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1281 ジュニアの冒険:大地の力

「ぎゃあああああああああああッ!? もうダメだッ! 皆このまま死ぬんだぁあああああああッッ!!」


 シャルドットさんまで冷静さを失い、混乱の極致で転げ回っていた。


「落ち着いてください!」

「ふげっぷ!?」


 ローリングするシャルドットさんを踏んで止める。


「お願いがあります、僕にやらせてください。あの怪物を止める許可を」

「はへ?」


 僕の提案に虚を突かれたのか、却って冷静になるシャルドットさん。


「そんなのいちいち許可取るまでもないけど……。ジュニアくん本気? あのバカデカバケモノを止められると思ってるの? やるかやらないかの問題じゃない、できるかできないかの問題だよ?」


 いいえ、やるしかない、の問題です。


 地顕獣は自意識を持たない、それこそ災害のような存在。

 王都に向かっているのも何かの偶然かと思われる。だから途中でまた何かの拍子に進路を変えるかもしれない。あたかも台風の経路のように。


 進路を変えず、そのまま王都に直撃する可能性がある。

 それが現実のものになったら被害は計り知れない。


 だからこそ、まだ可能性の段階で収まっている間に何としてでも食い止め、被害をゼロパーセントにとどめおかなくては。


「そうは言っても……いや、たしかに異様な強さを誇るジュニアくんなら一縷の可能性も……!? やっぱダメだ! どんなに強くても個人レベルでどうこうなる巨大怪物じゃない!」


 忙しない人だなあ。

 もちろん、僕も個人レベルで地顕獣をどうにかできるとは思えない。


 農場国で地顕獣が出た際にはどうしていたか?


