1251 誘致戦国時代
そしてある日を決めて……。
俺たちは集まった。
約束された場所に。
「……皆の者……! 列車に乗りたいかぁ!?」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」」」」
「自領に駅を作りたいかぁ!?」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」」」
アメリカ北東部の都市に行きたいかみたいなノリで叫ぶやん。
ここは農場国予定地にある農場駅前。
これから敷かれる魔都~王都間の新路線を決めるのにもっとも相応しい舞台として、この場が選ばれた。
集まっているのは、新路線の道筋としていまだ候補に挙がっている土地の領主さんたち。
魔族人族、すべてが集まって熱狂に包まれている。
なんでこんなに熱く沸き立っているの?
「フフフフフフ……それは致し方ありませぬよ聖者様」
おッ、シャクスさん?
パンデモニウム商会の長であるアナタまでこちらへ?
「オブザーバーという立ち位置で参加させていただきました。この鉄道という新概念を自領へ取り入れられるか否かで、これから発展していくか落ちぶれていくかが決まるのです。よい領主であるほど必死になるものでしょう」
そういうものか……。
今日の集会の主旨。それは大方決まりかけた新路線の候補を、当事者も交えて本決定まで詰めようということだった。
明らかな遠回りだったり寄り道になったりするようなコースを排除して、残る最短コースを割り出したがそれでもいくつかの候補が残っている。
ここから先はどれを選んでも一長一短。
最善の答えはあり得ない。
なので候補地に挙がっている領主さんたちもこの場にお招きし、透明な場で決めようという意図だった。
これならば選から漏れたとしても、不満は最小限で済むだろうと……。
「甘い……甘いですな聖者様」
なんだって?
シャクスさんが悲壮めいた苦笑いを漏らした。
「競り負けて不満を持たぬなどできませぬ。この選別によって大きな明暗が分かれるのですから。大きな富を手にし損ねた者は、手にした者へ嫉妬せざるを得ますまい。だからこそ魔王様も、こんな方法をとったのでしょう」
うむ……?
たしかに会場の司会進行は魔王さんとリテセウスくんがとっているが……。
「さて……ここに集いし者たちは、厳しい選出をくぐり受けた者たち……。ここに来るまでにどれだけの辛酸を舐めたことか、胸中察するに余りある」
「しかし、今日すべてが決まるのです! 栄光は誰の下に輝くのか! それが今日、ここで決まる!!」
魔王さんとリテセウスくんの熱めの進行に、会場も沸き立つ。
おおおおおおおおおおおおおおおおッッ、と。
「掴み取れるか栄光を!? そのために命を懸ける覚悟があるか!?」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」」」」
「目の前に立つ敵を屠り、屍を踏み越え! その先にある勝利をとるかッ!?」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」」」」
「今、奮い立て! 敗者の手には何も残らない、勝者だけがすべてを手にする! この世の理に従い、欲するものを獲得するために……!」
「戦うのだッ!!」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」」」」
ええッ!?
戦うッ!?
なんでなんでなんで!?
「それは……避けようのない宿命と言えますでしょう。互いに譲れないものがある時、どちらが譲るかは勝敗をもって決めるしかないのです」
シャクスさん、そんな当然のことを言われてもッ!
ここは平和な話し合いの場では!?
「路線引き込みが叶えば莫大な富が得られる。それがわかっていて引き下がれる領主などおりますまい。だからこそ戦うしかない。戦って勝ち負けをハッキリさせることほど、綺麗な決め方はないのですから」
いや、あんまり綺麗じゃないと思いますよ!
恨みとかガッツリあと引きそうですよ!
「奇しくも現在の領主たちはまだまだ戦争を知る世代。命を賭けてでも得るべきものの獲り方は心得ているでしょう。ここから戦って、戦って、戦い抜いて……。最後まで立っていたものが路線引き込みの栄誉を得るのです!!」
ちょっと待ってくださいそれは、さすがにダメなのでは!?
