1288 ジュニアの冒険:約束された大爆発
「アナタが、教師たちが注目しているっていう冒険者?」
僕がどんな演出で的ごと校舎を粉砕しようか思案しているところに、話しかけてくる声。
振り返ると、さっき一押しされていた女生徒がこっちに歩み寄ってくるではないか。
中年教師が困惑しながら……。
「リタニーくん! もう訓練はいいのかね?」
「ええ、こんな訓練もう何度繰り返しても魔法の技量が上がるとは思えません。早く次の段階に進ませていただきたいものですわ」
おお……!?
いかにもエリート優等生然としたセリフ……!
「当然です。私は人族史上初の、世界最強魔術師となるのが目標なのですから。こんな初歩の段階で躓いてはいられません。そしてアナタ?」
「はいッ!?」
注目されてチョイビビる。
「噂は私の耳にも届いています。なんでも巨大モンスターを一瞬で吹き飛ばしたとか。そんなことをできるのは魔法しかいないと校長辺りが目の色変えたそうですね」
そうなんですか。
御校の事情は僕も詳細は存じませんので何とも……。
「でも私は、何かの間違いではないかと考えています。魔法は、知恵と才能ある者がしっかりとした学習を経て会得できる神秘の術。無学な冒険者が使っていいものではありません」
言葉の所々に棘があるなあ。
では、地顕獣を倒した事実はどう説明なさるので。
「魔法以外の何かしらでも、極めて魔法に近い現象を起こすことは可能です。何らかのトリックを使って巨大モンスターを討伐したのでは?……もしくは巨大モンスターという存在自体ギルドの出したデマということも」
ほうほう、そうきますか。
簡単に信用しない用心深さを讃えるべきか、理解の範疇から外れるものを受け入れない頑迷さに呆れるべきか。
「まあ、どちらにせよここで真実が明らかになるということだわ。アナタの実力拝見させてもらおうじゃないの」
おッ。
ここでついに僕の実力を披露する場とあいなりましたか!!
「言っておくけれど、的の前まで駆け込んで殴って壊すなどというのはナシですからね」
「ハーッハハハハハハ! それはいい、リタニーくん冒険者風情に的確な事前注意ですぞ!!」
中年教師め笑いやがって。
よかろう、その挑発受け取った。こっちは農場と冒険者ギルドの威信に懸けて、ドギツいパフォーマンスを見せつけて進ぜよう。
「いいでしょう、その前に一言いいですか?」
「何かしら?」
「僕、何かやっちゃいましたかね?」
「順番間違ってない?」
しまった間違えたか。
僕は魔法練習用の的の前に立つ。
木製の簡素な的で、下位攻撃魔法でも一発当てたら四散して消し飛んでしまうことだろう。
そういうのをいくつも用意して、試射するたびに新しい的に置き換えるシステムらしい。
多分それが一番効率的だな。
その後ろには、実に分厚いレンガ造りの壁が聳え立っていて、あれが的外れた魔法を受け止める役割をしてるのだろう。
視線をずらして確認すると、優に一メートルの厚みがありそうだ。
よし、やるべきことは決まったな。
「えっと、とりあえず下がってもらえます?」
「え? 何よ?」
リタニーさんといったか、それに他の生徒もイベントの気配を察したらしく続々と集まってくる。
それらが人垣を形成し始めたので、僕は見学ならより離れた場所からとお願いした。
「危険だからとでも言うの? 随分と自信家なのね?」
「もしくはコントロールが下手で、どこに飛ぶかわからないからじゃないですか?」
「そっちの方がありえるー!」
「真後ろにまで? それはコントロール悪すぎでしょ!」
ガハハハハハハハ、と爆笑する魔法学院の生徒一同。
学ぶ彼らもあんな感じか。エリート意識が高いんだろうな。
それはそうともっと下がってください。……うん、そこまで下がれば充分!
安全確保は試射の基本。
いいわね! いくわよ!
「……じゃーんぷッ!!」
まず僕は天空高く飛翔した。
僕の垂直飛びの自己ベストは十六メートルぐらい!
