1253 異世界聖衆来迎図
おおおおおおおおおお……!
天空に……!
数多くの神が鎮座して並びましている……!?
その数、膨大……!
これこそが八百万の神様ってことか!?
『ヒィッ!? ヒィイイイイイイイイイイイイッッ!?』
それを見て恐れおののくゼウス神。
それもそうだろう。これらの神は偏に封印から抜け出した邪神ゼウスをとっちめるために。
これだけのために神が大集合したってことなのか!?
『いや待て! あるいは現世に復活した余を祝いに、これだけの神が降りてきて「おかえりゼウス様パーティ」を……!』
『そんなわけあるか』
邪神ゼウスの僅かな希望をしっかりと踏み潰す。
『己を知れ……お前と再会するなど、これ以上に不快でおぞましく、心を荒ませる出来事があるだろうか?』
『お前と兄弟神と言われるたびに耐えがたい屈辱を感じている我らに謝れ』
ハデス神とポセイドス神が、ヤツの兄弟ということで代表して話しているが、それこそ不快そう。
常に眉間にしわを寄せている。
『神を滅ぼすなど容易なことではないから一億年くらい封印して様子を見ようと思ったが……結局それ自体が徒労であったな』
『元よりこのクズの辞書に“改心”という言葉はない。こんなクズとの決着を面倒臭がり、避けに避けてきた我らにも落ち度はある』
血を分けた兄弟神に対して情け容赦の欠片もない言動。
『そ、それはいくらなんでも言い過ぎではないか兄弟!? 我ら三神協力して、古き世代の神から覇権を奪い取るために奮戦したではないか! あの時一緒に頑張った苦楽を思い出せ! な!?』
『その時、覇権を奪われた神がここにいるんだがな』
『しびぇええええええええッッ!? 父上ぇええええええええええッッ!?』
あッ、クロノス神だ。
旧世代のティターン神族として彼も当然、あの神様大集合の列に加わっていた。
長い長い期間を経て出所してからは、あの親子神、大の仲良し。
特定の兄弟神の仲とは対照的だ。
『かつて争い合った我々が手を取り合うほどに、貴様の行いが酷いということだ。己が自由を取り戻すために深淵の邪神まで呼び寄せるとは……! 数千数万年の間タルタロスに幽閉されていた私でも、こんな邪悪なマネはしなかったぞ!』
『でも聞いてパパ……、ボクは不当に……!!』
『だまらっしゃい! どうやら、こないだ抜け出したときのお仕置きでは足らなかったようだな! ならば私はオリュンポス神族の父として、出来の悪い息子に指導をしなければならない!』
『ぐ……ぬぉおおおおおおッ! 驕るなよ! 遥か太鼓のティタノマキアでお前らが敗北したことを忘れたとは言わさぬ! ここで再び負けるがよいわぁああああ!!』
ゼウス神、融合したタコ触手をざわめかせる。
気持ちわるッ。
それを伸ばしてクロノス神を掴み取ろうとしたのだろうが……。
『お前こそ忘れたのか?』
『その際は我らがお前側についていたこと。そして今はお前の敵に回っていることを!』
しかしハデス神とポセイドス神が間に割って入り、タコ触手を片っ端から切り刻んでいく。
『うごッ、なんでッ!?』
『だから何度も言っているだろう。今回に関してお前は我らの敵だ』『もっとも父上を封じてからずっとお前とは敵対関係にあったがな』
そして海と冥界の兄弟神に迎撃を任せたことで父神の進撃は始まった。
『私が時を止めた』
『ぬぐおッ!?』
『わかっているなバカ息子。我がサブ神性……時を操作する能力でお前はもう動けない。最後までな』
『待ってパパ! 親が子どもに手を上げるのは児童虐待……!』
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッ!!』
『ぐっばはぁああああああーーッ!?』
時止めからのオラオラッシュ!
伝家の宝刀で吹っ飛ばされた邪神ゼウスは涙目で転げまわり……!
『くっそう! オヤジにも殴られたことなかったのに! 子どもを殴るなんて最低だ! 児相に訴えてやる!』
『でしたら……子どもが親を殴ってはいかがな?』
『何ッ? お前はッ?』
邪神ゼウスの前に、新たに立ちはだかる猛き神。
その雄々しき姿を持った男神は……。
軍神ベラスアレス!?
『お久しゅうございますな父上。かつて私を「醜い」と罵り見下してきたアナタですが、今はアナタの方がよほど醜い』
『我が息子よ! 余を助けに来てくれたのか!? さすがは親子の絆は強い……!?』
『軍神ラリアット!』
『ぐべええええええええええッッ!?』
吹っ飛ばされた邪神!!
