1239 かぞくの乗り物
俺です。
わーい、今日はお出かけだー。
やっぱり家族がいると最低年に一回は遠出したいよね。
それこそ泊りがけで行くようなところに。
ジュニアやノリトも大きくなって色々理解できるようになっただろうし、観光名所の意味とか印章とかもきっと記憶に残るであろう。
ショウタロウにも何かしら思い出に残るところもあるだろうし……。
今日は家族の思い出を残す日だ!
出発!
「いやいやいやいやいやいやいやいやッ!! ちょっと待ってよ!」
何でありましょうモモコさん?
いや、アナタの修行の邪魔にはなりませんのでご心配なく。
「いや気になるでしょうよ! 修行する脇で家族団欒とかされたら! 孤独な自分が浮き彫りになっちゃうでしょうがよ!!」
自己修練とは孤独の中で自分に向き合うものですよ。
なあプラティ?
キミも三児の母として何か含蓄のあることを言ってやってくれないか?
「……大丈夫、アナタが一人孤独を噛みしめている横で、一家の絆を深めているだけよ」
「だからそれがぁあああああああああッッ!!」
何かモモコさんの心の琴線に触れてしまったらしい。
やっぱり女性って扱いづらい。
「まあまあ、足はこっちで用意してるんで、その分お得だと思いませんか?」
「アシ?」
そうそう。
モモコさんも見たでしょうウチのサカモト。
ドラゴンの因子が混じったホムンクルス馬であるサカモトは、世界中のどこであろうと十分以内に到着する!
彼がいれば、目的地が海外だろうが日帰り旅行できますぞ!
「それは知ってるけれど……他のことも知ってるわよ?」
と申されますと?
そんな犯人を追い詰める探偵みたいな口調で。
「馬になんて、せいぜい二人ぐらいしか乗れないでしょう? こないだもそれで揉めて結局ドラゴンが出てくることになったじゃない?」
たしかに。
ちなみにそのようで王都まで出てきたヴィールは、王都ラーメン巡りしたあと『アイツらはラーメンを食べてるんじゃなくて情報を食べているのだ』と寸評していた。
「今回はさらに大人数がゾロついているのに、お馬さんでいっぺんに運べるの? それに乗馬って上下に激しく揺れるから小さい子どもにはきついんじゃない!?」
フッ、お気遣いどうも。
しかし俺も聖者と呼ばれる男。
一度の失敗で学ばないことなんてない。
だからこそ俺は用意した!
この問題を解決する一手を!
そもそも乗馬に関するペイロード問題は古くからあったはず、だからこそ解決方法は既に出ていた。
「それが……馬車だ!!」
ジャンジャカジャーン!!
ざっくり説明すると、サカモトに繋がれた後方に鎮座する車輪付きの箱。
つまり馬車。
馬を利用してたくさんの人や物資を運搬するために発明されたものだ。
箱……の大きさはざっと二メートル強はあって横幅もたっぷり。
これなら六人は楽に座れるだろうから、製作目的は充分果たしていると言えよう。
「えッ? どうしたのコレ? 買ったの?」
「いいや作った」
「作った!?」
驚愕しているモモコさんを見て『してやったり』と思ったぜ。
『ウチには買うって発想がないんですよ』と豪語するのが農場マインドなので。
「いや、家族が増えてきたからそろそろ大きな馬車でも作ろうかなと思って」
「そんな家族が増えたからワンボックスカーでも買おうみたいな!?」
たしかにそういうものかも。
この馬車も、子どもたちが大きくなることや、さらに家族が増えることも想定して、かなりの余裕マシマシで作ったからなあ。
「……この馬車、かなり造りがよくない? 手作りとはとても思えないんだけど?」
そう。
「どちらかと言うと王侯貴族が乗るような?」
それはまあ大事な家族を乗せるものなので最高のクオリティを目指しましたとも。
最近仲良くなった馬車ギルドの人たちから意見を貰って乗用馬車の要点をまとめ、オークやドワーフたちにも協力してもらい、さらにはヘパイストス神から設計図をいただき、急遽行く完全無欠の馬車を開発した。
素材は主に厳選された樫の木で、ヴィールのとこのダンジョンから拝借してきた。
それ以外に金属も使用されているが、これはもちろんマナメタル。
移動中、不快にならないようガラスの窓(開閉可)、日光を遮るレースのカーテン。
振動を吸収するサスペンションに、緊急時のエアバック、すべて完備済みだ。
ソファにも強力なスプリングが内蔵されていて座り心地抜群!
