご主人様は、別に何色でもいいと言ってたんだがな」


 ヴィールが補足的に言う。


「しかし依頼を受けたバティのヤツがこだわりを見せてな。『どんな状況でも失礼にならないフォーマルさというのであれば色は白以外にあり得ません!』などと」


 バティさんの職人気質が爆走したか。


「お馴染み金剛絹で仕立てられたスーツはいかなる汚れも弾き飛ばし純白を保ち続けるそうだ。ある意味厨房に立っても大丈夫だなー」


 こんな事情で料理人の増員と間違えられるとは。


 今日のパーティって、僕の歓迎が趣旨なんだよね。

 そのパーティの調理を僕自身でやるってこと?

 何という巡り合わせ!?


「おいそこ! 何をボサッとしてやがる!!」


 雷鳴のような怒号が飛んだ。

 僕も、傍にいたコック見習いの女の子もビクッと飛び上がる。


「目まぐるしいのがわかんねえのか! 今この厨房にペーペーの新人だろうと、どこの馬の骨かわからん増員だろうと遊ばせとく余裕ないんだよ! ペリナ! 遅刻野郎を捕まえてきたんなら芋の皮むきでもしてろ! 今日はやること満載過ぎて事欠かねえんだからな!!」

「はい、料理長!!」


 ペリナと呼ばれてコック見習いの女の子がいそいそとナイフを手に取り、うずたかく積まれた芋の山へと向かった。


 彼女がペリナさん……。

 そしてあっちで怒声を上げた男性が、料理長と呼ばれていたな。


 いかついガッシリとした体つきで威厳がある。

 そこそこ年齢も高そうだしこの厨房を率いる人物としてはたしかに相応しそうだった。


「そしてそっちの増員、お前の持ち場はそっちだ。お前の判断でいいんで片っ端から作って行ってくれ」


 と言って厨房の一角にある調理スペースを指さす。

 小さいながら水場も竈も揃っていて、一通りの料理はそこでできそうだった。


 増員って、僕のことだろうな。


「献立とかはないんですか? 全体のバランスも考えないと……」


 うーんブタがダブってしまった、この店は豚汁とライスで充分なんだな……という事態にもなりかねない。


「そんなこと考えてる余裕はねえよ! 今は見栄えよりスピード重視だ! テーブルに空きを作る方がよっぽど見苦しいからな!」


 と余裕のない声音で叫ぶ。


「忙しいからと言って雑になるのは感心せんなー」


 とヴィールも苦言を呈する。

 その一方で僕も、示された担当場所へ赴く。


 いやまあ、ここで『僕がパーティの主賓なんですけど!』って主張してもまともに取り合ってもらえるとは思えないし。


 それなら多少は仕事を進めて余裕ができた方が、話にも耳を傾けるんじゃないだろうか。

 何より……料理台と向き合って僕の沸き立つ心を抑えるのは難しかった。


「出たなー、ご主人様から受け継いだ料理人の血が」


 ヴィールの言う通りだ。


 僕の父さんは、暇さえあれば厨房で新しい料理をいくつも生み出す人だった。

 父さんは見たことも味わったこともない料理で人々を喜ばせる天才。


 そんな父さんの料理を僕も幼少の頃から味わってきて、何度も驚いてきた。

 だから僕も父さんの真似をして料理の腕を身に着けてきた。

 父さんが一から教えてくれたので、問題なく腕を振るうことができる。


 用意してある包丁を握った。

 柄はグラグラするし砥ぎも足りないと握った瞬間に感じたが、すぐに『究極の担い手』が発動して聖剣にも負けない切れ味を伴う。


 脇に並べられた食材から、様々な案を上げては脳内で判別、添削、整理して……。


「よし」


 考えはまとまった。

 今こそこの包丁が振るわれる時。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁああああああああッッ!!」


 みじん切りクラッシュ!

 落し蓋に筋取りワタ取り!

 きえぇええええええええええええッッ!


「できたぞ! まずは一品! 舌平目のムニエル!」

「あの料理過程からこの料理が……?」


 これぞ父さんの下で鍛えた料理の技!

 さらに続くぞ!


 次に作るのはルンダン!

 ピアディーナ!

 カルパッチョ!

 サルティーニャ!

 トムヤムクン!

 プルダックポックンミョン!

 ココナッツ・バナナ・フリッター!

 ウィリッシュスコーン!


 どうだ! 父さんの指導の下に僕が身に着けた料理のレパートリーは!?


「相変わらずジュニアの料理ってわかりづらいのが多いのだー」


 ええッ?

 そうなの!?

 むしろ物珍しい方が興味を引いていいと思たんだけど!?


「そう言われても始めて見る料理だと、どんな味がするのかわからなくて警戒するのも事実なんだよな。その点ご主人様の作る料理の方は、名前や見た目からしてわかりやすくてワクワクするのだー」


 それを聞いて、これもまた僕が父さんに及ばない一点だと気づいた。


 そうか……父さんはそこまで気遣って、わかりやすい料理を考案していたというのか。

 僕は腕に溺れるばかりでその気遣いが足りなかった。


 今度こそ、皆にわかりやすく受け入れられるプルダックポックンミョンを完成させて見せる!


「だからプルダックポックンミョンってなんだ?」

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
「コレが究極のメニュー」か…だがしかし、食べる人のことへの思いやりが足りないと言う評価をされがちなのが至高のメニューに及ばぬところ…
白の上下? 結婚式で新郎の着る白のタキシードか?
急拵えだからだろうけど、それだと結婚式の衣装ですね!
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