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1247 利益求めしもの

 我が名はハイランズ。


 旧王家時代から人間国の領主を務めてきた者である。


 これまで色んなことがあった……。

 王家が支配していた時代は、度重なる出兵要請に嫌々ながらも従い、国土と民を守るためと自分に言い聞かせて、ほどほどに魔族たちと戦ってきた。


 その一方で民を飢えさせないため、開墾や治水、市場を見守り商業を安定化させたりと領主としての仕事は一通り怠らず遂行してきた。


 まあ、大事件は人間国敗戦による戦争終結。

 王族のバカどもの油断で一気に戦況を押し切られた。私も敗者側に身を置かざるを得ず、あの時ばかりはどうなるものかと戦々恐々したものだ。


 しかしいざ魔族の占領軍が駐屯すると、戦勝者らしい傲慢は一切なく、むしろ旧王家の放漫治世で疲弊していた国土の復調に尽力してくれた。

 領の統治にも、これまで王家からの押し付けで自由に動けなかった旧弊悪法を一切取っ払い、おかげさまで十割領民のことを考えた領政ができるようになった。


 ホントに大助かりだ。

 こんなにやりやすくなるなら、もっと早く戦争に負けておけばよかったよご先祖様、……と思っちゃうぐらいだった。


 領内の生産量も上がり、民をしっかり満腹に食べさせられるようになり、余剰も増えて商業も活発になっていった。


 そんな右肩上がりの調子の中、魔族の占領軍が撤退し、人間国の主権が戻ってきた。

 やっと一国として独立独歩できるようになったと思う反面、ここからは何かあっても魔国に頼れないという緊張もあった。


 しかし私とてあの辛く厳しい旧王政時代を生き抜いてきた領主……という自負がある。


 かならずや統治をつつがなく遂行し、領民が安心して暮らせる安寧の大地を作り上げるのだッッ!!


   *   *   *


 そんなある日。

 私の下に便りが届いた。


「招待状?」

「リテセウス大統領の署名です」


 執事から付け加えられた。


 リテセウス……フン、あの若造か。

 同じく若造のダルキッシュなどから持ち上げられて、人間大統領などと言う形式的な国のトップに就いた。


 あんな右も左もわかってなさそうな小僧に何ができるかとお手並み拝見していたが……。

 ……よく頑張っているようではないか。


「ツンデレッ!?」


 どうした執事よ。

 あんな純朴そうな若造、中央に巣食う旧王制時代からの生き残りの妖怪めいた老害大臣どもに取り込まれて終わりかと思いきや……。

 意外にもそれらと渡り合い、時には出し抜いて占領時代からの善政を継続している。

 なんと天晴れなひよっ子であろうか。


 まあ私だって人間国の代表になるか? と問われて面倒臭さが前面に突出し、他たくさんの領主たち同様逃げる選択をした。

 そんな私にあの若造をくさす資格はないのだが……。


「……で、その小僧から招待状? 何の招待状だ?」

「定番で言えば、王城での舞踏会や晩餐会でしょうか……? それとも何かの式典?」


 招待してくれると言ったらそういうものになるわな。

 だが正解は中身を読めばわかるというもの。

 というわけで書状を開封しリーディング!


 ……ふむふむ……なるほど?


「てつどうの、しじょうかい?」

「鉄道の試乗会ですな」


 煩いぞ執事。

 決して意味を理解できなかったわけではないからな!


 ……で、なんだ鉄道って?


「ここ最近、開拓地で新造された画期的な移動手段と聞いております」


 開拓地?

 例のアレか……。


 その話が立ち上がった時にも、何とも面妖なことを始めるものだと訝しがったが、訝しみが加速しているようだな。


「お言葉ながら旦那様、その鉄道とやらは実に素晴らしい乗り物で、実際に見たことのある者は皆ベタ褒めしておりました。鉄道が国中にまで広がれば、人々の暮らしは一変するだろうと……!」


 ふぅーん。

 そこまで手放しで称賛されると、逆に怪しく聞こえるのは気のせいかなあ?


「それは旦那様の性格がひねくれているからでは?」


 口が過ぎるなあ、この執事は!

 仕方ないだろう! こっちは辛く息苦しい旧王制時代を生き抜いてきたの! あの時代に為政者側にいて性格が歪まないヤツなんていないだろう!


