1263 禁域の別
農場国や子育ての関係もあってここ最近は忙しい。
その間隙を縫って急に手透きになる時がある。
そんな時俺が軒先でボケェーッとしていると……。
『聖者様、聖者様よ』
ノーライフキングの先生が訪ねてらっしゃった。
おや先生。
こんな風にゆっくりお話しするのも久々ですな。
子どもたちも今はお昼寝中ですし、お茶でも飲みながらのんびりまったりしますか。
『実は試験を受けることになりました』
試験?
いきなりなんでしょう?
ああ、先生が教えている農場学校の生徒たちですか?
前にもあったなあそういうこと。
試験内容の凄まじさに見学している俺までビビったことを覚えている。
今回の農場生徒たちは一体どんな難関試験を受けることやら?
『いや、受けるのはワシです』
ふーん……えッ?
先生が試験を!?
アンデッドの王にして齢千年を超えるノーライフキングの先生が試験を!?
一体どういう経緯で!?
『前々から話は出ていたのですがな……』
『提案していたのは我々だよー』
ほぁッ!?
新たにキャラが出てきた!?
貴様は……天界神のヘルメス!
またアンタの仕業か!?
何かあった時は大抵アンタが裏で関わっていたりしているもんさ!!
『やめろぉ! ヒトをトリックスター扱いするなぁ!!』
うわ。
なんでそこでキレた?
キレるタイミングの読みにくい神様だ。
『今回私はすべての神々の代表として降臨した。この不死王をある提案を伝えるために』
提案?
先生に? 一体何を?
『前々から物議にはなっていてね。不死王たる先生はあまりに簡単に神を召喚しすぎる』
『ホッホッホッホッホッホ……』
『笑って誤魔化そうとしてもダメだよ』
たしかに。
先生は、ノーライフキングとしての極限魔力によって神を召喚することができる。
あまりに簡単にできているので忘れられがちだが、それは物凄いことで普通ならどんなに頑張っても土台無理なことなのだ。
一般の魔導士であれば千人集まっても無理。
必要な魔力量も足らなければ、繊細過ぎる魔法の制御も不可能だし、そもそも人類の軛から脱し、精霊界に片足突っ込んでいるノーライフキングだからこそその声を神界まで届かせることができる。
自分自身も神秘の存在であり、人の常識を遥かに超えた技と力を持つ先生だからこそ可能な異形なのだ。
いつだったか、魔国で神の下位互換である精霊を呼び出す儀式が行われたと聞くが、その時ですら魔族最精鋭の魔導士が数十人がかりだったという。
その話を聞くと、先生のしていることが以下に人外であるかが推し量れるというものだった。
そのことを理解した上でヘルメス神の解説。
『遥か昔、神々は何の制限もなく神界と下界を行き来していた。しかしある時をきっかけに神は下界に降りることを禁じた。神々同士による約定によって』
それはまたどうして?
『あまりに神々がフリーダムにやりすぎたことかなー。ちょっとカワイ子ちゃんを見かけたらすぐさま降臨してヤリまくって……。その結果子どもが生まれたら女神の嫉妬で厳しい人生を送るし周囲にも迷惑が掛かるし……』
その被害、あくまである特定の神だけが引き起こしていません?
『あまりにご乱行が目に余るということで、天地海すべての神が話し合い以降、神は人の世に立ち入り禁止となったわけだ。ある特定の父上はこっそり黙って降りればOKと思っていたのか大して抵抗もせずに同意したけど、万象母神ガイア様によってドギツイ制約がなされたため、どう頑張っても不可能になってたんだね』
『迂闊ですのう』
主にテメーを閉め出すための取り決めなんだから、テメーだけは見逃すわけねえだろうが、ってことか。
『以降、特定の父上だけでなく冥界神や海神までも地上に立ち寄れなくなった。まあ例外として私だけは神々の伝令という役割柄、特別に両界の行き来を許されているがね』
とヘルメス神。
しかしここ最近になって、その取り決めが無意味になる出来事が起きた。
そう、先生の存在だ。
『不死王たる先生の召喚に応えることで神々は地上に降りることができる。ある意味の裏技だね。神々は人間たちを見守り、時に助けてやらねばならない。だから人々が本当に望んだ時はその身を顕現する余地を残したんだね。まあ簡単なことじゃないけれど』
だから神々は、先生に召喚されることによってのみ地上に姿を現せるのだ。
しかしそれはルールの穴を突く行為であることは変わりない。
穴はいつか塞がなければいけないのだ。
『というわけで先生の存在は、神々の間で物議をかもしていたのだよかねてから』
『いやはや、趣味が高じてご迷惑をかけてしまうとは恥ずかしい限り』
『いえいえ!』
自省する先生に、慌ててフォローするヘルメス神。
『先生を責めているわけじゃないよ! 我々神だって抜け穴を利用して久々の地上をさんざっぱら満喫したんだし。……まあ、それでもずっとこのままってわけには、ねえ?』
非常に今更感があったがなるほど、神々にもそれなりの懊悩があったと。
先生に召喚されて降臨するたびに楽しんでいたものな。
主にウチの農場の料理を味わう方向で。
まあ遥か昔のゼウス神ぐらいに邪悪な目的での楽しみ方じゃなければ我らも大歓迎だけど。
しかしそれじゃあ収まらんのだろうなあ。
『その通り、神と人との距離が近すぎるのもそれはそれで問題なんだよ。なので久々に地上で降りれるこの時間はとてつもなく楽しかったけれど、どこかで一区切りにしないと……というのが神々の総意さ』
そうか……俺たちにとっちゃハデス神やポセイドス神も最近は騒がしくなってきたくらいだが、これっきり会えなくなるとなると不思議と寂しくなるものだ。
でも、具体的に召喚を止めるって、どうするの?
『神々を召喚するシステム自体は残しておかねばならない。先々、地上に神の援けが必要になる状況が来ないとも限らないからね。元々そのためのシステムでもあるんだし』
なるほど。
では召喚というシステムには手を加えずに今、気軽に神が降臨できるこの状況を是正するには……。
『そう、このワシをどうにかすることですな』
先生が言った。
『この神々を気軽に召喚できるのは、ワシの能力あってこそ。他のいかなる存在をもってしても、ここまでホイホイ召喚術を使える者はおりますまいて』
『まったくその通り、今やこの世界どころか異界の神まで召喚できるもんね。恐ろしい存在にまで極まったものだよ』
ここで問題のすべてが先生に集約されるってことか。
……待てよ、そうなると先生をどうにかしたらって話にならないか!?
それはちょっと……まさか!?
『安心したまえ、聖者くんが思っているようなことは我々は考えていないよ』
『心配いただきありがとうございます』
本当に?
神々の言うことだからいまいち信用しきれないのが悲しいところだが。
本当に先生をどうにかこうにかしないんだね?
ならホッと胸を撫でおろすところだが。
『神々だってそれなりの良識は弁えているよ。一部の天界神のせいで酷いイメージが先行しがちだけれど。善良で博識なる先生に無体なマネはけっして行いません』
そうだよな……。
悪いイメージほど急速に広まるものだもんな。一部の悪い印象のお陰で全体まで悪く見られるなんて……嫌な世の中だぜ。
しかしだとしたらますますわからなくなる。
神が気軽に遊びに来れるこの状況を是正するには、召喚主である先生を除いて考えることは不可能だ。
しかし様子を聞くに神々は、物騒なことは考えていないらしい。
では彼らは先生をどうしようというのか?
『うむ、そこで我々は先生にある提案をしたんだ』
ヘルメス神は言う。
『先生を新たなる神として神界に迎えようとね』






