1227 鉄道関連、まとめ
こうして馬車ギルドと和解を成した異世界鉄道。
熾烈なレースのあと、異世界鉄道車両たちとサカモトは互いを讃え合うように見詰め合っていた。
『お前の走り、熱かったぜ! またレースしよう!』
『次は負けませんよ! お互い正々堂々と全力で競い合いましょう!』
異世界車両たちが爽やかさ百パーセントのライバル宣言。
それに対してサカモトは、本質が馬なので当然言葉で返すことはなく、ただライバル然とした『ニヤリ』という笑いを浮かべて飛び去っていった。
『フン……ノリの悪いヤローだぜ』
『それが彼の持ち味なんですよ。また会う時はきっともっと打ち解け合えます』
速さを求める者たちにのみわかる絆の力があった。
……ところでサカモトよ。
俺を残したまま飛び去っていかれても困るんだが?
俺どうやって帰ったらいいの?
まあ、サカモトのことだからそのうち俺を忘れていることに気づいて引き返してくるか。
最悪ヴィールがそこにいるんだからアイツに送ってもらってもいいし。
せっかくだから今いる状況を有効活用するか。
周囲にはまだ鉄道vs馬車勝負に集まった面子が、興奮冷めやらぬという感じで周囲にいるからの。
今回の勝負で図らずも、鉄道側も馬車側もお互いの強みとプライドを噛みしめることができたはずだ。
相互理解が深まった。
これは大きな進歩だ。
異世界流通網が完成に近づくために。
鉄道を大動静脈と例えれば、馬車のようなより小さな流通網は毛細血管にたとえることができる。
大動静脈、毛細血管。
体の隅々まで血液をいきわたらせるにはどちらも必要で、両方揃って循環系は完成する。
物流も同じで、どっちみち鉄道に付随させた宅配サービスみたいなものはゆくゆく築き上げていくつもりではいた。
今回の対決騒動は、その足掛かりと言うべき状況。
機を見てビンビン物語という格言の通り、俺はチャンスを掴みに走った。
その場で馬車ギルドのマスターに話を持っていくと、ことのほか喜ばれた。
「鉄道と連携した馬車の流通網ですか!? 素晴らしい、そういうのを待っていましたよ!!」
そうですか。
将来的に魔都と王都を路線一本でつなげると、途中にも大都市の一つや二つあるだろうしそこから流通網を伸ばせば馬車ギルドさんの大利益を見込めそうだ。
……異世界鉄道の停車駅を巡って、大きな対立とかも発生するんだろうなあ。
リニア開通を巡って対立する静岡と山梨のように。
……何かにつけて対立するよな、この二県。
それは、まあいいや。
未来の話は一旦置いておいて、目下の重要事項は馬車ギルドさんとの連携だ。
引き続き、ロンドメルトの街(魔国側)とサンチョウメの街(人間国側)に荷物を一手に集めてもらい、農場国でもより円滑な荷物輸送をできるよう協力いただいた。
農場国も開拓が進んでどんどん範囲が広がっているからなあ。
そろそろ領内で輸送に専従する人材も欲しいと思っていたところだ。
それを馬車ギルドマスターさんに相談すると。
「いいでしょう! もちろん我がギルドは求める地域に人材馬材を配置するのも役割です! 社会貢献もギルドの意義!!」
……馬材?
「馬車持ちの中には長距離移動につかれている者もいるので、そういう連中に声を掛ければ希望者は出てくると思います! どちらにしろ我らが馬車ギルドは聖者様と末永い良好なお付き合いを望みます!!」
こちらこそ、よろしく。
農場国も伐採した樹木を木材として輸出したいので、運送がスムーズになるのは大いに助かる。
そうだ、折角だから馬車輸送にも何か付加価値をつけよう。
今の馬車になくて、俺の知識の中で何か役立ちそうなものは……。
……そうだ、クール便。
世の中には長期保存に向かない品物があり、そうしたものは運送の問題点になり続けてきた。
足が早く、すぐさま腐ってしまう食物をどうやって遠方まで運ぶか?
