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122 またまた魔王

 久々に魔王ゼダンさんが遊びに来た。

 当然魔王妃たるアスタレスさんやグラシャラさんも引き連れて。


「アスタレス様ーッ!!」


 我が農場はこの魔王一家と関係が深い。

 特にバティとベレナの魔族コンビは、元々四天王時代のアスタレスさんの副官を務めていたんだから、いわば家族も同然だ。


「アスタレス様ぁ! アスタレス様あああああッッ!!」


 先ほどから魔族娘のベレナがアスタレスさんの胸に飛び込み感動にむせび泣いている。


「アスタレス様あああ! お会いしとうございましたあああああッッ!!」

「ベレナ……、そこまで再会を喜んでくれるとは、私も嬉しいぞ」

「うわああああああああああッッ! びえええええええええええええッッ!」

「ベレナ?」

「あずだれずざばあああああああああああッッ!?」

「ちょっと泣きすぎでは?」


 最近ベレナの情緒が不安定なのが、俺たちの中でも不安の種だった。

 いずれ皆で真剣に、この議題で話し合いたい。


「おひさです」

「久しぶりだなバティ」


 そしてもう一方のあっさり加減!

 バティそれでいいの!? 元上司で今は魔王妃のアスタレスさんに、そんなやっつけな挨拶でいいの!?


「無沙汰をしてしまってすまない」


 そして魔王さんは、相変わらず礼儀正しい。

 今日の訪問でもお土産をたくさん持ってきてくれた。


「何から話すべきか……。まず……」


 魔王さん、農場をくまなく見渡して……。


「また人が増えたな」


 率直な感想をくださった。

 そうなんですよ。


 報告は行ってると思うんですが……、そう、あれ。

 エルフでしょう?


「あれなんか有名な盗賊団らしいんですよね? ただ今はウチの農場でこき使っておりますし、何卒容赦を頂きたいというか……」

「心配ない、我は聖者殿を信頼している。どのような凶悪犯であろうと聖者様の下へ預けておけば安心だろう」


 全幅の信頼を寄せてくれて非常に助かる。


「それに、報告によればエルフ盗賊団『雷雨の石削り団』が盗みを働いた貴族豪商は、いずれも先の改革で粛清対象になり没落している。今さら彼女らを告訴することもできんさ」


 へー。

 エルロンたちは義賊で、あこぎな富裕者しか狙わないってのが幸いしたな。

 そういうあこぎな人たちこそ魔王さんの改革で破滅して然るべき。


「また彼女らは、魔国だけでなく人間国でも盗みを働いているが、その人間国もこのたび我が魔王軍によって滅亡した。よってこちらの被害者も、告発する暇などないはずだ」


 へ、へー……。


「そう、こたびの訪問は、人間国を滅亡させたことを報告するのが本題だったのだ。ハデス神との約束を果たすことができた。これも聖者殿の助勢のお陰、重ねてお礼申し上げる」


 サラッと凄いこと報告された。


 滅亡したかあ……、人間国……。


 割と重大事項なのかもしれないけど。

 ファンタジー的テンプレートに当てはめてみると……。


『人類は滅亡しました』『エンドオブワールド』『ゲームオーバー』『コンテニューする? 最初からやり直す?』


 ……って事案になるに違いないが、なんでだろう?

 危機感がまるで湧かない。


「人間国の王はな……。密偵からの情報では暗君のはずだったのだが、敗北が決定的になるとみずから出頭して来たよ」


『我が首と引き換えに民の命を保証してほしい』

 と言ったそうな。


「その行為を見て、生者の値打ちは、最後の瞬間によって決まると痛感した……! 彼は敗亡に至るまで何も手を打たなかった分、非難されるべき王だったが、最後の最後で責任を果たしたのだ」

「あんなヒョロヒョロの暗愚! 最初から王になど相応しくなかったのです!!」


 と力強く言うのは、今や第二魔王妃となったグラシャラさん。

 正式に魔王さんに嫁いだせいか、前来た時より小奇麗な格好をしている。


「真の王とは、ゼダン様のごとく知勇を兼ね備えていなければいけません! あの人族にはそれがありませんでした!!」

「そう言うがなグラシャラ。我は、王の資格とはもっと根元の部分に存在すると思うのだ。あの人族の王は、最後にその根元的一点を示したのではないだろうか?」


 …………。


「彼の振る舞いに、我は魔王として様々なことを感得せねばならん。これから我は、彼に代わって人族を支配する。元来の継承者としてでなく、侵略者として。だからこそ、より一層気をつけていかねばならん」


 人族にとってよりよい支配者となれるように。

 という所信表明をもって魔王さんは言葉を締めくくった。


 …………。

 うん。

 こんな人が魔王だからこそ、人の王国が滅ぼされたところで何の心配も湧かないのだがね。


「心配はありません!」


 グラシャラさんはなおも勇ましく言った。


「降伏した人間国を調査した結果、彼の国は王族と教会による不正が横行している惨状。民草どころか領主層まで怒り心頭きていると調べがついています!」


 ここは……、と献策するグラシャラさん。


「ゼダン様は、新統治者として旧悪を裁き、不正を行っていた王の親族、教会幹部を悉く捕え処刑なさるがよろしいでしょう! それによって民の留飲は下がり、ゼダン様を旧弊の改革者として歓迎するはずです!!」

「無論、不正は正す。しかしそれで得る民からの評価は真なる我への評価ではない。そうした『ご祝儀』が底を尽く前に、何としても魔族による人間国統治を軌道に乗せたいところだ」


 魔王さんに任せて不安が一ミリもない。

 どうしよう人族、魔族に支配してもらった方が幸せかも?


「……すまぬ聖者殿、こちらの事情を、アナタとの会談の席で長々と話してしまい……」


 いいえ! 参考になりました!

 しかも性懲りもなく礼儀正しいこの魔王!!

 とりあえず世の中魔王さんに任せておけばいいや! 魔王さんが世界征服で安全安心!!


「そうした事情で、人間国首都を制圧して以来、再統治の作業で忙しく、なかなかこちらに来れなかったのだ。結局こうして冬明けの訪問になってしまった」

「いいえ! いいえ!」


 でもアロワナ王子は、また魔王さんと相撲取りたいって寂しがってましたよ。

 人間国は征服して、人魚国の次期国王とも良好な関係。

 隙がなさすぎるね!!


「それで、早速と言っては何だが、聖者殿にお願いがあってな」


 奥ゆかしい魔王さんは、まごつきながら言った。


「我らが魔族の神に、戦勝を報告したいのだ」

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