あれほどの巨体を吹っ飛ばすなんて、さすが戦争の神!!
『父上……アナタは、その浮気癖でたくさんの子女を生み出した。それこそ両手でも数えきれないほどにな。その中で自分の気に入った子どもだけを偏愛し、逆に意に適わない子を冷遇してきた……!!』
ベラスアレス神が穏やかな声で言う。
『特にヘパイストス……あの兄弟を父上は特に冷遇したな。オリュンポスの天界から投げ落とし、何とか戻ってからも母上と共謀し嫌がらせしてきた。アフロディーテなどという奔放な女を無理やり娶わせて……。ヘパイストスのような奥手の男と相性がいいわけあるまいに……!』
『いや、アイツの結婚に関しては余は何も……』
『私に関しても……溺愛するアテナに戦争の華々しい部分だけを割り当て、それ以外の陰惨な部分、厄介な面をすべて私に押し付けてくれたな。おかげで、それなりの権能を受け持つことができたがな』
ベラスアレス神が差し出す手から、何かが湧きだしてきた。
とても禍々しい何かが。
『我が右手に宿れ敗走、我が左手に宿れ恐慌。……父上よ、アナタとアテナが忌避した力、我が身をもって味わってみるといい』
『いやあのッ! ちょっと待って……! 余はお前の父だから……!』
『親子など関係ない。この世界を見守る神としての役目を果たす。……絶対敗北撃!!』
『ぎゃあああああああああああッッ!』
ベラスアレス神が放つ敗戦の惨気。
それがゼウス神に襲い掛かり、細胞レベルで食い尽くしていく。
『あぎぃいいいいいいッ!? 気持ち悪い! おぞましい! この体が食い尽くされるぃううううううッッ!?』
『アナタは美しいもの、華々しいものばかり好み、その裏にある闇から目をそらし続けてきた。どちらも表裏一体であるというのに。この世のすべてと向かい合う心胆を持たぬものに、主神を名乗る資格はない!!』
『ぐえぁああああああああああああッ!!』
ベラスアレス神、強い。
さすが戦争の神。
敵軍にとっては恐怖と死の象徴、その在り方を邪神ゼウスへ完璧なまでに示している。
『ぐのぉおおおッ! ベラスアレスめ、ここぞとばかりに余に逆らいおってぇ……! 依怙贔屓されたことがそんなに腹立たしいか、心の狭いヤツ……』
『……』
『ん?』
さらにベラスアレス神の後ろから現れた新キャラ。
あの神も見覚えがある。
あの長髪でお耽美な外見は天界の神……芸術神アポロン!
『おおッ! アポロンお前こそ余がもっとも愛する最上の息子! お前ほど美しく賢い神は我が子の中にはいなかった! 余はお前のことを一番可愛がったであろう? 今こそ愛する父を、この悪神たちから救い出してくれ!』
『…………すみません、父上』
『あれぇ?』
邪険に扱ってきた息子どころか、偏愛して可愛がってきた息子からも見捨てられる始末。
『私も今は天空神をまとめる者として、世界を乱すアナタの行為を見過ごすわけにはいきません。たしかにアナタには大変お世話になりましたが、親子の情よりも神の使命が勝るのですよ』
『いやいや、それよりも余のことを優先してくれ! 父親だぞ! パパだぞ!』
そこでクロノス神が口を挟む。
『自分は父親を倒して神の王座を奪っただろうが』
『余はいいの! でも別のヤツはダメ!!』
身勝手この上ない。
しかし身勝手が許されるはずもなく、みずからの積み上げたカルマによって粛々と断罪されるのみ。
『お許しください父上……、芸術は爆発だ!』
『ぐおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?』
アポロンの放った大爆発に飲まれて、また吹っ飛ばされる邪神ゼウス。
冷遇した子どもからも、厚遇した子どもからも無下に扱われる……、悲しい末路だ。
しかし、あの邪神を襲う悲劇はまだ全然終わりを見せない。
『無条件で父様をボコれると聞いて私もやってきたわ』
『アルテミス!? お前まで!?』
『狩猟の女神たる私の矢から逃れることができるかしら? 一度父様のことを、野兎のように追い回してみたかったのよ』
邪神ゼウスに降り注ぐ無数の矢。
『えッ? 父上を思い切りボコボコにしていいんだって?』
『そんなチャンスが!? よし全力で殴らせてもらう!』
『オレも!』
『ワイも!』
『おいどんも!』
これまで数えきれないほどの浮気で、数えきれないほどの私生児を生ませた。
その数だけ災いが降りかかっているのである。
因果応報というか……。
俺は絶対に浮気などしないし、子どもたちにも平等に愛情を注ごうと思った。