1255 話は戻る
『ゼウスが消えたからには封印空間も必要なくなるなー。解体する?』
『しかし今はアテナも封印されてるんだろう? ヤツを閉じ込めておくためにも封印空間は依然として必要なのではないか?』
『でもアテナも邪神に取り込まれてたようだぞ』
『えッ? そうなん?』
『邪神の体表からアイツの尻だけ浮かんでたのを見かけた』
『じゃあ、いっかー』
神々が話し合うのを余所に、元からこの場にいた人間たちは呆然と立ち尽くすしかなかった。
そりゃー目の前で神界大戦を繰り広げられたらなー。
「何が起こったんだ……!?」
「神々の戦いを、この目で見ることになるなんて」
「今日起きたことを書き記す……子々孫々に語り継がせるために……」
元々は新路線の誘致合戦で集結した各地の領主さんたちだが、思いもよらずに大事に巻き込まれて皆呆然としていた。
そりゃ魂消るよなー、神々の大戦なんて見せられたら。
……。
そうだった。
今日の主題は新路線を決めることだった!!
異世界鉄道の新路線!
それがなんか立て続けに思いもしないことが起きすぎて、すっかり初心が忘れ去られてしまったじゃないか!
ちょっと順序だててまとめ直していこう。
新路線を決めるのに皆、殺気立ってトゲトゲしていたのは邪神ゼウスのせいだったんだな?
ヤツが放つ精神汚染(?)のようなもので人々は平静さを失い、知らず知らずのうちに違いを憎み合い争うようになった。
あのまま続いていたら本当に戦争が起きていたかもしれない。
せっかく平和になったのに。
改めて考えるとなおさら酷いヤツだったな。
永遠に封じられていればよかったのに。
『今となってはそれ以上にツラいことになっているからな。自業自得と言えばまさしくその通りなのだが……』
『神といえど自分勝手に振る舞えば報いが待っている。我らも教訓とせねばならんな』
ハデス神とポセイドス神が自戒風に呟くのだった。
神々の自省はそれぞれでやっていただくとして、人間も人間たちの話を進めよう。
「皆さん、我々の話し合いには思わぬ邪魔者が紛れ込んでいたようです。その邪魔者も神様たちの協力で排除することができました」
これで改めてまっさらな気持ちで話し合いを始めることができる。
そう、あくまで話し合い。
皆さんの意見を聞かせてもらえば……。
「たしかに路線を引けなければ利益を逃すことになるが……」
「人間国、魔国自体が便利になり、利益が上がることに変わりない」
「そうだ自分が得することばかり考えていてもダメではないか!」
「選から漏れた領には、何らかの補償政策をとるのはどうか? それで不公平感を可能な限り払拭する!」
「そうだな! 隣領に駅ができるだけでも、それなりの利潤は得られそうだしな!」
「助け合っていくことが大事!」
そうです! そういうのを求めていたんですよ俺は!!
邪神の妨害さえなければ、皆で平和裏な道を模索することだってできたんです!
今それが証明された!
やっぱり人類は愚かではなかった!
ビバ人類!
ハラショー人類ッ!!
アンビリバボー人類ッッ!!
『ううむ、人の子たちよ賢明たる生き物よ』
『汝らを見守る存在として鼻が高いぞ!』
神々もその様子を見て満足げだ。
奇しくも神々が確認する中で、平和の約定は果たされた。
歴史的なシーンだった。
「すべてがつつがなく進んだもの聖者様のお陰ですぞ!」
えッ?
俺っすか?
「邪神を追い詰める聖者様の雄姿! 感動的でした!!」
「世界を統べると言われる聖者様の御力、この目で確かめることができて僥倖でした!!」
「ドラゴンすらも従えると言われていたのは、間違いではなかった!!」
「このようなお方が世界の守り部についていただけたなら安泰です!」
「今日あったことを書き記します! 子々孫々に語り継ぐために!」
なんか人々からの俺への好感度的なものが爆上がりしている!?
