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1261 両者の差は

 リテセウスくんから要請されて呼び出した人物は……。


 S級冒険者のコーリーくんだった。


「何事です!? クエストですか? クエストならギルドを通してもらわないと困るんですが!?」


 至極真っ当な主張に俺も申し訳なくなった。

 ごめんね、シルバーウルフさんにはちゃんと話を通しておくからね。

 事後報告だけど。


「悪いねコーリーくん。キミには大統領権限で直接クエストを出させてもらったよ」

「大統領権限……? まさかリテセウス大統領!?」

「クエスト内容だが、ドラゴン討伐だ」

「どぇえええええええええええええええええええッッ!?」


 コーリーくんも絶叫したくなろう。

 ドラゴンの討伐なんぞ冒険者ギルドの過去の歴史で発令されたこともない。

 だって不可能とわかり切っているんだから。


「はぁん? 何をしてくるものかと思ったら想像以上にしょうもなかったわね?」


 成り行きを見守り、鼻で笑うブラッディマリーさん。


「そんな小さなニンゲンを呼び出して、ドラゴンを倒す? 随分大口を叩いたものねえ、認識が甘いのはどちらかしら?」

「戦うのはコーリーくんだけではありません。僕も参加します」


 そう言って剣をかまえるリテセウスくん。


「そちらからも対戦相手のドラゴンを選出いただけませんか? 僕とコーリーくんの二人で相手をさせていただきます」

「ふ……、ニンゲン風情が思い上がったものね」

「あ、出来るだけ強くない方でお願いします」

「なんなのよ!?」


 思い上がっているのかいないのか、よくわからなかった。


『では、おれにやらせていただこう』


 と名乗り上げるドラゴン。


『我はグリンツドラゴンのドルパネラ! かつての十傑竜に名を連ねることはできなかったもののドラゴン族の威に恥じぬ豪者だと自負している。思い上がったニンゲンに、越えられぬ種の壁というものを教えてやろう』

「ではお手合わせいただこう」


リテセウスくん何を考えているんだ!?

 いくら何でもドラゴンに正面から挑むなんて無謀すぎる!?


「だ、大統領!? よくわからないんですけれど、とりあえず無理ですよ! どどどど、ドラゴンなんて出遭ったら逃げるしか……!?」

「キミのことは話に聞いているよコーリーくん。大丈夫だ、農場を信じろ」


 ドラゴン姿のまま襲い掛かってくる相手は、人から見れば巨人の進撃も同様。

 一揉みのうちに潰されて終わりとなりそうだが。


「いくよ……、聖魔の秘剣!」


 リテセウスくんの振るう剣、その刀身から眩い閃光が放たれ、ドラゴンに直撃する。


『ぐばっはッ!?』


 アレは、俺がリテセウスくんのために打ち鍛えてプレゼントした剣だな。

 まだ使っててくれていたのか。


 我が手製の剣だけど何故か聖剣と同等の性能になって、飛び道具も出せるんだよな。

 しかも今、その閃光がドラゴンの巨体を押しのけた!?


『バカな……ニンゲンなどに竜の攻勢を押しとどめる手段があるだと!?』

「さあコーリーくん、次はキミの番だ。農場に関わって培った力を出し切ってみなさい」


 呼びかけられてコーリーくん、『へへぇえええ……』と及び腰の表情だがそこはS級冒険者にまで抜擢された才能豊かな若者。

 すぐに腹を括って……。


「わかりました……、コーリー行きます! 気勁全開放!!」


 コーリーくんの全身から気っぽいものが噴き上がる!?

 いや実際、気なんだろうけれど……!


「コーリー、ウルフ・ヴァリン・ローキック!!」

『おごぼげばぁッ!?』


 コーリーくんの蹴りを食らって、ドラゴンひっくり返った!?

 とても立ってはいられない衝撃が走ったと見える!


『バカな、ここまでの衝撃をニンゲンが、ドラゴンに対して与えられるものか……!?』

「実戦中に考え事など、油断の極みですね」


 リテセウスくんがいつの間にやら、ドラゴンの頭上に陣取っていた。


 え? 浮いてる?

 どういう原理で空飛んでんの? 舞空術?


 そしてドラゴンさんの方はコーリーくんに蹴り倒されて上面にお腹丸出し、非常に無防備な体勢にあった。


「生物的に絶対優位にあるからこそ曝け出した油断。容赦なく突かせてもらいますよ。それが戦いというものですからね」

『えッ? あの……ッ!?』

「サテライト・ザッパー!!」


 おおうッ!?

 リテセウスくんの振るう剣から特大の閃光がッ!?

 本家閃光に勝るとも劣らない!?


 それをプニプニお腹に直撃を食らったんだからさすがのドラゴンも平気へっちゃらとはいかない!!


