1259 宰相バトルロイヤル
ツッコミどころは様々ある。
というかツッコミどころしかない。
竜の国を竜帝夫妻が立ち上げるところまでは……まあ喉につっかかるかもしれないがギリ飲み込める。
そのために現存のドラゴンたちを呼び集めて建国宣言するのも……まあ、まあ人間に置き換えても長い歴史で一度ぐらいあったかもしれない。
しかしながら……そのあと戦いで決めようとするのがわけわからん。
わけがわからんッッ!!
あまりにわけがわからな過ぎて二回言ってしまった大声で。
話が一向にわからん!
「そうね……例えば聖者さん? 臣下の中で一番偉い者のことはなんというのかしら?」
「副王とか?」
いや、王に次ぐ権力者といえば時代地方情勢によってさまざま変わるけれど……!
それに王に次ぐ者として王妃が挙がる場合もあるし……。
「まあッ、そうよね! 皇妃竜たる私こそがアードヘッグの脇を固める最高権力者よね。……じゃなくって!」
何故かノリツッコミを食らった。
「その次! その次よ! いわゆる王族? ってのを除いた凡百民草の中からっていう制限内で一番偉いのは誰かって聞いているのよ!」
言い方ァ。
凡百なのか一番なのかがますます矛盾でわかりづらいが、いわゆる位人臣を極めるところで言ったら、やはり宰相になるんじゃないかな?
「宰相?」
そうそう。
人の社会でいえば魔国宰相ルキフ・フォカレさんや人魚宰相ゾス・サイラがいるだろう?
彼らは各国の家臣を代表し、王の政治を補佐し、時には王の代理として政治を執り行うことすらある。
国家のナンバーツー、王権の代理人、王佐。
それが宰相という存在!
「ベネ(良し)! それいいわ! 採用! じゃあお集まりの竜たち、こうしましょう!」
ブラッディマリーさん、一旦息を止めて沈黙を作ってから……。
「今からアナタたちには、竜の宰相を決めるために戦ってもらいます!!」
目標が定まった!
でも全体的に訳がわからないが!
「王に次ぐ者、第二位の竜! それを巡って今いる竜たちで争い合うのよ! 竜の国を作るためにも国内二番手、家臣の中の一番を決めるのは避けて通れない! そのために殺し合いなさいッ!!」
なんで!?
殺し合いWhy!?
竜の国からもう俺の理解力が許容量パンパンなのに、そこでさらなる非条理をブッ込んでくる!?
何故戦う!? 何故殺し合う!?
もっと平和裏な話し合いとかで決められないものですか!? あるいは選挙で、多数決で総裁選で!?
それが平和な物事の決め方なのでは!?
「……それがドラゴンという生き物なのです聖者様」
アードヘッグさん!?
アナタも皇帝竜という立ち位置ならばもっとまとめるとか治めるとかなさらない!?
「いいえ、元々ドラゴンは本能から闘争を求める生き物。それは思い上がった神を誅するというドラゴン本来の役割から来ているのか、最後の一体まで殺し合ってガイザードラゴンの座を求めようとする本能の名残か……」
その時代も終わって新しいステージに行こうとしてるんでしょう!?
捨て去って! 古い因習!!
周りの呼び出されたドラゴンさんたちとて、何が起こっているのかまったくわからない大変迷惑な状況でバトロワなんて受け入れられないんじゃ……!
『……大変面白い、やりましょう』
受け入れた!?
古くからの本能の勝利!!
『ガイザードラゴンの座はアードヘッグ殿にお譲りしたものの、それに次ぐ席を用意してくれたとあれば奪い合わずにはいられない。……このグリンツドラゴンのシャルルアーツ!! かつて十傑竜序列二位を名乗っていたことに即して二番手の竜の座をいただこう!』
『あいや待たれよ!!』
他の竜たちまで盛り上がり。
『過去の序列など関係ない! チャンスを貰ったからには誰もが平等! となればこのかつて十傑竜序列十位であったクロウリー・シーマにも勝者となる資格はある!』
『さすればこの元十傑竜序列四位のロゼにも!!』
『いいえ序列五位であったこのブラウディにも!!』
次々と名乗り声が挙がって怖かった。
「はぁー、だったらおれ様も勝負に参加してやろうかな? 腑抜けた新世代どもに、原始皇帝竜の恐ろしさを体験させてやろうか!」
そう言うのはテュポンさん!? アナタまで参加していたのか!?