それは人類の歴史に長く問われ続けた命題であり、またその問題を乗り越えることで文明は進歩してきたともいえる。
馬車ギルドさんにも、ウチと付き合うことで得られる旨味として、クール便を確立したらきっと喜んでくれるだろう。
……では、俺たち農場の技術でクール便を実現していくぜ。
* * *
そして後日、クール馬車の作製に着手していく。
まずは馬車が引く荷車からだな。
内部の温度を一定に保つために断熱性の高い素材が不可欠だ。
それでいてお馬さんがちゃんと引けるように重量も抑えなくてはならない。
色々考えた結果、外側は木材、内側はアルミの二重構造で間に空気を入れることで断熱性を向上させる。
しっかりと密閉して空気が混ざらないようにもする。
そして最終兵器、人魚製の氷結魔法薬で車内の温度を零度以下まで保てるようにしたら、立派な異世界クール馬車の完成だ!!
試しにそういうのを十台ほど作って馬車ギルドにプレゼントしてみた。
めちゃくちゃ喜ばれた。
「こっ、こんな馬車があれば食べ物の輸送事情が激変いたしますぞおおおおおッッ!? さすが聖者様! すごぉおおおおおおおおおッッ!!」
喜んでくれたようでよかった。
でも冷凍の要となる氷結魔法薬は当然、使うだけ減っていくので都度、農場を通して補充しなきゃですけれど。
根幹技術を他者に握られているって辛いな。
そんなやり取りをしていたら、いつの間にか横からシャクスさんがしゃしゃって来て……。
「聖者様! 是非この馬車を我が商会で取り扱えるように図らってはくださいませんか!?」
と交渉しだす。
本当に商人は抜け目ないな……。
「旦那様……またこの世界の文明をいたずらに急進させていることに無自覚なのね……」
「もう慣れたもんなのだー」
遠くからプラティとヴィールになんか言われているが、まったくかまわない。
俺は農場国の明日のためにできることをするのみだ!!
「うむ! そういうことならこのグリンツェルドラゴンのヴィール様も協力してやらんことも吝かじゃないのだー!!」
ヴィールがなんか難しそうな日本語をこねくり回している。
結局どっち?
「このおれ様の助力があれば、世界中の馬どももこれまで以上に元気づき、効率アップは間違いない! また世界が縮み、時間が早まるのだ!」
いろいろと大層なことを言ってらっしゃるが、具体的に何をするんだ?
「馬どもにゴンこつスープを飲ませるのだ」
おいおいおいおいおいおい……!?
「どうだ名案ではないか? ゴンこつスープが摂取者の進退を強化するのは既に証明済み。もちろん耐えられるようにスープは薄めておくのだ。……馬の場合、ニンゲンの摂取量より薄めた方がいいのか?」
普通は動物実験の方が先だろうに、逆になってるのが皮肉。
「ぐふふふふふふ……! ニンゲン相手にはもうほぼいきわたってしまったゴンこつスープ……、ニンゲン以外の生物にも範囲を広げるというのは我ながら冴えているのだ! この意気で、一気にゴンこつスープを空にするぞ!」
もはや産業廃棄物と化しているゴンこつスープ……もとはドラゴンエキスの処理に四苦八苦のヴィール。
迂闊に海やら山に流そうものならどんな環境破壊になるかわからないので、俺や先生に厳しく見張られながら細々と消費するしかないヴィールなのであった。
しかし夢のゴールはもうすぐのようだ。
さすがに馬車ギルドが抱えている全荷駄に飲ませるとしたら消費量はハンパじゃないだろうからな。
飲んでくれるかは別として。
『ヴィール姉様~! 虫の知らせを感知して駆けつけましたわ~!!』
『ドラゴンエキスが底をつきかけている様子! 早速次の寸胴にパンパン注いできました!!』
上空から現れるドラゴン二体。
彼女らがちょこんとぶら下げてきた寸胴鍋には、新たに生産したのであろうなみなみと満たされたゴンこつスープが……。
「ぎゃあああああああッッ!? だからお代わりはもういいって言ってんだろうがあああッッ!! クッソォ、消費しても消費しても減らねえ! 新たな寸胴が出てくるだけなのだぁああああッッ!!」
こうしてヴィールは、終わることのないゴンこつスープ沼に改めて沈んでいくのだった……!