 大体ヴィールがドラゴンブレスで吹き飛ばしてたなあ。

 もちろん僕にはヴィールのようなブレスも吐けないし、先生のように禁呪文で島一つ消滅させることもできない。


 僕は、たった一人では何もできないちっぽけな存在だ。

 だからこそ力を貸してほしい。


 この抜き差しならない事態に、頼れる友人たちよ。


「はぁあああああああああ……ッ!」


 僕の思念が大地に染みわたり、それに応えるように地面からニョキニョキと生えてくる頭。

 さらに肩、胸、腕、足、と全身が浮かび上がるとその正体が晒される。


 小さな少女だった。

 とても髪の長い、溌溂とした少女。


 むろんこの子たちは人間じゃない。

 精霊だ。


 あらゆる自然に溶け込んでその運行を助ける霊的存在。

 肉体を持たず、肉眼から見ても不可視ではあるが、ある一定の手続きを踏めばこうして実体化して姿を現してくれる。


 そんな大地の精霊たちが一つならず数十。


「わーい、ジュニアくんですー!」

「こんなところで、きぐーです!!」

「うんめーの、かいこうですー!」


 いやいや、僕が意図して実体化してもらったんだけども。


 精霊は自然そのもの、ゆえにどこにでもいて、いつでも見守っている。

 ただ物理的には捉えられないため、交感するには霊的に察知するか、向こうに物体化してもらうかだ。


 農場では、特に意識しなくても精霊が物体化してくれるので、僕が小さい頃はそれこそ毎日のように遊んでくれた。

 幼き日の僕にとって大地の精霊は、優秀な子守りであり、大切な友だちでもあった。

 そんな大地の精霊たちと、今でも付き合いは続いている。


「な、何その小人たちは? これもモンスター?」


 見守るヒビナさんは混乱模様。

 何をしようとしているか想像もできないに違いない。


 まあ僕も予備知識なしで見せられたら相当混乱すると思うけど。


「あー、あぶないヤツがいるですー!」

「ぱたーんあおですー!」


 大地の精霊たちも地顕獣に気づいたようだ。

 さすが勘が鋭い。

 あれも大地から生まれ出たものなので精霊たちも見過ごせはしないのだろう。


「アレを大地に還してあげなくてはいけない。精霊たち、協力してもらえないか」

「あたりまえだの、としいえですー!」「がってんしょーちのスケキヨですー!」


 大地の精霊たちは快く承諾してくれた。

 細かいニュアンスは混乱するだけなので、とりあえず無視。


「ジュニアきゅん? これも召喚術なら、こんな子どもよりもせめて昨日呼び出した魔人の方が……!?」


 ヒビナさんが言う。

 彼女が言っているのは羅刹王ラーヴァナのことだろう。彼も彼で大変頼りになるが、大地の精霊たちだって負けていない。


「まあ見ててください。この子たちととんでもない花火を打ち上げてみせますから」

「きたねえはなびですー!!」


 ズシンズシンと、響く足音。

 ゆっくりながら一歩ごとに音量を増す。だんだん近づいてきている証拠だった。


 速度が遅いのが救いだな。お陰でじっくり準備を練れる。


 僕は目を瞑り、精神を統一し始めた。

 大地の精霊たちも一緒だ。

 今、僕とこの形は精神とマナをリンクさせている。


 大地から吸い上げられる自然マナも、僕がこれからすることのために利用できる。精霊たちのお陰だ。


「……はあッ!」


 自然マナが全身に充溢する、体がはち切れそうだ。

 その一方で、大地の精霊たちも準備を始めていた。


「しょだん、そうてんですー!」

「せーふてぃろっく、かいじょですー!」

「げきてつおこすですー!」

「しょうじゅん、あわすですー!」


 全身に限界までマナを凝縮した僕の身体は、いわば火薬一杯の薬莢だ。溜め込んだ爆発力を定まった方向へ正確に噴出すれば弾丸を高速射出できる。


「行くぞ!」

「どんとこいですー!」


 眼前には、大地の精霊の一体が両腕を突き出し、スーパーマンのポーズをとっている。

 その精霊を、超圧縮マナの一点解放で射出!


 これが農場神拳奥義、農場精霊砲弾だ!!


「とんでくですぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううッッ!!」


 多分音速の四~五倍程度の速度で飛翔する大地の精霊。

 濃厚なマナで包まれた精霊は、まさしく生ける弾丸。

 そんな精霊を僕のマナで高速飛翔体へと変えたのだ。


 これをもって粉砕できぬものなど何もない!


 ……って言うことを以前、この技を披露した時の父さんが解説してくれた表現をそのまま引用しました。


 そして飛んで行った精霊砲弾が狙いをあやまたず地顕獣へ着弾。


 ズボドンッ!!


 凄まじい音を立てて、地顕獣は上半身から上がすべて吹き飛んだ。


「ちゃくだん、かくにんですー!」

「めいちゅうかくにんですー!」

「だいにだん、そうてんですー!」


 しなくていい、しなくていい。

 二射目いらないから。既に一発目で爆裂試算していることは充分に確認できているから。

 目標の沈黙……いや消滅を確認。

 これにてミッションコンプリートとする。


「だんがんごっこ、たのしかったですー!」


 とか言ってる間に、砲弾役を務めた精霊が飛んで戻ってきた。


「うらやましいですー! やくとくですー!」

「ぜっきょーましんもビックリですー!」

「こんどは、あたしのばんですー!」

「順番はまもるですー!」

「ただいま、さんじゅっぷん待ちですー!」


 待て待て待て待て。

 アトラクション化しないで。


 たしかにあんなハイスピードで飛翔したらスリルショックサスペンスだろうけれど、普通に乱射したら被害甚大なので一旦落ち着てほしい。

 あとでたくさん遊んであげるからね。


「あんな巨大なバケモノが、木っ端みじんに……!?」

「ジュニアきゅん……マジでホントに何者なの……!?」


 度肝を抜かれて呆然としている冒険者の皆様。

 危機は去りました。もう王都が蹂躙される未来はありません。


 ……お。


 そして地顕獣を倒したことによる成果も、現れだしたようだな。


「はえ? なんだ……!?」

「雪? いや……黄金に輝く雪なんて?」


 天井から降り注ぐ無数の黄金の粒。

 それらは雪と見紛うようだが、もちろん雪ではない。


 これは凝縮されたマナの塊だ。

 地顕獣を形作っていたもの。ドラゴン肥料で過剰となり、巨大獣と変わることで地面から溢れ出た自然エネルギーだ。


 地顕獣が倒されたことで元のマナの塊に戻り、大地に降り注ぐ。

 それによってここら一帯に活力が生まれ、作物を育てれば豊作となることだろう。


 それが地顕獣の本来の役割であっるかもしれない。

 一つの土地に収まりきれないエネルギーを、巨獣という形で外へ出し、別の土地に移し替える。


 そうすることによって自然エネルギーの均一化を図る。

 自然というのは上手くできているものだなと思った。


 破壊のあとには再生が起こる。

 それもまた天災と共通するところだな。


 これがあるから父さんたちも地顕獣については抜本的に消し去ろうとしない。

 大きな利点があるからだ。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
なんで異世界の精霊が、地球の文化を知ってるんだよ(笑)。
結界魔法に吸われてた大地のエネルギーを少しずつ散りばめてる感じ?
なんだろう・・・このジョジョのセックス・ピストルズのスタンド感は?
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