さらに馬車本体には強力な魔法防御が施されていて、戦車砲でもビクともしない!
これが農場の総力を結集して作り上げた最強馬車だ!!
「……うわー」
力説したものの、モモコさんのリアクションは微妙だった。
あれ? どうした?
もしかして期待を下回った?
「理解を超えすぎて言葉を失っているんだと思うわよ?」
プラティからの冷静な推察が飛んだ。
ともかく皆でコレに乗って迷いの森を目指そうではないか!
さあ、乗った乗った!
「うう……じゃあ、お言葉に甘えて……!」
いまだ釈然としない様子であったモモコさん、しかし我が家族に押し込まれる形で馬車へと入ってゆく。
「しゅっぱつしんこー」
「なすのおしんこー」
子どもらも搭乗し、もう乗り遅れはありませんね?
ドアもしっかりと密閉してよし、出発準備完了だ!!
サカモトよ、今日もしっかり頼むぞ! 馬車を引くために色々と繋がれるのは深いだろうが、御者は俺が務めるので我慢してもらいた。
行くぞチャリオッツを駆るがごとく!
ハイヨー、サカモト!!
「ヒヒヒヒヒヒヒン!!」
サカモトは思った以上に従順で、すんなり走り出してくれた。
もちろんサカモトが走るのは空中だ。天駆けるドラゴン馬ゆえに。
それに引かれる馬車も超高速で飛行するのだが、施された魔法処置によって空気の抵抗を受けることもなく、さらに魔法効果で高速になればなるほど軽くなる特性を得ているためか、姿勢が崩れることもない。
そして道中何のトラブルもないまま数分のうちに目的地へと到着するのだった。
* * *
「着いたー、ここが迷いの森?」
馬車から出てきてプラティが一言。
たしかに現地は鬱蒼としているな。
一段小高い場所に降りたが、そこから見渡す景色は隅々まで森の緑一色。
天気も曇り空なせいか、遠くから聞こえてくる鳥の声が一層不気味に聞こえた。
「ふうこうめいびー」
「いや、そんなことないとも思うけれどッッ!?」
我が子の発言にツッコミを入れてくださるモモコさん。
たしかにギルドから警戒を受けているダンジョンだけのことはある。全景を眺めただけで怪しさ大爆発だ。
「それで、その迷いの森ってどういうダンジョンなの?」
プラティから尋ねられる。
「さすがにアタシも陸のダンジョンには詳しくなくて……、聞いた話によると樹海型ダンジョンなんだって? ダンジョンにそんな分類あったかしら?」
そう。
基本的にこの世界のダンジョンは三つの類型に分けられる。
洞窟ダンジョン。
山ダンジョン。
遺跡ダンジョン。
いずれも対流マナが淀み溜まることで時空が歪み、発生するものだがマナが淀む場所によってダンジョンのタイプは決まる。
しかし、今回訪れた迷いの森……樹海ダンジョンは既存の類型に当てはまらない珍しいタイプのダンジョン。
「セオリー通りに言うなら樹海ダンジョンは森の中で真名が溜まってできたダンジョンってことよね?」
しかし地形的に入り組んだ山や谷ならともかく、ただ木々が連なるだけでマナの流れがせき止められることなどない。
だから樹海ダンジョンと言うのは本来現れるはずもないのだが……。
「ここに現れているってわけね」
そう。
ギルド側も、この世にも珍しいダンジョンを警戒して定期的に調査を送る決まりとなっている……らしい。
その調査役に任ぜられるのがS級冒険者に限られるとのことで、それだけこの迷いの森が危ない場所だってことだろう。
そんな場所に、修行と称してモモコさんを送り込んだのは……。
「さあ、この迷いの森で成長してS級冒険者になるわよ!」
修行ついでに定期調査もモモコさんにさせようってことなんだろうな。
さすがシルバーウルフさん、冒険者の操縦が板についている。