「そうでした……旦那様も本当にご苦労なされましたな……!」


 そんな素直に泣かれるとこっちも対応に困るんだが?


 いやいい……今は、この試乗会とやらの招待を受けるかどうかが問題だ。


「受ける、でよろしゅうありませんか? なにしろ国の代表からの招待です。拒絶するにも角が立つかと……」


 だよなあ。

 旧王制時代の、くだらねえ理由での招聘に逆らうことができずに歯がゆい思いをした思い出が甦る!!


 この新生人間国元首リテセウスについては、そんな理不尽なことはせぬと信じているが……。


「鉄道列車の試乗というのも素敵な用件ではありませんか。これが本当によいものなら、我が領い取り入れればきっと更なる発展を望めます。それを確かめるためにも招待に応じてみては?」


 そう言われると断る理由もないな……。


 よかろう。では返書をしたためるゆえ執事よ、ちょっと待っておれ。

 もちろん『出席します』という内容の返書をな。


   *   *   *


 そして……。

 鉄道の試乗会の日がやってきた。


 場所はサンチョウメの街か。

 まさかこんな国の端っこまで呼びつけられるとは。


 ここの代表は人間国滅亡のどさくさに紛れて地位を手に入れたチンピラと聞く。

 裏でどんなことを企んでいるかわからぬから注意が必要だな。


「おお! そこにいらっしゃるのはハイランズ殿ではないか!?」


 私を呼び止めるその声は……。

 ワルキナ領のダルキッシュか。若造もしばらく見ぬうちに威厳が出てきたのう。


「アナタも招待に応じられたか! よい選択をしましたな!」


 ふん、貴様なぞに私の判断を評価されたくないわ。


 我々で選んだ国家代表なのだから、応じなければ礼を失するし領主の務めを果たしたまでよ。


「そんなことを言って……鉄道のことが気になったのではありませんか? アナタもなかなかに新しい物好きですからな?」


 何だその含みのありそうな言い方は?

 私は自領の利益になるものならなんでも取り入れる、ただそれだけだ。


 貴様こそ、あの“オークボ城”で大当てした味を忘れられずに、新しいものなら何でも飛びつこうとしているのではないか?

 本当にダルキッシュの領は、あのオークボ城でどれだけの儲けを出していることやら。


「ハイランズ殿、幸運は我々の誰にでも顔を出すものですぞ。しかし過ぎ去る前に掴めるかどうかは各自の才覚次第。お互い大きな魚を逃さぬようにしたいですね」


 言っておれ、くっそー。

 しかし、実際会場に訪れてみたら想像以上の盛況ぶりで人がごった返しておる。


 ほぼ国中の領主が集まっているんじゃないか?

 それにその家族も連れだっているようだし……。

 私のところも執事が『行くならどうか私も連れてってください!!』って煩かったなあ。

 お前まで出かけたら誰が私の留守を預かるんだよ、って話で置いてきたが。


 領主どもは、多くが我が子を連れてきていて、六~十二歳程度の少年たちが目をキラキラ輝かせている。

 ……ん、ダルキッシュのところもそうだな。


 私の息子はもう成人しているから関係ないが……いや、そういえば息子も、孫を抱えながら……。

『父上! 鉄道の試乗会なんならオレが代わりに行きましょうか!? ホラだってオレも次期領主として父上の代わりもできておかないと! 顔を売るって効果もありますし!』

 とまくし立てていたが……。


 アイツも乗りたかったのかな鉄道列車?


 人ごみに和気藹々としていると、頭上から響いてくる声。


「皆さん、お集まりありがとうございます!!」


 その声は……リテセウス大統領!?

 あの人の音頭で集まったのだから、あの人がいるのも当然か。


 しかしあの若者見るたびに威厳が増しておるな。

 今やダルキッシュ辺りなどとは比べ物にならんわ。


 それだけ国家代表の重責が男に磨きをかけているということだろうが、このままいけばどこまで大きくなるかわからんな。


「本日集まっていただいたのは、現在話題もちきりの鉄道を皆さんに体験してもらうためです! これから鉄道の存在は、人間国だけに留まらず世界を席巻することになるでしょう!」


 なんか大きいことを言っておる。


「今回の試乗会は、その意識を共有するためのモノです! それでは心行くまで鉄道の旅をお楽しみにください!!」

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