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1286 ジュニアの冒険:魔法を統べる機関

「王都に魔法学院ができたのは、ここ数年のことだ。それ以前は魔法を教えるなんてこと自体がなかったからな」

「えッ!? そうなのッ!? ずっと前からあると思っていた!?」


 魔法学院のことを聞くために、まずそもそもの成り立ちから説明していただけることになった。


「大体、人族が魔法を使えるようになったのがつい最近のことだからな。十何年前だっけ? オレたち個人の感覚からすれば十年以上前はクソ昔になるけれど、人族全体にとっては数千年は魔法が使えない時期があったんで、それと照らし合わせればつい最近だよな」

「私にとっちゃ去年でも昔だけど?」

「それはお前に記憶力がないか、若いかだ」


 それは僕も聞いたことがある。


 ただその場合、人族がそれまで使えなかったのは魔族の使う魔術魔法のことですよね?


「えッ? そうなの?」


 シャルドットさんも知らなかった。

 ……仕方なし、僕の方から補足するか。


 この世界の魔法は基本的に三種類に分けられます。


 魔術魔法、法術魔法、そして魔法薬学です。


 他にもエルフの使う自然魔法、ドラゴンが使う竜魔法、神が封じた禁断の秘術・聖唱魔法などがあるが、これらは希少なので今回の説明からは省きます。

 魔法薬学も、主に人魚族が使う独特の魔法体系で、確たる勢力と歴史がありますが、今回の話は陸のことで海の話は直接関係ないので、こちらも省いてしまってかまいません。


 ここで一番問題となるのは魔族の使う魔術魔法、その次に人族の使う法術魔法です。

 ちなみに魔術と法術を合わせて魔法、と呼ばれる説もあるとかないとか。



「お、おう……!?」

「ジュニアきゅん、教師みたい……!?」


 二人が情報量の多さにドン引きしている!?

 しかし一度説明を始めたからにはこのまま駆け抜けるのみ!


 ここ最近まで使えなかったという魔法は、魔術魔法のことです。

 神や精霊に呼びかけ、その助力を得ることで神秘的現象を引き起こす、それが魔術魔法の概要です。


 そして魔術魔法は、魔族が扱う魔法です。

 魔族は大地の神々……冥界神の眷属だから、精霊たちとも交感しやすいとかなんとか。


 だから魔族以外の種族……すなわち人族に魔術魔法は使えなかった。

 それが数千年と続いてきたわけです。


「それって、人族は精霊と心通えないってこと? なんでよ、人族だって地上の仲間じゃないの?」


 人族は天界神の眷属なので。

 天界神は、冥界神たちの領域である地上を奪い取るために人族を創り出し、送り込んだとか。

 地上からしてみたら人族は侵略者、そりゃ交感もできないでしょうて。


「オレたち侵略者だったのか……!?」


 マジかよ、と表情を苦らせるシャルドットさん。


 もちろんそんな意図、今の人族にはまったく関係ないですよね。

 かつて繰り広げられた人魔戦争も、そうした神々の意図から発したんですが、それも十年以上前に終結。


 天界神の野望は打ち砕かれ、天空の神々のボスであるゼウスも封印された。

 それによって人族もやっと神々の思惑から離れて自由に過ごせるようになったのです。


「え!? ちょっと待って、ゼウスって封印されてたの!?」


 あれ知りませんでした?

 農場ではけっこう有名な話だったんだが、もしやオフレコだったかな?

 まあいいや。


 それによって人族魔族の融和というか、規制緩和もされて。

 その一環として人族も魔術魔法が使えるようにしていいでしょうって、神々が許可を出したんですよ。


 それで晴れて人族も魔術魔法が使えるようになったという……。


「魔法って許可制だったんだ……」

「しかしこんな感じで話が戻ってくるのかよ? いきなり神様がどうとか言って、どんだけ大きな風呂敷広げるんだって思ったが……!」


 話の遠回り、すみません……!

 でもしっかり話を理解してもらうためには最初から話さないとと思い……!


 神々が言うには、

『人族ももはや地上に暮らす仲間の一員だからねー。垣根はできる限り取っ払っていかないと』

 とのこと。


 人族や魔族、人魚族などの異種族間でも結婚して子どもが作れるようにも規制緩和したので、それに伴って魔法の扱いもそのままでは面倒臭いことになるって考えもあったのかもしれない。


「神様も、色々考えてるんだなあ……!?」


 そう言ったわけで、人族における魔術魔法の歴史はまだまだ始まったばかり。

 精霊との交流も浅いので、やはりまだまだ魔術魔法の扱いについては魔族の方が一日の長ある。


 で、今回話題に出た魔法学院というのは、その魔術魔法を教えているってことでしょう?

 つい最近使えるようになった云々~、ってことは魔術魔法のことで、人族が元々使っていた法術魔法のことじゃないだろうし。


「はい、せんせー、質問質問」


 ヒビナさんが手を上げて言った。

 本当に授業っぽくなってきた。

 あと僕のことを先生と呼ばないで、この世界ではそう呼ばれる御方はたった一人と決まっているんだッッ!!


