1250 世界の真ん中
俺です。
鉄道を巡って世界が目まぐるしく動いている模様。
魔都と王都を結ぶという一大路線の建設に、俺たちも大仕事の予感がヒシヒシ伝わってくるぜ。
「当然だが王都から魔都まで滅茶苦茶距離が長いからな。そこに線路を敷くとなるとこれまた大変だし、時間もかかるだろうし……」
「オークたちが頑張れば三日で終わるんじゃない?」
プラティからの率直な意見。
抗弁したいができない俺がいる。だってこれから始まるプロジェクトを盛り上げていきたいのに『三日で終わる』と言われたら拍子抜けするじゃん。
でも、終わっちゃうんだよなあ。
「それだけ長い路線を引くなら列車もアルファ、ベータ、ガンマの三台だけじゃ足りなくなるでしょうね。デルタ以降の車両新設も進めていきましょう」
ああ、四郎ってことな。
やることはやっぱりたくさんあるな。
あと、今のうちからしっかり決めておきたいのが路線ルートだな。
どこにどう敷いていくべきか……。
「オークたちが激烈に働いてくれるとはいえ、それに頼り切って無理な工事はしたくないわよね。完成後の運営の問題もあるし……」
プラティの言う通りだ。
できるだけ高低差も少なく、地盤もそれなりにしっかりした場所にレールを敷きたいものだ。
それでも最初から最後まで平地というわけにもいかないだろうし、場所によってはどうしてもトンネルを掘ったり橋を架けないといけなくなるだろう。
そう考えると何年越しの工事になるんだろうなって思う。
でも大丈夫、俺にはオークたちがいるから!
どうしてもってなったらヴィールにも出てきてもらうから!
……何やらイキッてるわりに人だよりなところがなんとも情けない。
「そんなことないわよ。オークたちもヴィールのアホも、相手が旦那様だから喜んで協力してるわけだし。人徳よ人徳」
フォローありがとうプラティ。
そうだな! 王様たるものがもっとも備えておくべきものが能力でも知能でもなく徳!
いずれ農場国をまとめていく俺がその人徳でもって、あらゆるすべての問題を払いのけん!
そうだ!
実を言うと既に王様らしく、農場国に貢献するであろう決定をひそかに下しているんだよ。
この路線拡張事業において!
「えッ? そうなの? 何したの?」
新路線は、王都と魔都を結ぶだろう?
そそに、既にある農場駅から伸びている既存の路線を組みこもうと思うのだよ!
「ロンドメルト駅~農場駅~サンチョウメ駅の農場線の拡張……延線して、魔都と王都に繋げようってこと?」
ザッツライト!
既に設置が完了している分作業も減って助かるだろう!
そして何より……。
魔都~王都の路線の中に農場駅が含まれるということ!
それが重要だ。
地上を二分する大国家。
その首都同士を結ぶ線路の真ん中に農場国があるということ!
魔都から用事があって王都へ行く人も。
王都から用事があって魔都へ行く人も。
皆農場国を通る!
それによって得られる利益は計り知れない!
さらにいえば、魔都王都を両極において、その真ん中に農場駅があることによって、さも農場国が世界の中心であるような感じが得られるからね!
どうだい?『おぬしもワルよのぉ』って考え方してるでしょう?
だがこれもまた為政者の思考法!
気がいいだけでは人を治めることはできないのだよ!
どうかねプラティ!?
為政者として一皮むけた夫の印象は!?
「……あッ旦那様、魔王さんとリテセウスくんが来たらしいわよー」
そうっすか。
まあお通しして。
やっぱり王女出身のプラティはこれぐらいの策士ムーブでは動じないんだろうか?
結婚歴を重ねてもまだまだ新しい部分を見せてくれるいい奥さんだ・
それで……。
魔王さんとリテセウスくん訪問か。
二人示し合わせたように同時に。
まあ同じ用件ならそういうこともあるか。
きっと路線開発に何か進展があったから知らせに来てくれたんだろう。
よし! 早速応待せねば!