『ぐぉおおおおおおおおおおおッッ!? おご、おごおおおおおおッッ!?』

「寸前で防御結界で阻んだか。さすがに簡単には通らない」


 しかし防御体勢をとったせいでドラゴンは身動きが取れなくなった。

 あの状態から少しでも身じろぎすれば結界が消滅し、閃光をモロに食らってしまう。

 命中予想地点がお腹なのでいかなる生物にとっても急所。当たればダメージは免れない。


 となったらドラゴンさんが無傷で切り抜けるには、

1.結界大出力で閃光を押し返す。

2.リテセウスくんが息切れして閃光放出が収まるのを待つ。

 のどちらかだ。


 しかしどうやらリテセウスくんの閃光とドラゴン結界は威力が拮抗しているようで、押し返すにも不可能。

 さらにはリテセウスくんもまだまだ余力があるようで閃光に途切れがない。

 それどころかドラゴンさんの方が息切れして、先に結界を消失してしまいそうだ。


 しかも忘れてはいけない。

 闘場にはコーリーくんもいるのだ。

 彼は完全フリー、閃光を食い止めるのに精いっぱいなドラゴンさんは、彼が何をしてきても阻止する手立てがない。

 脇でもくすぐってこようなら……、結界を維持できなくなって閃光モロ浴びするかなあ。


 絶体絶命。

 そこへ……。


「このぐらいにしておきましょう」


 リテセウスくんが閃光を止めた。


「これ以上やればどちらかがケガをする。そこまでの深刻さは求めていませんので」

『た、助かった……!?』


 本人(竜?)が漏らした言葉の通り、流れは完全にリテセウスくんの側にあった。

 あのまま続けていたら確実に人類チームの勝ちで終わっていただろう。


「情けを掛けたつもりかしら? 生意気なニンゲンね」


 その一方でブラッディマリーさんは、種族的プライドを傷つけられたのかかなり不機嫌。

 鼻の頭に皺が寄って獣じみた表情。

 今にもドラゴンの姿に戻りそうだ。


「やめなさいマリー」


 それをアードヘッグさんが止めた。


「リテセウス殿やコーリー殿は、みずからの力を示しつつドルパネラを傷つけぬよう配慮までしてくれた。見事と言わざるを得ぬ」

「あなた……」

「ドラゴンは絶対強者。いかなる生物も比肩どころか追随もできない。そんな考えは古くなったようだ」


 た、たしかに……!


 考えられる可能性は……ヴィールのせい?

 アイツ、ドラゴンエキスがたっぷり含まれたゴンこつラーメンを世界中に配り歩いて、もはやラーメン食べてない人がいないぐらい。


 そして世界中の人がゴンこつラーメン=ドラゴンエキスを摂取したことで世界生物の総体的なレベルが底上げされているという。

 ――『戦闘力たったの五十三万? ゴミが』ぐらいのレベルで。


 そしてその変化は、ドラゴンエキスを由来としている以上ドラゴン自体にはお及ばない。


「それに加えて僕とコーリーくんは農場で特殊な訓練を受けていますので。人類の中でも飛び抜けた存在と言えるでしょう」

「……」


 何も答えられないブラッディマリーさん。


「もちろんすべての人類がそうとは言いません。でもかつては、最強の人類をもってしても最弱のドラゴンも倒せませんでしたが、今の時代なら最強の人類で最弱ドラゴン程度ならどうにかなるぐらいに両者の差は狭まっています」

「くッ、たしかに……」


 その言葉がホラなどではないことは、今の勝負を見れば瞭然だ。


「両者の実力差が縮まれば、圧倒的な力で形作られた秩序は崩れて混沌が始まる。お互いにとって不幸な時代が始まるでしょう。その前に新しい秩序を用意しておくべきではないですか?」


 それが人と竜との国家間交易。

 国家という枠組みと法によって、互いが傷つかない秩序を創り出す。


「……元々人類は可能性を秘めていた」


 皇帝竜たるアードヘッグさんが言う。


「先代ガイザードラゴンである父上を討ったのはおれだけではない。アロワナ殿やパッファ殿の協力あってのこと。その二人はれっきとした、この世界の人類なのだから」

「ううッ、アナタ……」

「リテセウス殿の提案、前向きに検討しよう。どうやら我が娘だけでなく、竜族全体の未来のために考えなければならない時間のようだ」


 アードヘッグさんは話せばわかるドラゴンなので、すんなり進めてよかった。


 それを傍から見つつ……。


「リテセウス殿は、為政者として目ざましく成長しておるなー」

「もう彼の時代ではないですかな?」


 魔王さんとアロワナさんが平和そうに煎り豆を貪っていた。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
最強生物の因子を ゴンコツラーメンという形で摂取した結果 人間もその因子を持つようになったんですな つまり「大体ヴィールのせい」
ラストにサラッと煎り豆!レタスレートォォ!!
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