「そのほーじゅつまほーって、何? 私全然知らないんだけど?」

「そうだぜ、オレの理解では、その魔術魔法ってのが使えるようになるまで人族は完全に魔法が使えないと思ってたからな!」


 お二人がそう思うのも仕方ないでしょう。

 法術魔法は、天界神が人族に与えた禁忌の魔法。

 地上に満ちるマナを動力として、様々な大規模術式を展開させるのが特徴だった。


 勇者召喚や神聖障壁などが、その代表に当たる。


 しかし法術魔法には大きな問題があり、マナを吸い上げることで地上の生命力を奪い、枯渇化させる。

 そのお陰で戦争中の人間国は慢性的な不作で、人々も飢餓貧困に苦しんでいたとか。


 戦争が終わったことでやっと状況が改善された。

 僕が生まれる前のことだ。


「なによッ!? じゃあほーじゅつまほーって悪い魔法じゃん!」


 まあね。

 それに天界神が人族へ法術魔法を与えたのはあくまで魔族を倒して、地上を自分たちのものにするため。

 だから対魔族の戦争利用に特化して、とても個人の生活を豊かにするような造りにはなっていない。


 一般に知れわたっていないのも、戦争後廃れたのも、そういうところが要因だろう。


「はー、くたびれた。騒ぎ屋の相手は疲れる……」


 話し込んでいるとギルドマスターが戻ってきた。

 表情にはありありと疲労の色を浮かべて。


「おかえりなさいギルマス! あの、どうでした魔法学院のヤツらは?」

「私の仕事が心配か? 問題なく送り返したよ、あんな使いっぱどもに私の気迫と論述が破れると思ったか?」


 さすがの貫録でやるべきことを為したギルドマスターだった。


「それでお前らは何をしてたんだ? ジュニアくんに魔法学院のことしっかり説明したか?」

「いや、逆にジュニアから魔法の講義をしてもらったんですけど、それが面白いやらためになるやら」

「なんだそれ、私も聞きたい」


 そうだ、魔法学院のことだ。

 魔法という体系が奥深すぎて前振りだけで時間がかかってしまった。


 仕方ない……という感じでギルドマスターさんが口を開く。


「魔法学院は、『人族に魔法を教え広める』という名目で設立された。魔国から派遣されてきた魔法教師が数多く在籍していて、卒業すれば箔もつくと上流階級からの受けもいい」


 ほほう。

 元々『魔術魔法は魔族のもの』という予備知識と照らし合わせれば、それほど不全はない流れだが。


「ただ、最近になって振る舞いが怪しくなってきてな。やたらと魔法使い優遇論を唱えて、自分たちの地位を高めようとしている。感情にな」

「あー、わかるわかる!『魔法使いにあらねば人にあらず』ぐらいの勢いで魔法推してくるわよね!」


 実体験があるのかヒビナさんが苛立ちと共に語る。


「実際そうだな。現に我ら冒険者ギルドにも『魔法は冒険者クエストに必ず役立つものだ』とか言って圧力をかけてきている。『冒険者となるために魔法学院への入学を義務付けるべきだ』とな」

「はあッ? そんなバカげた要求通るわけないじゃない!!」


 さらに憤慨するヒビナさん。


 冒険者全員を魔法学院をに入学させる?

 そんなことして何になるって言うんだ?


「当然利権だ。冒険者ギルドを支配下に置きたいんだ」

「冒険者ギルドは今や世界中に跨る一大組織。金儲けに使おうと思えば巨万の富を生み出せる。魔法が冒険者の必須科目となれば、その教育機関である魔法学院はギルドに多大な影響を及ぼせる。それを利用して甘い汁を吸いたいってことなんだろう」


 さらにギルドマスターは続ける。


「いつかなどは『冒険者ギルドの指導者も魔法に秀でていなければ!』とか言って学院から派遣させた魔法使いとギルドマスター交代しろとか言い出してな」

「はあッ!? そんなことがあったんですか!? それでどうしたんですか!?」

「もちろんこの手で叩きのめしたよ徹底的に。そして『この程度の実力じゃ冒険者を束ねるなんてとてもできませんねえ』と追い返してやった」


 皮肉たっぷり!?

 そういう最後に実力でねじ伏せることができるところが、このギルドマスターさんの頼もしいところだな。


「しかしそんな要求があったこと自体、冒険者ギルドのことを“美味しい利権の溜まり場”とみなしている証拠だ。魔法学院がな。こういう輩の厄介なところは『目的を達成するまで絶対に諦めない』ってことだ」


 美味しい利権が、そこにあるとわかっているからですね。

 一度食らいつけば半永久的に美味しい汁をすすれる。それがわかっているからこそどんな回り道をしてでも、迂遠な手段を使ってでも、いつか必ずたどり着く。

 嫌な諦めない心だ。


「実際、最近登録申請してくる新人冒険者の中には魔法学院卒業生がチラホラいる。そういう手合いが数を増し、ギルド内で一定の割合を占めれば、重要なことを魔法学院の意思で勝手に決められてしまうかもな」

「一大事じゃないですか!? 早くどうにかしないと!」

「だからそういう魔法学院上がりを教官長に引率させて山に送り込んでるんだろ。アイツにシゴキをさせたら厳しさは際限ないからな。さて何人が脱落せずに帰ってこれるか……」


 教官長というのは引退した元ゴールデンバットさんか。

 しかし冒険者ギルドが、こんな意外な危機に侵食されかけていたなんて。

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