お茶と菓子を用意! 今日の御茶請けはザワークラフトだ!
「聖者殿、忙しない訪問申し訳ない」
「本日は、路線の原案が出来上がりましたので見ていただこうかと」
なるほどそういうことでしたか。
さっき言った、農場線を組み込む案は既に伝えてあり、二人には『いい案だね!』と評価を貰っている。
きっと原案の中にも組み込んでくれていることと思うが……。
「では、拝見させていただきます」
「どうぞどうぞ」
リテセウスくんから手渡された予定路線図を一目見て……俺は目を見開いた。
困惑で。
んん?
んんんんんんんんんんんんんんんんんんッ?
何故かって、その紙の上に引かれた路線図はメタメタに蛇行しまくっており、さらにはUターンしたり半周したり。
まるで『一筆書きで全部のマスを回りなさい』っていうゲームみたいだ。
「あの……これは、一体?」
俺も思わず尋ねてしまった。
魔王さんにリテセウスくん、神妙な面持ちで……。
「僕たちも……できればもっとシンプルにまとめたかったんですが……」
「路線の引き込み希望者が想像以上に多数に渡り……その全員の希望を受け入れたらこんなことに……!」
そりゃこんなことになりますわな!
全国網羅してんじゃん、この蛇行路線図! 線路はどこまでも続いているよ!
全地区全都市が路線引き込みを希望するのはわかるよ。
だって無条件に便利になるんだもん希望しない方がおかしいって。
しかし全員の希望を聞いていたら、全部の地区に駅ができてしまうよ!
それを一路線で網羅しようとするからたちが悪い。
これじゃあ『速い』という鉄道の利点が潰されてしまうよ!
「おもっくそ遠回りしてるもんねえ……ここの区画とか直線距離の十倍は遠回りしてるんじゃない?」
プラティが路線図のある部分を指摘した。
たしかに!
こんなのもう歩いた方が早いって!
東京地下鉄並みに複雑な路線図なのに、それを一路線で賄おうなんて正気の沙汰ではない!
やりなおし!
申し訳ありませんが原案は再提出です!!
「やはりそうなったか……シャクスからも『これでは通らない』と止められたのだが……!」
「領主さんたちの希望を可能な限り叶えてあげたくて……!!」
二人の国家代表が悲痛な声を上げるが、これはどうしようもない。
事業の根本的な意義を崩しかねないからだ。
「そりゃあ誰だって、あんな便利なモノが通るなら自分ちに来てほしいわよ」
プラティ!?
「旦那様が考えることは、皆も考えってるってことね?」
うぐおぉおおおおおおおッッ!?
プラティが淡白であった理由がそれかッ!?
たしかになぁ、誰だって駅チカに住みたいもんなあ!
自由に路線を引ける権利があるなら、自分の家の真ん前に引くよ! それが便利だもん!!
「まあ、でも旦那様の悪だくみの『よくできましたポイント』は、既に出来上がっている農場線を組みこもうってところね。そこがアピールポイントになっている以上、他の競争相手を押しのけてウチが採用される可能性は高いでしょう」
「工費の節約が確実なところは大いに魅力的ですよね~」
褒めてくださりありがとうございます……。
しかし、この一筆書き地下鉄路線図はいただけない。
これじゃあ完成するまでにそれこそ何年もかかってしまう。
もっともっと、直線に近づけるようにシェイプアップせねば。
とりあえず明らかに遠回りになるエリアを排除して、さすれば異様なまでの遠回りはなくなるであろう。
ここで選外に漏れたエリアには改めて新たな路線を設営することで納得してもらおうと思う。
ああ、建設予定だけが次々と積み上がっていく……!?
それである程度スマートな線にはなっているものの……まだまだ芸術的な曲線だなあ。
もう少し候補を絞って、一本の直線に近づけたいものだが……。
何か作戦が必要か?






