1235 モモコのS級冒険者めぐり:孤高編
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「モモコさん! ありがとうございます! アナタに任せておけば中央のことは何も心配ありません!!」
「いいのよ! S級冒険者の業務はすべて私が完璧にこなしてあげるから、ムルシェラちゃんはここで自分の想いだけを追いかけてね! 恋する女性が一番美しいって、なんかに書いてあったわ!!」
ムルシェラの恋心に寄り添うモモコさん。
それによって二人は意気投合し、心通じ合うマブダチとなった。
となればムルシェラさんもモモコさんを認めたことになって……。
また一つ、試験をパスしたということでいいの?
「聖者様申し訳ありません……こちらの事情に巻き込んでしまいまして……!」
いえいえ。
シルバーウルフさんが申し訳なさげに弁解しにくる。
彼自身も、単なる人員補充が思った以上の大事になってしまい困惑気味のようだ。
「私としても、ここのところ数を揃えてはすぐに抜けていくS級の人員を安定させたいと計画したことが、なんだか気づいたらこんな面倒なことに……!」
モモコさんをS級冒険者一人一人に引き合わせたことで、彼らの人物特徴を再確認した形にもなりましたしねえ。
「休養中のカトウくんやピンクトントン、新人のコーリームルシェラ。様々な要因からまとまりに欠けていましたが、彼女が繋いでくれるような気がします」
モモコさんが知らないうちに潤滑油の役割にされている……。
「そういう意味でも彼女の行脚は意味があったと思いますよ。最後の難関が残っていますがね」
あー、S級冒険者と全員面談するんですよね。
モモコさんは既にカトウさん、ピンクトントンさん、コーリーくんにムルシェラさんと四人パスしたので。
残るは現S級冒険者の中でも最古参でもっとも厄介な……。
ゴールデンバット。
「そもそもこの状況を作り出したのもアイツの横やりだからなあ。直接対峙となるとどれほど厄介になるやら……」
シルバーウルフさんも待ち受ける未来に暗澹たる思いのようだ。
しかし当の本人は意気揚々として……。
「よし! こうなったら早速あのクソコーモリに挑むわよ!! 私を侮った罪を思い知らせてやるわ! どうせアイツはまだギルド本部でふんぞり返ってるんでしょうから、今から乗り込んでとっちめてやるわ!!」
既にモモコさん、ラスボスコウモリへの闘志をメラメラ燃やしていた。
「今すぐにでも乗り込んでやるわ! ねえ聖者さん、あの馬貸してくれないかしら!?」
えー?
サカモトのこと?
まあたしかにアイツに乗って行ったら人間国の王都まで徒歩五日間のところを五分で到着できますが。
……そうは言っても無理やり連れだしたシルバーウルフさんもちゃんとギルド本部に送り届けなきゃいけないしなあ。
かと言ってサカモトは俺じゃないと乗せてくれないし……俺との相乗りが最大限の譲歩。
その場合、俺とシルバーウルフさんとモモコさんで三人乗りになるのか?
一頭の馬に三人同時に?
サカモトの表情を窺うに……。
――『さすがにちょっと……』
という顔をされた。
* * *
仕方ないので一旦農場に戻るとヴィールが暇していたので頼み込んだ。
「ぎゃあああああああああああッッ!?」
「うひぃいいいいいいいいいいいいいッッ!?」
ヴィールに鷲掴みにされた二人は、四分二七秒で王都に到着。
『がーっはっはっはっは! やっぱりおれの方が早かったな! 本家本元が最強最速なのだー!』
遅れてゴールしたサカモトが悔しそうだった。
シルバーウルフさんとモモコさんが速さに当てられフラフラとなっていた。
一方ヴィールは人間形態に変身して……。
「ありがとうヴィール。用は済んだけど、もうこのまま帰る?」
「いや、折角ニンゲンどもの街まで来たんだし観光でもしてくるのだー」
へえ、意外。
ヴィールが人間の街に興味を持つものか?