俺としても今回は大人げないなあと思ってしまった行動だが。自分でもびっくりするぐらいゴリゴリごり押しのゴリラプレイだったからなあ。
俺も多少は邪神の精神汚染を受けていたのかもしれない。
俺はいつでも平和的に解決する男なんで、子どもたちには見せられない振る舞いだったな。
そういう意味では、今日子どもたちを連れてこなくて本当によかった。
ここは……少しでも俺の印象を修正しようと、理知的に語り掛けるぜ。
「皆さん……争いからは何も生みません。平和、それこそがマスターピース」
peace(平和)とpiece(断片)を掛けたわけではありません。
しかし歯の浮くようなセリフだわ。
こんなこと堂々というヤツがいたら、俺だったら絶対信用しない。
「皆でこの平和を守り抜いていきましょう。様々な試練を乗り越えて築き上げた平和を、俺たちは次の世代へ譲渡さねばならない」
そのための王都~魔都の新路線建設ということで……。
初期の理念を大切に、話を進めていきましょう。
おー!
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」」」」
先にも聞こえた雄叫びだが、今度のものは熱狂や闘争本能ではなく、理性と希望からくるものだと願う。
「そうだ! 聖者様の言う通りだ!」
「圧政に戦争……辛い日々を生き抜いて平和を手に入れた我々が、それを蔑ろにしてどうする!?」
「やっと訪れた平和な時代を、もっと強固なものにせねば!」
口々と言い合って、団結を深める領主たち。
そこからやっとこさ、建設的な話し合いが始まった。
* * *
そうして小一時間ほど経過し……。
すべてが決定した。
新路線も、地形の関係から完全に真っ直ぐというわけにもいかないが、出来うる限り最短で王都と魔都を繋げられるようになった。
選出から漏れた領だが、競合した相手量との話し合いを重ねて……。
『路線が引かれて多く運ばれてきた分の物資を優先的に回す』
『共同して新事業を始める』
『上がった収益で、公共事業を計画する』
と言った補填策を行うことになった。
これで不公平感が少しでも薄れてくれたらいいんだが……。
ともかくこれで異世界鉄道新路線は着工することができる。
世界がよりよい形になるための前進ができたのだった。
『うむ! 素晴らしい!』
『人類がみずからの手で発展の道を切り開く! 素晴らしきかな!』
神々、まだいやがったんですか?
もう用は済んだんだからおかえりになっていいものかと?
『いやいやいや、我々には事の顛末を見届ける責任があるでな』
『そう何しろ、守り神となる土地に関することなのだから』
?
何のことでしょう?
守り神になる土地って、ここは農場国の農場駅前ですが……?
この土地を誰が守るか、決まったんですか?
『いや、まったく決まっていない』
『これから決めるところだ』
そうなんですか?
まあ、新しい土地だし、守り神様がいてくれたらそりゃもう助かるんだけども。
『だからこそ! こうして危機に駆け付けたというわけだ!』
『どうだ聖者よ!? 邪神を打倒した我々は頼もしかっただろう! 我々の中から誰を守護神に選ぶのか、聖者直々に指名してくれてもいいんだぞ!』
はあ?
『真っ先に駆け付けたのは余だし、余こそを選んでくれるのがお得ではないか!? そなたの土地に危機が現れれば、二十四時間いつでも駆けつけるぞ!』
『いやいや、トラブル対処の手腕もまた注目すべきでは!? 私がゼウスのヤツを叩きのめした雄姿は、好印象に映ったと思われるが!?』
『いやいや、あの邪神にもっとも効果的な一撃を食らわせたのは私と言っても……!!』
神々どもが醜く言い争っている。
せっかく人々の話し合いが上手くまとまったというのに、新たな揉め事が……。
もしかして最近神々が静かだったのって、こうして農場国の守護神になる権利を巡って醜く争っていたから!?
人々はしっかり決めたのに、神々がまた見苦しいものだった。