農場国でダンジョン経営するようになってから社交性が増したな。
「おれ様だけじゃなくてアレキサンダーも来ているぞ。ホラあっち」
えッ!? マジで!?
本当だ、人間形態で先代ガイザードラゴンのアル・ゴールさんとお酒を酌み交わしているじゃないか!?
本当にドラゴン大集合、想定外のスケールになっている!?
「それだけあの夫婦の意気込みが半端ないってことだな。でもぶっちゃけ当人たちも勢いにのぼせ上ってる感はあるけれど」
俺もそう思います。
大体、第二位宰相の地位を決めようったって、そのための手段を戦いにしたら以前のガイザードラゴンを殺し合いで決めていた頃と変わらないじゃないかい!!
国家という秩序を形成しようとしながら、暴力が支配する世紀末に逆戻りだ!!
『よぉし、では行くぞ! 先手必勝のドラゴンタイフーン!!』
『愛する妻ティキラーのために宰相のビッグネームを手に入れて見せる! クロウリー・四万十川大洪水!!』
いきなり始まるドラゴン大抗争!!
前触れもなく始まってルール無用だから、ただひたすらに大乱闘スマッシュドラゴンズ!?
うわぁあああ、やめろやめろ!
抗争の飛び火が降りかかる!? ここどこだと思ってるんだ農場だぞ! 俺たちがノンビリ平和に暮らしていく場所だぞ!
そこをとばっちりで破壊しようなんて……!?
『おれ様の怒りに触れる覚悟があるんだろうなぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?』
『『『『『『ぎゃひーんッッ!?』』』』』』
叩きつけられる怒号。
見上げるとヴィールが……ドラゴンの姿になり散らかしたヴィールが来光と共に降臨した。
その姿、神々しいばかり。
『やっとジュニアとノリトと、そこのバカ夫婦の娘がお昼寝に入ったのでプラティに任せて来てやったのだ。ヒトん家で暴れる無作法者はテメエらかぁー!!』
『『『『『『えひぃいいいいいいいッッ!?』』』』』』
さすがヴィール。
一喝の迫力は同じドラゴンも震え上がらせる。
実力的にもアレキサンダーさんを除けば全ドラゴン中ほぼぶっちぎりで最強というわけわからない立ち位置のヴィール。
お前がガイザードラゴンにならないの? なんでなの?
という疑問の声は大きい。
『大体そこのお前ら! ことの発端!』
「「はいッ!?」」
ヴィールが指さしたのは、アードヘッグさんとブラッディマリーさんの竜帝夫妻。
『お前らが何事も勢いで決めようとするから問題がバチ上がるのだ! いいか、国を作るって言うのはお前らが考えるよりずっと面倒臭いんだぞ! 実際に国作りで死ぬほど面倒くさそうにしているご主人様を、すぐ傍で見続けてきたおれ様だからわかるのだ!!』
ヴィール……!?
俺の悪戦苦闘をそんな風に見続けてくれる人がいたなんて。
飛び火で我が苦労が報われた満足感が……!?
『ご主人様が味わってきた面倒くささはな……! それはもう、それはもう面倒くさいんだぞ! おれたちドラゴンが耐え切れないレベルの面倒臭さ! あんな面倒臭さ……おれだったら……おれだったらもう耐え切れなくなって全部ぶっ壊してやるのだ!!』
ヴィールが想像するだけで忍耐を全消滅させる。
ありがとうヴィール……キミが代弁してくれるだけで俺の苦労が強化されている気がして救われるよ!
俺の積み上げてきた苦労は、実績は、無駄じゃなかった!!
……そういう話じゃなかったね今は。
『アードヘッグにマリー姉上! 貴様らが本当に国を作ろうというなら、その大変さをもっと親身になって知る必要がある! そこで特別ゲストをご招待したのだ!!』
え? ゲスト?
急に俗っぽくなってきた。
『ゲストの魔王と人魚王とリテセウスだ!!』