「最近はおれ様の真似をしてラーメンを出す店がニンゲンどもの街にもできたというのでな。敵情視察ってヤツだー」
ヤツの目的はラーメン屋巡りだった。
らしいと言えば、らしいと言うか……。
しかしラーメンを真似して街で売られているとは。
もしかしたら他にも俺が現代知識無双で持ち込んだ料理がリスペクトされて、あちこちで広まっているかもしれないな。
この世界の文化にテコ入れされているということか。
それはともかく、ここに来た本来の目的は果たさなきゃと思って、いまだフラフラしているシルバーウルフさん&モモコさんの手を取って冒険者ギルド本部へ踏み入る。
本来、もう俺は関係ないんだけど乗り掛かった舟だ。
ここまで来たらモモコさんがキッチリS級冒険者になるところを見届けたい。
……あ、サカモトはちょっと外で待っててね。
帰る頃になったら呼ぶのでそれまで草でもはんでてくれ。
* * *
ギルド本部に入ると、久しぶりのゴールデンバットの野郎がふてぶてしく待ち構えていた。
「思ったより早かったな」
うわー、ソファに座りながらテーブルの上に足を載せて……偉そうに。
そんなラスボス然としたコウモリ男へモモコさんが勇ましく挑みかかる。
「さあクソコーモリ! 四人のS級冒険者さんたちをクリアして残るはアンタ一人よ! さっさとこの私を認めなさい!!」
「フン、半端者とひよっ子どもに認められた程度が何だというのか? この真の冒険者にして頂点、ゴールデンバットに認められない限りは何の意味もないことを知れ」
相変わらず偉そうなヤツやなあ。
アイツこそ初心に返って全国行脚するべきだったのでは?
「カトウくんやピンクトントンは別に半端者じゃないだろ」
そうだそうだー。
むしろ家族をもってより覚悟の固まった二人だぞー。
「だが、このおれに劣るとはいえ一応S級の称号を得た者たちを乗り越えたのだ。その点多少は認めてやって、オレと対峙する資格を与えてやろう。さあ、どこからでもかかってくるがいい」
そう言って立ち上がるゴールデンバット。
「このオレがお前の資質を見定めてやるからには生温い方法はとらん。実戦形式だ。このオレに一撃でも当てることができれば合格としてやろう」
「言ったわね! 一撃なんて足りないわ、百撃ぐらいぶち込んでやる!」
「威勢のいいことだ。ではそれがでまかせでないことを証明してもらおうではないか」
「そりゃし」
「ぐえッ!?」
一撃もらってすっ飛んでいくゴールデンバット。
モモコさん合格?
いや、そうはならない。
何故なら会話の途中で割って入ってゴールデンバットを殴り飛ばしたのは彼女ではなくシルバーウルフさんだったからだ。
『そりゃし』と言ったのもシルバーウルフさん。
「いいけど、暴れるんなら余所で暴れろ。ギルド本部のなかでやるな」
「ぐおおおおおお……!? シルバーウルフ、不意打ちとはいえ容易くオレに一撃。やはり引退してもオレが唯一認めたライバル……!」
「そういうのいいから」
シルバーウルフさんにはもはや、あのコウモリに振り回された疲れしか瞳に宿っていなかった。
それで仕切り直して、ギルド内にある冒険者用の訓練スペースで改めて手合わせする二人。
「じゃあ容赦なく行くわよ! 真剣白刃斬り!」
モモコさんの容赦がないどころじゃない本気の殺意。
彼女、聖剣でそのまま斬りかかってきた。
しかしゴールデンバットは鮮やかに身を翻してかわす。
「ぬううううッ!? でも負けないわ! 二刃三刃、当たるまで続ける連続斬り!」
モモコさんの斬撃は通常以上に速く、常人ならとても捉えきれるものではないが、それでもゴールデンバットは紙一重で回避し続ける。
あれだけ斬りつけ続ければ一度ぐらいは当たるだろうと思われるのだが、ゴールデンバットにはまったく当たる気配がない。
まるで幻というか……ホログラムにでも斬りつけているかのようだ。
実体がないんだから当然当たるわけがない。そう思わせるほどの自然な空振り。
そしてもう一方で不自然に思える点がある。
ゴールデンバットからは一度の反撃もない。
普通あれだけ危険に晒されたら回避もかねて一回ぐらいやり返すだろうに、よけるばかりだ。
その徹底した回避行動には、ゴールデンバット自身の意思が関わっているとしか思えない。
「そう、アイツはあえて一切の反撃をしない」
俺と一緒に見守っているシルバーウルフさんが言う。
「アイツは……ゴールデンバットは自分の得意分野で徹底的にモモコくんを屈服させるつもりだ。ヤツは冒険者となってから一度も攻撃を食らったことがない、回避率五〇〇〇パーセントの男……」
さっき攻撃食らってましたですやん。
「そんなゴールデンバットにどうやって攻撃を当てる? それがモモコくんの最終にして最大の試練だ」






