1268 完成農場国
今年も異世界農場をよろしくお願いします。
今回から本格的に十年後が描かれます。
俺です。
聖者です。
あれから十年が経ち、今では立派な王様となりました。
どこの国のかって?
もちろん農場国の。
農場国は今を去ること五年前からスタート。
正式に新国家として周辺から認められた。
建国式典には魔王さん、人魚王アロワナさん、それに人間大統領としてリテセウスくんも出席し、祝いの辞を述べてくれた。
それから各国とはよき貿易相手としてお付き合いしている。
我が農場国はそもそも十年ちょっと前に巻き起こった大人口増加に備えるために国だ。
あの当時、娑婆に出たばかりのクロノス神がハッチャけてたからなあ。
農耕神の加護をフル活用して産めや殖やせやを推し進めていたら、世界総人口が二倍になりかねない事態に陥っていたというわけ。
早急に増えた人工の受け皿となれ。
そんな想いの下に建てられた農場国は見事に周辺各国からの人口流入を受け入れて、当初の目的を完遂した。
今、クロノス神によるベビーブームで生まれた子どもらは大体十三~十四歳といったところ。
人生で一番食べ盛りな時期。
間に合った、食糧危機に陥らずに済んだと各国首脳が胸を撫でおろしたという。
そんな農場国は、建国五年を経てなお発展を続けている。
何しろ増えすぎた人口を賄うための国でもあるからな。
生産力が何より国の要だ。
農場国のその名の通り、国土の七十%強が農地で、日々農作物が生産されている。
そして収穫物を各国へ輸出。
建国間もないというのに食料自給率は四〇〇%だ。
今や異世界の台所と言っても過言ではない我が国。
そんな俺は王様として、今でも最初に開拓した農場で寝起きしている。
農場国の本土から見れば外れにある土地で利便性は低いが、みずから築き上げた土地だとして思い入れも深いので、なかなかに離れがたい。
「じゃあ、今日も行ってきます」
「はいはい、アタシもあとで行くから職場で会いましょう」
ということで今は、農場から農場国の政庁への通勤生活を送っている。
ドラゴン馬のサカモトに乗ればものの五分で到着するから、通勤もそう苦ではない。
政庁では、各国から派遣してくれた腕利きの官僚の皆さんたちが政務を行ってくれているので、俺ほぼやることもないけれど。
「陛下! おはようございます!」
「おはようございます陛下!」
「早速ですが南Kブロックの収穫量報告が上がりましたので、ご精査ください!」
「品種改良研究所から成果が出たようです!」
「西Ⅹブロックで納豆浸食被害が起きたと!」
「またヴィール様がはしゃぎ出したのでなだめてほしいと要請が!」
こんな感じ。
王様となってもやってることは農場主だった頃と大して変わらん。
政庁では、国内における農作物の成長収穫度合いをチェックしたり農地の運営計画を立てたり、品種改良といった長期的な研究を指導したりなどしているが、俺自身はそういった事務仕事はそこそこに、外に出て直接農地へ出向いていく。
農地では、我が農場国の民さんたちが今日も元気に牛馬のごとく働いている。
「聖王様! 今日もお元気で!」
「聖王様のおなりだぞ! 皆全力でお出迎えしろ!」
いや、そのままそのまま。
別にお仕事の邪魔をしに来ているわけじゃないから。
「今日も作物が青々実っております!」
「このトマトなどもうすぐ収穫できますぞ!」
「我々が豊かに暮らせるのも聖王様のお陰です! ありがとうございます!!」
いやいや、皆が豊かに暮らしているのは、皆が懸命に働いているからですよ。
俺など、それにほんの少し手助けしているに過ぎない。
ところで皆が俺のことを“聖王”などと呼んでくる。
気づいた時には定着していた呼び名だ。
最初は農場王とか呼ばれることを期待していたんだが、かねてから聖者と呼ばれることが多かったので、『聖者にして王』というのが縮まって聖王と呼ばれるようになった。
……どうせなら“聖帝”と呼ばれるのもいいかなと思ったけどすぐにやめた。
愛などいる。
農場国で育てている野菜は、俺が『至高の担い手』で芽生えさせたものではない。
俺のギフトで発生した野菜は、種を宿すことなく一代限りだというのは前もどこかで話した。
農場国は、いずれ俺なしでも回っていかないので、俺なしで成り立たない要素はできる限り潰していこうという方針なのだ。
なので当初は国外から取り寄せた種を育てたが、案の定出来栄えはよくなく、それ以降試行錯誤が続いている。
品種改良に精力を注ぎ、研究所まで立ち上げたのもその一環だ。
交配を重ねて、育てやすく、病気や災害にも強く、たくさん実ってそれでいて味もいい品種を作り出すのだ!
