1284 ジュニアの冒険:父親自慢
「えッ、ジュニアきゅんてマジで王子様だったの?」
話がひと段落ついてからヒビナさんが雑談しに来た。
まだギルドマスター室から出ていないというのに、強心臓な女性だ。
「冒険者はこれぐらい度胸ないと」
ギルドマスターさんからしみじみ言われた。
「すっげー、ジュニアきゅんはただ者でないと一目会った時から思ってたのよ! やっぱり王子様って基本性能からして違うのね!」
「こら! ヒビナさんジュニア王子に対して馴れ馴れしいですよ!」
僕の腕に絡みつこうとするヒビナさんを、受付嬢であるサリメルさんが阻止。
「他国の王族となれば敬うのが筋でしょう! 本当なら私たちごとき一般庶民が触れ合うことなんて一生なく……!」
「ええぇ~そんなこと言うサリメルちゃんこそが一番ジュニアきゅんに対して失礼だったじゃない。彼が申し込みに来たときなんか、もうカスを見るような目で……」
「うわははぁあああッッ!? そ、それは……!?」
痛いところを突かれて鼻白むサリメルさん。
「しッ、仕方がないじゃないですかッ! その時はジュニアくんがそれほど重要人物とは思わず……! 最初から王子様だと名乗らないジュニアくんが悪いんです!!」
「相手が誰だろうと、丁寧な対応をするべきでは?」
ギルドマスターさんからの矢よりも鋭い突っ込み。
それに出会い頭に『僕は王子様だぞ!』とか言い出したら感じ悪すぎじゃないですか。
最悪、悪戯かと思われて警察呼ばれるのがオチだ。
「連日やってくるイキり若僧どもにうんざりするのはわかるが、それでも受付嬢はギルドの顔、どこでも誰にでも敬意をもって接してくれないと困る。そもそもそうした勘違い若僧に現実を教えてやる役割はしっかりと用意してあるんだからキミが横柄に振る舞える理由にはならんぞ」
「はい、すみません……!」
ギルドマスターから叱られると、小さく消沈するしかないサリメルさんだった。
可哀想だとも思ったが、彼女の職務内でのことに不用意に口出しするのもよくはない。
「ジュニア王子への振る舞いは、相手の正体に関わらず私の落ち度でした。猛省し、改めますのでどうかご容赦ください」
「次はないぞ」
「ありがとうございます……!」
ヒビナさんが僕の耳元で『次はないって言う場合ほど次はあるのよねー』と囁いてきた。
やめなさい。
「ところで……あの、お願いなんですが」
「何でしょう!? 王子のためならば全力全開で配慮させていただきます!」
それもダメだろ。
受付嬢さんは皆に平等に接してください。それはそれとして……。
「王子って呼ぶのやめてもらえませんかね?」
「あッ、そうですよね。お忍びなのですから大っぴらに呼ばれるのは差しさわりがありますよね」
それもあるのですが、僕自身あまり王子様という意識がなくてですね。
僕の父も大概王様の意識が薄い人なので、そんな先駆者から自覚を受け継ぎようがない。
父さんはいまだにせいぜい村長ぐらいの感覚で、気軽に農場国のあちこちを回って民と触れあう。
そうして近い距離で農場国を統治しているんだ。
僕もそんな父さんを尊敬して、見習いたいと思っているので王子様などと呼ばれて自分が偉いつもりになることは避けたいと常々思っております。
「なるほど……ご立派です!!」
「媚びることに余念がないな。相手が王族だとわかった途端」
サリメルさんの脇目もふらないぶりに他全員が戦慄するのだった。
「ジュニアきゅんのお父さんって、そんなに王様っぽくないの?」
そうだよ全然。
元々王様として生まれ育ったわけじゃないし、当人も生粋の小市民を名乗っているから。
本人を見ても全然王様だって気づけないよ。
そのせいか外国からやってくる使者の人とかも、最初父さんが王様だって気づかなくて、護衛として同行しているオークボさんとかに挨拶するから、真実が判明してからの気まずさと言ったら、もう。
「そ、そんな威厳のなさで国王が務まるんですか?」
威厳ない言うな。
まあ相手が間違うというしくじりを突いて、相手の出鼻をくじいて有利に交渉を進めれる利点もあるけどね。
それに外交は主に母さんの方が上手く進めてくれるし。
「母さん?」
「ジュニアくんの母……つまり聖者様の奥様は元人魚国の王女だ。生まれついての王族なんだからそりゃ国際儀礼にも強いだろう」
「人魚国の王女様ッ!? ますます凄えッ!?」
そんな母さんだけれども、家では普通の厳しくも優しい母親ですよ。
ちょっと台所仕事、父に預けすぎな感はあるけれども。