せっかく平和の懸け橋という意味も込めて路線を敷くのに、これで争いを引き起こしてどうするんです!?
そんなの本末転倒の極みですよ!
「御安心ください聖者様。戦いと言っても本当に戦争をするわけではありません。我らもそこまでバカではありません」
本当ですかシャクスさん!?
……ああ、ビックリした。
もしかしたら俺の引き起こしたことで世界に再び戦火が広まることかと。
「戦いと言っても、ちゃんと安全を意識したルールに則った、個人レベルでの殺し合いですよ」
今、殺し合いって言った?
「繰り返しながら現領主の方々は人族も魔族も、みずから兵を率いて戦ったことのある戦争経験者なので、見ごたえのある戦いが見れることと思いますよ。ホラ、あちらをご覧ください」
シャクスさんが指し示す方を見ると……もう試合が始まっている!?
人族の誰かしら二名が向かい合って、いかにも決闘のようなムードで緊迫している!?
「行くぞハイランズ。お前とはどちらの剣が上か、仕合ってみたいと思っていたのじゃ」
「戦争が終わって、そんな機会も永遠に失われたと思っていたが。世の中わからんものよな!」
なんかフツーに剣で斬り合っている!?
大丈夫なんです!?
これ大丈夫なんです!?
「フフフフフ……、魔王軍側から見れば死神と恐れられた領主ハイランズ様と、同じくイルルカンシュ様の剣技を間近で見られるとは……よい時代になったものですな」
シャクスさんも何、バトルマニアの評論家みたいな口調になってるんですか!?
ああッ、こっちだけでは飽き足らない!
向こうの方でも一対一の激戦が繰り広げられている。
「爆炎魔法!」
「風烈魔法!」
あっちは魔族の人たちだ!
魔族らしく魔法を打ち合って実に派手だ!
周囲では、ギャラリーみたいな大人数が囲ってワイワイと囃し立てている。
「やれー、どうせオレたちには関係ないんだし―」
「いっそのこと相打ちになれー」
どうやらギャラリーは、選に漏れた領主さんたちらしい。
戦いの場に上がることはできないので、せめて観衆として関わろう、と……?
しかし……ダメだ、やはりこんなのはいけない。
平和を求めての計画だったはずなのに……この流れをそのままに見過ごしては……ダメだッ!
――『争え、もっと争え』
邪聖剣ドライシュバルツ、閃光を放てッ!
「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおッッ!?」」」」」」」」
俺の愛刀、邪聖剣ドライシュバルツから放たれた大閃光が天を裂く
その凄まじい眩さと轟音に、戦いに熱狂する大勢が度肝を抜かれ、威圧され、戦いの手を止めた。
そしてこちらへ注目する。
「やめましょう! もうやめましょう! 命がもったいない!」
物事を決めるなら話し合いがあるじゃないか!
何のために言葉がある? それは話し合って平和裏に物事を進めるためにある!
何でもすぐに強弱で決めようとするのは短絡的じゃないか!
「しかし! この件で得られる利益は膨大過ぎる!」
「そうだ! 誰だってほしいし誰だって譲れないに決まっている! だったらそんなの話し合いで決められるわけがないじゃないか!!」
――『争え、もっと争え』
「物事を解決するには、一方的な力で、相手の反論を捻じ伏せるしかない時もあるんだ! 今がその時だ!」
「ゴチャゴチャ言うなら先にアンタを沈めてやるぞ!」
――『争え、もっと争え』
……なんだ? さっきから頭に響く言葉は?
場の雰囲気が険悪になっているのも、この声の仕業か?
一体何なんだ? 俺だけじゃなく周りのみんなにも聞こえている?
だからこんなにギスギスしているのか!?
――『争え、もっと争え』
煩い!? 誰が言ってるんだこれは!?
……あそこか!?
せっかく平穏になった世の中に、騒乱を持ち込むのは許さない!
陰でコソコソする誰かさん! 正体を現せ!
邪聖剣ドライシュバルツ、閃光発射!!