1233 モモコのS級冒険者めぐり:少年編
勇者モモコ一大事!
私の前に立ちはだかるS級冒険者イヌミミショタ!
今にも戦いの火蓋が切って落とされようとしている!
「オレは無益な殺生は好まないが、S級冒険者の称号を与る者として手心を加えるわけにはいかない。ギルドの敵は打ち滅ぼす、我が全身全霊をかけて!」
アッという間に臨戦態勢になってしまったイヌミミくん。
その闘気がビリビリとこちらへ伝わってくるわ。
この強烈さ、やはりS級を認定されるに相応しいわね。
今まで誤解に誤解を重ねられてどうしようかと思ったけれど、いざ荒事となったら腹が据わって、かえって落ち着いてきたわ。
そうよ。
元から私は、S級冒険者に実力を見せつけるために来たんだから、どの道こうなる可能性もなきにしもあらずんば虎児を得ず。
これもS級冒険者になるための試練と思って……。
邪魔するヤツは指先一つでちぎっては投げちぎっては投げするわよ!!
「むむ……! 戦うとなって及び腰になるどころかかえって表情が引き締まるとは……肝の据わったヤツ。いいだろう、このS級冒険者コーリーが、お前の真贋を見極めてやるぞ!!」
コーリーって名前なのね、あのイヌミミショタ。
でも前情報によればあのショタは、ここ最近の昇格試験でS級になったばかりの新参者という。
だとしたら実力はカトウさんやピンクトントンさんよりも下のはず。
この前よりもずっとやりやすいに違いないわ。
抜剣! 鏖聖剣ズィーベングリューン!
この聖剣から放たれる閃光は、一軍を吹き飛ばすのよ。
一介の冒険者が受け止めきれるかしら!?
「ほう……いいお宝を持っているようだな。ダンジョン攻略で秘宝をゲットし大成功、そのあとすぐダンジョン攻略失敗で秘法を全ロスするが冒険者……。だからこそ、頼りになるのは己の身体ただ一つ!」
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
と、コーリーくんの身体から何かしらが噴き上がってくる!?
これは何!?
気!?
あッ、もしかして念能力? 強化系かしら!?
「これこそオレが、この地での開拓作業の果てに手に入れた能力! S級冒険者としてまだまだ未熟なオレだが、この力を補助にして先輩たちの足手まといにならないように励む所存! では行くぞ!」
噴き上がる気の勢いをそのままにコーリーくんが突進してきた。
反射的になんとか避けることができたけど、ほんの十分の一秒前に私がいた場所を閃光が駆け抜けて、地をえぐり空間を引き裂いていった。
……私の額を脂汗が伝う。
「今のを避けたか。たしかに実力はA級を凌ぐ辺りにいそうだな」
そういうアナタこそS級をブッちぎる領域におられません!?
何が足手まといよ!?
ここまでできるスーパー戦士みたいなS級冒険者、他にいないわよ!?
「しかし、ここで手は緩めない一気呵成に行くぞ! 必殺、S級冒険者ビーム乱れ撃ち!」
ふぎゃわおわぁあああああああああッッ!?
何コレ!?
インフレした少年誌のキャラがするような手のひらからビーム撃つ攻撃を、何回も何回も連続でかましてくる!?
十六連射よ!?
勇者として多くの場数を踏んできた私も、こんな光弾の雨あられみたいな状況、今日が初めてだわ!
一発当たっただけでも即死を確信するんだけど!
ちょっとこんなのまるで世界観が違うじゃない!
どこでどう修行したら、こんな能力身につくのよ!?
「それはもちろん、開拓地で皆と一緒に真面目に働き、日々を一生懸命過ごすことで身についた力だ! 地道な努力に勝るものはないという明らかな証明だ!」
地道な努力で身につく類のものじゃないでしょう、絶対それぇええええええッッ!!
ちょっとした力比べのつもりで立ち合ったら、アッという間に絶体絶命の崖っぷちだわ。
こうなったら起死回生を賭けて聖剣による閃光を叩き込むしか。
こっちの聖剣だって伝説級の威力は持っているのよ!
何とか二、三発は弾き飛ばして発生源たるコーリーくんにダメージを与えられれば、この光弾の雨も少しは勢いが弱まるかも!