「念のために補足しておくが、態度とは無関係に聖者様は物凄いお人だからな。能力はもちろん、その知性も、徳の高さも。聖者殿はこの世界全体の文明を二百年進めたと言われている」
うんうん。
さすが僕の父さん。ギルドマスターさんからも称賛の嵐。
「ヒビナよ、お前アレが好きだっただろ。ベルギーワッフル」
「ええ、そうですけど何で知ってるんです? 私のこと調べ上げてるんですか、こわ」
「黙れ」
冒険者のことなら大抵のことは把握しているギルドマスターさん。
凄いなあ、と思うべきなのか。
「そのワッフルを開発したのも聖者様だぞ」
「えッ? マジ!」
「食べ物は特にそうだが、聖者様の考案で世界を豊かにする発明品は枚挙にいとまがない。聖者様のお陰で世界の発展はあると言っていい」
父さんに言わせれば、以前住んでいた土地の文化を持ち込んできた公然パクリに過ぎないと言っているが、それもあるいいあの人なりの謙遜なのかも。
「そんなわけで、たとえ社会勉強の一環であってもジュニアくんをおいそれと冒険者ギルドに引き入れて便利使いするなんて恐れ多いんだよ。聖者様本人はともかく、お母上の方は海千山千の純王族、どんなところから難癖付けて最大限の詫び金搾り取ろうとするか、わかったもんじゃない」
いや、さすがにそれはヒトの家の母親をバケモノ視しすぎではあるかと……。
「私の言うことが大袈裟だと思うかね?」
……思いません。
遺憾ながら。
「それにジュニアくんだって恒常的に冒険者でいるつもりはないんだろう? あくまで社会勉強の一環だというのなら」
ハイ、そうです。
「ならば不用意に高等級を与えてギルドとズブズブの関係にさせてしまうのは避けたい。こちらとしても冒険者として全身全霊を傾ける者のみA級もS級も与えたいのでな」
「C級は?」
「もっと頑張れ」
そうだよな。
やっぱり上位者に選ばれる基準は実力だけじゃなく、冒険者という存在に傾ける熱意も問われるんだろうな。
残念ながら僕は、農場の仲間や農場国以上の気持ちを、冒険者に持つことはできない。
「しかし実力的にはジュニアくんに相応しい等級はSしかない。何しろ私が設定したS級昇格試験を五、六歳の時にクリアした超逸材だ」
「ぎ、ギルマス……、さっきもそんなこと言ってましたけどマジなんですか?」
「マジのマジだ」
「マジマジのマジ?」
「マジーマ」
何のやり取り?
「昇格試験なんて耳馴染みないかもしれんが過去に一回だけやってな。私が引退したタイミングで、当時のA級冒険者もこぞって参加したが、課題をクリアできたものは一人もいなかった。唯一コーリーだけがお情け同然でS級に昇格できたのだ」
「そんなことが……!?」
「そんな中、飛び入り参加でキッチリクリアしやがったのが当時五歳のジュニアくんだ」
そのことをほじくり返すのは……。
当時の僕は、なんか楽しい遊びをしてるな、と思った程度のことだったので……!
「冒険者が純粋実力主義であることは揺るぎない。ゆえに昇級させたとしても。ジュニアくんをB級C級には置きがたい。ここは一計を案じる必要があると、私のギルドマスターとしての直感が囁いている」
「そんなの私でもわかりますよ!」
「降級させるぞ、この小娘」
ギルドマスターさんに何か名案があるんだろうか?
僕が冒険者になっただけでここまで厄介事に発展してしまうとは。
父さん母さんの息子であることがこんなにも世間に影響を及ぼしてしまうとは、これもまた勉強なのかな……?
「……うむ、閃いた」
「マジですか?」
「ジュニアくんのために、ジュニアくんのためだけの特別等級を用意しよう。それでどうかご勘弁ください」
特別等級!?
「それって、ジュニア以外は誰も名乗れない、まさしくオンリーワンってことですか!? ある意味S級よりも凄えッ!?」
「ジュニアくんの実力を思えば不自然でもなんでもない。特別扱いとは、実力者にこそ相応しいのだからな!!」
昂然と言い切る。
この決断力こそがギルドマスターとしての云々。
「さてそこで、具体的にどういう等級を設定するかというと……」
ギルドマスター、いったん目を瞑り、静寂を湛える。
僕らもつられて無言になる。
充分にタメを作ってから、グワッと。
「X級だッ!!」
「えっくすきゅうッ!?」
単とも何かありそうな響き。
「な、何とも特別感があるようで謎めいた響きも感じられる等級……!?」
「そうだろう、そうだろう!」
こうして僕はX級冒険者ジュニアとなった。
なんだかやりすぎ感も否めなくはない。