何? 注文が多いって?
いいではないか目標は高いほどやる気が出るってもんさ!
ただ品種改良については、俺たちよりも先んじている人物がいた。
レタスレートだ。
アイツは、農場国の話が出るずっと前から、独自で最高の豆をみずからの作り出そうと研究を重ねていた。
その過程で、交配する品種によって丸い豆とデコボコの豆ができることの違いに気づいて、この世界ではそれが『レタスレートの法則』と呼ばれるぐらいだ。
それぐらい兼ねてから品種改良を研究してきた実績が重なって、彼女の保有する豆は品質特上で味もよい。
病気に強い豆、風が吹いても倒れない豆、少ない水でも育つ豆と逆に湿地や沼地でも健全に育つ豆、栄養少ない寒冷地でも育つ豆と、レタスレートの保有する品種は多種多様。
味もいいし栄養価も高いといいことづくめだ。
おかげさまで現在、農場国の主生産品はレタスレートから提供される豆だ。
主食にもなりえるからなおさら有難い。
現在レタスレートのヤツは、豆専門の運用会社『レタスレート&ホルコスフォン社』を立ち上げ、主に我が農場国と提携して巨万の富を築き上げている。
その財力は、かつての君主制人間国を確実に超えていて、いまや世界を裏から操作する財閥みたいな感じになっている。
亡国の姫君が出世したものだ。
これで興味は豆しかないというのだから無害で助かる。
まあレタスレートの相棒で共同経営者であるホルコスフォンが所有する子会社『天使納豆』がことあるごとに納豆浸食を引き起こしているのが問題といえば問題だが……。
……納豆浸食ってなんだ?
とにかく主産業の豆を武器にして、農場国は今日もメキメキ発展しております。
「旦那様ー、今日も農地の視察がかいがいしいわね」
おう、プラティ。
彼女も今や農場国の王妃。
ところによっては聖王妃などとも呼ばれる。
元々が人魚国の第一王女様だったのだから、元からどこぞの国の王妃となる素養は充分にあったんだが、それが収まるべきところに収まった感じだ。
プラティは、農場国王妃として充分すぎる働きを見せてくれた、当然のように。
魔女としての魔法薬研究で農場国の生産力向上に寄与し、王妃としても卓越した外交力で各国との繋がりを強固にした。
そしてかつ、母としても大いに実績を上げ続けている。
現在、俺との間に設けた子どもは総計六人。
三男ショウタロウ以後に男の子二人と女の子一人を得た。六人目でやっと女の子。ウチはそういう家系なのか? とやや勘ぐってしまった。
そんなプラティも今は農場国王妃、兼、農作物品質向上研究所所長として勤務に励んでいる。
農場からの通勤は転移魔法薬。
俺は魔法使えないからサカモトにホント助けられている。
「ふーむ、育ち具合はなかなかね、あとで肥料追加しておきますか」
プラティの主な業務は、肥料の作製と投与だ。
プラティ製の肥料を畑にまくと、それはもう凄まじいスピードで作物が育ち、実る。
それは農場時代からのはなしで、彼女が協力してくれたからこそ農場は毎日ペースで収穫できていた。
それは純粋にこの世界のテクノロジーなので、農場国でも遠慮なく使っていたが、今はその肥料作りにもひと工夫凝らされている。
原料を変えたのだ。
かつては魚型モンスターを素材にして作り出された漁肥であったが、今は驚きの新製品。
ドラゴン肥料だ。
きっかけはヴィールのヤツが持て余していたドラゴンエキス。
アイツはドラゴンエキスを元にしたゴンこつラーメンで消費を試みていたが、全人類に行き渡らせてもまだなくならない。
そりゃ消費されるたびに新しいのが届けられればな。
そこで切羽詰まったヴィールが、何とプラティに泣きついて協力を求めた。
あのヴィールが日ごろから張り合っているプラティに助けを求めるなど、よほど追い詰められていたのだろう。
そうしてヴィールとプラティ、奇跡のタッグで生み出されたのがドラゴン肥料。
人を超人にまで引き上げるほど栄養豊富なのだから、地面に撒いても効果凄まじいのは言うまでもない。
おかげさまで農場国の農作物の育成は三段飛ばし、驚異の生産量を支える秘密はここにあった。
でもまあ、それがあんな問題を生み出すことになるとはなあ。
そんな感じで農場は今日も平和です。






