1258 竜の王国
訪問しているブラッディマリーさんがとんでもないことを言い出した。
竜の国を作る?
国家?
ステイツ?
「そうよ! よくわかんないけれど!」
よくわからないのに断言するな!
関西人か!
「ねえねえ聖者アナタもなんか最近、国を作ろうとか言って大騒ぎしているそうじゃない!?」
はい、まあ……。
僭越ながら……!
「アナタたちニンゲンにできることが我らドラゴンにできないはずがない! 私たちは竜の極大王国を築き上げ、その頂点にボウアちゃんが君臨するのよ! これこそ次世代の女皇竜になるボウアちゃんに相応しい未来予想図!」
国作り舐めんなよ!
……いやまあ、俺も当事者なので思わず感情的になってしまったが……。
でもブラッディマリーさんの言うことは突拍子もないだけに細部が大味で、とても現実的に見据えているとは思えない。
そこが最強生物ドラゴンならではと思うところ、夫君であるアードヘッグさんはどうであろうか?
彼はかつてアロワナさんと一緒に諸国漫遊した経験があるだけ、ドラゴンにしては良識を備えていると期待したいが……。
「ボウアちゃんが支配する王国……素晴らしい!」
ダメだ、良識より親バカの方が勝っている。
同じ親として気持ちはわかるが……。
……そうだ、ウチのジュニアたちも未来の農場国の王子様なんだぞ!!
「これまでドラゴンは、個々が好き勝手に振る舞い暴虐と買っての限りを尽くしてきたわ! それも当然、ドラゴンは世界最強の生き物なんですから!」
「最強である分他者からの助けを必要としない……すなわち群れる必要がない、それがドラゴンだった。しかもかつての生き方に則れば、いずれは殺し合って最後の一匹になるまで闘争する定めのドラゴン」
それがかつてのガイザードラゴンの選出方法だったからなあ。
世界最強の生物だからこそ、過酷な生存方法が課せられていたのだった。
「でも時代が変わり、そんな殺伐とした世の中にボウアちゃんを送り込みたくないのよ! ボウアちゃんにはもっと夢も希望もある未来がお似合いなの! そして、聖者アンタそういうの得意でしょう!? 夢も希望もある未来を作り上げること!」
左様でしょうか?
俺自身はそんな意識など少しもないのですが……たしかにハピエン以外は絶対認めん、という一面はあるようですけれども……。
まあ、たしかに争いやら無秩序から弱き人々を守るために国家という枠組みがるのもまた事実。
弱い人間は、群れを作ることで自然の脅威と渡りあうようになれる。
群れという形態の最強究極形態が“国家”という話なだけだ。
その点最強生物であるドラゴンにそうした仕組みが必要なのか? と自問自答したら容易に答えが返ってこないんだが……!
そこんところ本人たちはキッチリ考えてるんだろうか?
考えてないんだろうなあ。
きっとそうだろうなあ。
そしてヒートアップする本人らの主張に戻る。
「そこで未来の王様である聖者に、国とやらのことをいろいろ尋ねに来たのよ。さあ、国とはどうやって作るのか軽くレクチャーなさい!」
「どうかお願いします聖者様!!」
そんな気軽に言われても。
どうやって国作りをしていけばいいかなんて、むしろ俺の方が教えを請いたいところなんですが!?
三顧の礼を払ってでも!
とはいってもこの竜族夫妻、キラキラと純度百パーセント期待のまなざしを向けて俺のことを見詰めてくるのでそう無下にはできない。
……俺なりの国家論でもってそれっぽくまくしたてるしかないか……。
「そう……国作りで最も重要なのは……!」
「「ほうほう!?」」
「人!!」
そう、人材とは宝!
人が集まり、集合体を形成することで群れは出来上がり、法と設備が群れを国家へと進化させる!
しかしやっぱり根源は人なのだ!
優秀かつ真心ある人材がどれだけいるかで国家の強度も決まる!
人材を蔑ろにしてできる組織、社会、国家もクオリティはお察しというものだ。
だからこそ国家にもっとも重要な要素は人!
構成子を蔑ろにしてブロックは積み上がらないのだ!
人は城! 人は石垣! 人は堀さん!
「な、なるほど……! さすが聖者の言うことは一味違うわね!?」
俺の熱弁にブラッディマリーさんも圧倒されているようだ。
単にテンションに押し切られただけなのかもしれんが。
「聖者様の言う通り、我々ドラゴンも優秀な人材……もとい竜材を求めましょう! それらが力を合わせて竜の王国……すなわちドラゴンキングダムが完成するのです!」
ドラゴンキングダム!?