って言うかそれに賭けるしかないわ。
私だっていつまでも逃げ続けられるほどスタミナ持つわけでもないし。
じゃあわけでいくわよ!
反撃の聖剣ミラクルスパァーーーーーッックッッ!
「やめい、そこまで!!」
大空から響く声。
『やめろ』と言われたものだから私も思わず剣を振り下ろす動きを止めた。
技名を言い放ったあとだったのに。
対してコーリーくんの放つ光弾は一、二発ほど勢い余って照射されて私に直撃して吹っ飛ばされたわ。
不公平!
「双方そこまでだ! S級冒険者同士が本気で殺し合うなど、ギルド側としては断じて認められん!!」
などと言うその人は誰?
天空から舞い降りてくるシルバーウルフさんだわ!
「シルバーウルフさん!? 何故こちらへ!?」
コーリーくんも驚いて即刻戦闘態勢を解除する。
何あの子?
シルバーウルフさんによく懐いているようだけれど、忠犬?
いや、それよりもシルバーウルフさんが何故ここに!?
彼はギルドマスターとして王都にいるはずじゃなかったの!?
それを私だけこんな奥多摩に送り込みやがって! 奥多摩じゃないって?
この純粋な長距離をシルバーウルフさんが即刻駆け付けられるかも謎だし、その上シルバーウルフさんが空から舞い降りてくるのも謎。
まあでも、天空より舞い降りしシルバーウルフさんは何より馬に乗っていて、しかも馬には聖者さんも乗っててニケツしている。
その辺に秘密があるっぽいわ!
「ギルド本部へ突然聖者様が現れて、大変なことになっているから同行してくれと要請されたのだ。聖者様から壊れては嫌とは言えぬ」
「ウチのサカモトなら農場国~人間国の王都までを往復五分は軽いんでね」
五分ッ!?
私、王都からここまでの移動に五日かけたんですけれども!?
それでも速い方だと思っていたのにどういうことよ!?
「サカモトはドラゴン馬なので、空気抵抗を受けることなく音速かそれ以上の速さで飛行できるのだ!」
聖者さんからの解説どうもぉ!!
何よそれ、現代知識無双だけじゃなかったのこの人!
「コーリーくんは真面目な子だから、敬愛するシルバーウルフさんご本人にしか止められないと思って急いで召喚してきたよ」
「はい! シルバーウルフさんを尊敬しています!!」
「元気よく肯定しなくていいからね?」
そうか……コーリーくんが乱心してから聖者さんの霊圧が消えたと思っていたけれど、シルバーウルフさんを呼びに行くために存在そのものが消えていたのか!
事態解決のために最良の手段を最速で実行するなんて。
見た目ボケっとしてそうだけどさすが聖者様だったのね!!
「コーリー……情報のすれ違いがあったようだな」
「シルバーウルフさん! ではやっぱり!?」
「うむ、彼女は現状、冒険者ギルドでもっとも推されているS級冒険者候補だ。正式な認可獲得のために現役S級の下を回ってもらっている」
そうよ、そうなのよ!!
こういうことは前もって周知徹底させておくべきなのに冒険者ギルドの報連相はどうなっているの!?
「だからモモコくんにギルド印章の入った書状を渡しておこうと思ったんだが、その前に飛び出してしまったんだろうキミが」
えッ? そうなの?
……いやー、一日も早くS級冒険者になろうと思って急いでいたのよねー。
それでうっかりって言うか?
「ありがちな手順見落としミス……!?」
「この粗忽さはS級冒険者として許容していいのかどうか……!?」
や、ヤバい、風向きが私にとって悪い方向へ!?
こうなったら事態を進めてウヤムヤにするわよ!
さあコーリーくん!
私がギルドから正式に認められたS級候補であることは納得したわね!
そうしたらば、私がS級に相応しいと正式に認可を出してもらおうじゃないの!!
「あッ、それはダメですね」
なんでぇええええッッ!?
「だってオレごときに押され気味になるようじゃ、とてもとても……。S級冒険者として実力不足感は否めません」
そう!?
むしろアナタ自体が冒険者の次元を超えて強かったような!?
いいの!?
その基準いいの!?
世の冒険者に過剰な期待をかけてない!?






