1229 S級冒険者への試練
おっす、私モモコ。
勇者ではあったけど、同時にS級冒険者にもなるわ!!
冒険者ギルドから要請を受けて。
まあ、私自身に実力があることは随分前からわかっていたことだけども、それがキッチリ認められるってことはいいことね。
折しもS級冒険者は様々な要因から人材不足に陥り、一刻も早く欠員補充が求められていたとか。
そういうことなら私の役立つ局面だわ。
見ていなさい! この勇者モモコが八面六臂……いえ九七八面八七六臂の大活躍を見せて、見事潰れかけの冒険者ギルドを立て直して御覧に入れましょう!
「いや……冒険者ギルド自体は別に潰れかけてもいないんだが?」
よし! そうなったら早速行動開始よ!
私がS級になるからには大々的にお披露目もしないと! 全世界からVIPを招待し、私がS級冒険者となる戴冠式を開催して……!
「阿呆な夢のことを妄想と呼ぶのだ。知っているか小娘?」
何ッ!?
なんだかよくわからないけれど私の悪口を言われたってことだけは確かだわ!
誰よ、姿が見えないわ!
こそこそ陰口を言わないで出てきたら!?
「フン……この程度の隠形も見破れないでS級昇格など片腹痛い。こんなやつを抜擢するなど、ギルドマスターとしての目も曇ったんじゃないかシルバーウルフ?」
「その私にやたら絡んでくる主張……お前か」
シルバーウルフさんが、テーブルに置いてあった灰皿を投げ放つ。
窓へ向かって。
カーテン越しに灰皿がぶつかる打撃音と『いてッ』という悲鳴が上がる。
カーテンを翻して現れたのは、コウモリ頭の獣人……。
先ほども話題に上がった問題S級冒険者ゴールデンバットだわ!
「オレの居場所を難なく見破るとは……さすがシルバーウルフ、冒険者としての腕もまだまだ衰えてはいないな」
「そんなことよりマスター室に断りもなく侵入してくるな」
その通りよ!
S級冒険者きっての問題児という噂は間違いがなかったようね!
「問題なのは、オレの侵入に気づくこともできないし、居場所も突き止められなかったこの女だ。こんなヤツが本当にS級冒険者に相応しいと思うのか?」
うぐッ?
何よ、このコウモリ? いきなり出てきたと思ったら、そんなチクチク言葉をネチネチと?
ネチクネチクなヤツだわ。
何なの、先輩風でも吹かせたいのかしら?
「新しいS級冒険者選出の噂を聞きつけて、実際に確かめてみようと来て見ればこのザマだ。オレは現役S級の頂点として、半端なヤツの加入は断じて認めない! S級冒険者全体のレベルが低くなってしまうからな!」
「そんなことを言うためにわざわざやってきたのか?」
「もちろんだ、今やオレはS級冒険者の最古参。オレがS級のことを考えてやらなくて誰が考えるというのか?」
「そんな唐突に古参気どりされてもなー」
いきなり現れてなんてこと言うの?
このコーモリ、厄介古参勢じゃない!?
こんなヤツが幅を利かせるなんて、冒険者業界全体の危機だわ!
明るい業界の未来のためにシルバーウルフさん、何か言ってやって!!
「モモコくんのS級昇格は、ギルド側の正式な判断だ」
って真っ向から言い放つカッコいい。
「実力実績を鑑みて充分に資格がある、私はそう考えている。とはいえ現S級冒険者の意見であれば聞かないわけにもいかないから、気に入らないとがあるなら言ってみろ」
「気に入らない?……お前のやることなすことすべてが気に入らないな!!」
うわぁ、クレーマーだぁ……。
ただの純然たるクレーマーだぁ……。
こんなのをトップに抱えてギルド運営していかなきゃなんて、シルバーウルフさんも大分苦労が大きいなあ。
「ここで言いたいことすべてをブチまけては時間がいくらあっても足りないので、そこの思い上がった娘に焦点を絞るとしよう」
思い上がった娘って誰のことよ!?
ひょっとして勇者モモコたるこの私か!?
「思い上がりでないならなんだ? オレが侵入したことにも気づけない注意力、オレの存在を知らされながらどこにいるかも探し当てられない、索敵能力の低さ」
うぐぐッ?
「この程度の能力で務まるなど、S級冒険者はいつからそんなに次元が低くなった?」
「ゴールデンバット、お前が言っているのは一面的なことに過ぎない。同じ冒険者でも得意とすることは色々と違う。ギルド側がモモコくんを評価しているのは直接戦闘での強さを買ってのことだ。元勇者だけあって、その辺りは他の追随を許さない」
よどみなく反論するシルバーウルフさん。
なるほど私はそういうところを評価されていたわけね、納得いったわ!