めちゃくちゃどこかで聞き覚えがあるようなフレーズ!?
「その優秀な人材が、これからボウアちゃんを守っていくって言うことなのね! 素晴らしいわ優秀な人材! これこそが私の求めていた展開!」
「では早速、未来のドラゴンキングダムの担い手に相応しい優秀な人材を集めよう! ガイザードラゴンの強権を用いて! すべてのドラゴンはおれに従え!」
「きゃあッ! そんなオラオラのアードヘッグも素敵だわ!!」
この竜皇夫妻、互いの理想と楽しさでヒートアップが付き詰まっていく。
俺もドラゴン一般との付き合いが長いせいか、わかるよ。
こうなったらもう行き着くところまで行かないと収まらないんだなってことが。
「はぁー、なんでドラゴンっていうのは歯止めが効かない生き物なんかなー?」
ヴィールが、ボウアちゃんをあやしながら嘆息を漏らしていた。
そんなドラゴンの習性を一番俺に教えてくれたのはお前なんだがなヴィール?
ヴィールが抱き上げている赤ちゃんの下へ寄ってくるオトコどもが……。
「ボウアちゃん起きたー?」
「ボウアちゃんと遊ぶー」
ジュニアとノリト……。
そんなに年下の女の子に興味津々で、パリピに目覚めたか!?
「そうかー、じゃああっちの阿呆どもは暴走するに任せて、あっちで皆で遊ぶのだなー」
機転を利かせたヴィールが子どもたちを連れて、別室へ移動していった。
ナイスな判断だ、ヴィール……!
* * *
……ほどなくして。
どうしてか農場に、多くのドラゴンが結集した。
何故ここに?
集めるにしてもアナタ方ドラゴンの本拠とか他にフィールドはあるように思えるのですが?
しかも数にして数十はいるから、上空がクソほど物々しくなってる。
もはや大抵の異常事態に適性のある我が農場の住人たちですら、おっかなくて腰を抜かしかけてるんだが。
やめてくださいませんか!?
集会を行うには、現地自治体への届け出が必要なんですよ!
『マリー姉上、こたびの招集は一体どのような用向きで?』
ドラゴンの一体が、ドラゴン姿のままで問いかける。
『我ら竜族、既に当代のガイザードラゴンであるアードヘッグを認めている以上、命じられれば従いますが……それでも意味不明な命令には承服いたしかねますぞ?』
『左様、我らとて最強生物の矜持がある』
ドラゴンさんたちのおっしゃる通り。
王様だからってあんまり強権連発してたら民衆の不満を呼び、革命と繋がって挙句には断頭台の露と消え果てるのが世の常なんですよ?
「フッ……吠えるでないわよ。所詮アナタたちは頂点に立つまでの熾烈なレースに競り負けた敗北者。次代のガイザードラゴン選抜競争に勝利したのは、我が夫アードヘッグであることは紛れもない事実」
『うぐッ、それを言われると……!?』
「我が最愛の夫アードヘッグであることは紛れもない事実!!」
『そこは念押ししなくていいから』
一般ドラゴンの皆様も、ブラッディマリーさんの暴走する愛情に及び腰。
「ともかく熾烈な生存競争の勝者アードヘッグから見ればアナタたちは王者に屈服する存在。王より下の……いわば民竜であることを自覚しなさい!」
ブラッディマリーさん!?
民衆を煽るような発言は王政崩壊を早めますよ!!
謙虚! 支配者にこそ謙虚さが必要!
「今日、アナタたち民竜に集まってもらったのは他でもないわ。私たち竜族が新たなるステージへと進化するために、素敵な提案をしたいのよ」
『ほう』
「私たち竜帝夫妻は、このたび竜族による竜族のための国を築き上げることにしました! つきましては同じく竜族であるアナタたちも竜の国の民! 強制的に入国し、竜の国のために身を粉にして働きなさい!!」
『全然我々のための国のような気がしないんですが?』
民主国家のフレーズぶっ込んで奴隷国家を築き上げようとする。
「ですが、新たなる竜の国に無能者はいりません。国家が求めるのは能力のある臣下、即ち能臣。そこでアナタたちが能臣であるか否かを、ここで試験しようと思います」
どうやって?
「無論……戦いによって!!」
またすぐ戦いに繋げようとする。
ドラゴンの思考は、少年漫画に極めて近しいのであった。