その遥か頭上から、僕は両手に魔力を集中し……。
「炎の精霊よ、嵐の精霊よ、交ざりて弾け、方々に迷惑を振りまきたまえ!」
二種の精霊の異なる特性が混ざり合うことで、より大きな暴威が発生する。
地表にて弾ける大爆発によって、的も壁も、すべてが吹き飛んだ。
「うぇええええええええええッッ!?」
爆風にあおられながら、驚愕の絶叫を上げる人々。
うむ、決まった。
僕は爆風に吹き上げられて今少し空中浮遊を楽しんだあと、華麗に着地。
あとには地面をえぐるクレーターが出来上がっていた。
やっぱり真上から放って正解だったな。
これを水平方向に撃ち出していたら、壁もぶち破って魔法学院の敷地を根こそぎ吹き飛ばし、『魔法学院、物理的に排除完了!』ってことになっていた。
え? それでもよかったって?
そんなバカな。
「なッ、これは……!? なッ!?」
眼前の有様をて、リタニーさんが震えていた。
充分に度肝を抜けたようだな。
ここで満を持して決め台詞を言おう。
「これは火炎魔法ではない……爆裂魔法だ!」
やや用法を間違えた。
さて、ここで今更ながらの補足だが、僕は魔術魔法が使え……。
……る!!
父さんは魔法からきしだし、母さんも使うのは魔法薬と聖唱魔法オンリー。
遺伝的に僕が魔術魔法を使える素養はどこにもなかったんだけれど、幼少から大地の精霊たちと戯れていたせいか、気づいたら精霊たちとの親和性が高くなっていた。
最初は直接遊んでいた大地の精霊から力を貸してもらえるようになり、その次に水の精霊、風の精霊と、最後に火の精霊ともお話しできるようになって力を貸してもらえた。
精霊曰く、父さんも昔精霊王に恩を売ったことがあって、その関係からすれば精霊魔法を使えるんだろうけれど、努力しないから使えないらしい。
『努力しさえすればな……』『努力しねーから……』と憐れむように精霊たちが言っていた。
そんな回想はさておき現在だ。
僕の爆裂魔法でザックリ抉れたクレーターを見て、魔法学院の生徒たちはすっかり驚愕し、驚きのあまり言葉も出ない……という風だった。
「これが魔法なのか?」
「魔法って、こんなことができるのか?」
疑うのも無理はない。
訓練の風景を見ていたが、彼らが日常使う魔法と、僕の魔法を比べれば豆鉄砲と爆弾ぐらいの差がある。
訓練場の壁と共に、常識の壁も跡形なく消し去ったことだろう。
特に天才児と謳われていたリタニーさんがことさらショックが大きいようで……。
「どうして……、こんな物凄い魔法をあっさりと使えるの? 魔法学院にも入っていないのに」
「別に学校だけが学びの場ではないでしょう」
人間学ぼうと思えば、どんな場所でも勉強できるものだ。
それを一ヶ所だけに限定し、逆説的に他から学びの機会を奪い、それでもって権威を創り出そうというのはあからさまに間違っている。
そう、僕が体験入学という形と言えども魔法学院に訪れた目的を、今こそ明かそう。
彼らの権威を打ち砕くため、彼らのもっとも得意とする魔法で、こちらの絶対的優位性を示すためだ。
悪用される権威ならない方がいい。
冒険者ギルドの平穏を守るためにも、僕はここ魔法学院で大暴れをして見せる!!
「いやぁ、素晴らしい。今度の新入生は天性の才能に恵まれておりますなあ」
パチパチパチパチパチパチパチパチ……。
気の抜けた拍手の音が鳴り響く。
単体だ。
音のした方を向くと、ずんぐりした体格の男性が鷹揚に歩いてきていた。
オッサンとおじいさんの中間ぐらいというべき年頃。
「キミのような才気あふれる若者が入学したことに感動を覚えるよ。これで我が魔法学院はますます安泰だね」
「体験入学です」
「では私の権限で入学を許可しよう。これから魔法学院の首席生徒として、存分に腕前を振るってくれたまえ」
そんなことをいうアナタは何者なんです?
「これは挨拶が遅れて失礼した。私こそがこの王都魔法学院の院長スゲタァーヤ・モドロフだよ」