そして私の凄さを思い知ったかコウモリ男! わかったら跪いて無礼を詫びなさい!!
「ハッ、直接的な強さだと? そんなものに何の意味がある、こと冒険者の世界において」
何ですってぇ?
意味あるでしょう、強ければどこでも通用するのよ!
「人間ごときがどれだけ強くなろうとドラゴンにもノーライフキングにも勝てん。それが真理だ。そうした超越者たちの目をかいくぐってダンジョンを進んでいくのが冒険者。その冒険者に戦闘能力が本当に必要不可欠か、もう一度答えてみろ」
うぐぐ、そう言われても……!?
「それとも、強さでS級冒険者に選ばれたお前は、二大災厄を倒せるほど強いというのか? だったらオレも恐れ入った、心からお前のS級加入を認めよう」
いやッ、そこまでというか……!?
さすがにあの存在らに気軽に挑めるほど私も世の中舐めてないというか……。
「いい加減にしろゴールデンバット」
そこへまたシルバーウルフさんの助け舟ッ!
「世界二大災厄と総称されるドラゴン、ノーライフキングに人間ごときが対抗できるはずない。いかなる分野であってもな、お前が自慢している回避能力や逃走能力も、二大災厄が相手では通じる時と通じない時があるだろう」
「ぬぐッ?」
「それでもお前はモモコくんを卑下するのか?」
そうよ、その通りよ!!
シルバーウルフさんカッコいい、さすがギルドマスターの論破力! もっと言ってやって!!
「ゴールデンバットお前が自分の得意分野以外を受け入れない気質なのは同輩の頃から知っている。しかし今の私はギルドマスターとしてあらゆるすべての才能を評価していかなくてはならない。たとえS級だろうと一介の冒険者に過ぎないお前に容易に左右されないぞ」
「ぐぅうううううッッ! シルバーウルフの分際で……!」
ギャハハハハハハハ! そうよシルバーウルフさんはギルドマスターなのよ偉いのよ!
そんなシルバーウルフさんに冒険者風情が口出ししてんじゃないわよ身の程知らずがッ。
「しかしゴールデンバットの言うことにも一理ある」
あれぇーーーーーーッッ!?
「S級冒険者ともなれば全冒険者の頂点。そのトップが一芸のみに秀でるだけでは話にならない。得意分野が突出しているのは言うまでもなく、それ以外の分野も最低限標準か、それ以上でなくてはな」
「その通りだシルバーウルフ! そういうことを言いたかったのだ!!」
ウソつくなコウモリ!
でもシルバーウルフさんの言うことにも一理ありだわ。
彼の理屈に一ミリたりとも反論できない……、というかさっきから反論できたためしがないわ。
「S級冒険者の先達として思う。この女をS級に上げるにはもう少し吟味と調査がいるんではないか? それをせぬまま迂闊に昇格させるのは事故の元ではなかろうか?」
「うーん、そう言われみるとそうか?」
「第一この娘は、先のS級昇格試験にも参加していなかったと言うではないか! 栄えある昇格試験を蹴っておきながら何事もなく昇格など、他の冒険者が許すのか!?」
「それ言ったらお前の弟子のムルシェラもそうだし……」
「アイツはいいだろ、オレが助手として鍛え上げたんだぞ!」
「そういやそうか……」
なんか話がよくない流れになっているわ!?
「なので、こういうのはどうだ?」
どういうの?
「現役のS級冒険者の全員にこの娘を評価させる。それで全員に認められたら正式にS級に昇格だ! それだけ厳しく審査すれば、他の冒険者も世間も文句はあるまい」
「んん-、同じS級同士の顔合わせもかねていると思えば都合がいいか……?」
シルバーウルフさん、乗せられないで!?
順風満帆に思えた私の昇格に影が差す!?
「というわけだ小娘、産休などと言ってサボっているピンクトントンとブラウン・カトウ、それに新顔半人前のコーリーとムルシェラにそれぞれ会って、資質を問われてくるがいい」
偉そうに言ってんなコウモリ!?
私の栄光のグローリーロードを阻むなんていい度胸してるわね、訴えられたいの!?
「ソイツらに揉まれれば何らかの成長はできるだろう。そのあとで最後にオレのところに来るがいい。オレがお前の資質を計り最終的にS級に相応しいかどうか判断してやる!」
むっかー!
なんでアンタごときに私の価値を決められなきゃなのよ!?
でもいいわ、そこまで言うなら現役のS級冒険者全員を倒して、私が最強だって見せつけてやるわ!
そうすれば誰も私に文句はつけられないからね!
勇者モモコ……S級冒険者となるために今、いばらの道を発進いたします!!