1221 線路は伸びるよどこまでも
俺による異世界鉄道建設計画は、ここに一様の完成を見た。
農場駅から魔国側、人間国側に伸びる二つの路線、これらはそれぞれ一番近場にある街を線路でつなぎ結ぶことができた。
これにて開通した範囲内の輸送はかなり楽チンになるだろう。
協力してくれた各都市代表への感謝も込めて、大々的に行ったセレモニーも成功裏に終わったしな。
おもてなしの意味も込めたとはいえ、少しばかり全力を尽くしすぎたようにも思う。
当初作る予定のなかった客室車両まで入念に作り上げたからな。
客室車両の作製にメインを張ったのはエルフたち、それぞれの得意な素材を持ち寄って最高のスペースを創造してくれた。
座席シートは、ドワーフ族から高級のスプリングを仕入れて内蔵してあるので弾力は最高だ。
この座り心地を超えるには、あのハチの巣みたいな形のジェルクッションでも用意しないとなるまい。
さらに……。
ガラス細工班が奮起して、室内にシャンデリアを取り付けると言った時はさすがに戸惑ったが。
だって車両内ですよ?
車内なら揺れることもあるわけで、もし大揺れの果てにシャンデリアが落ちたり砕けたりしたらどうするんだ?
けっこうな割合だよ、館もので落下するシャンデリアの下敷きになる死因。
しかし、万一の事態にも対応できるようにシャンデリアの連結部にはマナメタルを用いて安全対策。
異世界車両たちも、シャンデリアが落下するような雑な運転はしないと請け合い導入が決まった。
結果として客室車両にしつらえられたシャンデリアは大好評で、乗車した人々に非日常感を提供できた模様。
結果的に好評ならばよしと思ったが、さすがにそこまでやる必要あったか? という思いも若干ありにけり。
駅弁に関してもな……。
あれは俺の担当だったが、やるなら全力でという精神が利きすぎたようにも思う。
最終的にシュウマイ弁当に落ち着いたものの、そこに至るまでにいくつもの候補を挙げてきたからな。
ステーキ弁当とかカニ弁当とかイカメシとか。
しかしながら俺自身あまり駅弁というものに親しみがなく『何が駅弁の定番だろうか?』というものを模索していくうちにシュウマイ弁当になった。
駅弁が列車旅の定番だというのはわかるけれども。
……え? 何故にシュウマイ弁当が駅弁の定番かって?
冷めても美味しいからさ!
……という感じで鉄道運行もいい感じに回っている今日この頃、急に客人が訪れた。
* * *
やってきたのは魔王さんでした。
「聖者殿、聞きましたぞ! また偉大なモノを作られたとか!?」
はい?
なんでしょうか?
なんか作ったかと問われれば心当たりがありまくりで何とも答えづらいんですが?
もしやシュウマイ弁当のことですか?
そんなに気になるのであればどうぞ一口。
「ロンドメルトの街から報告が上がってきたのですぞ! テツドーなる、馬車を遥かに超える速度、荷物の許容量、輸送の世界に革命を起こすとかなんとか……、ん、うまぁあーーーーーーッッ!?」
シュウマイの美味さは遅れてやってくる。
それはそれとして鉄道の話だ。お聞きになりましたか。
ゴメンね、魔王さんには直接言っていなくて。
どうせ農場国からごく限られた範囲のことなんで当事者の許可さえとれればいいかなーと思っていたんだが。
こう言っちゃなんだが、一地方の一都市からの報告が、こんなに早く頂点の魔王さんのところまで駆け上がってくるのも意外だな。
「農場国に関することは最優先で報告するように徹底させておるゆえな! 今回もそれが功を奏したわ。このような魅力的な試みが展開されていたとは!」
魔王さんは鉄道のもたらす効果に興奮気味だった。
やっぱ魔王さんは実利を伴うものに興味を持たれる。
「水臭いではないか聖者殿! このようによさげなものを我らに秘密で作り出すとは! 是非とも我にもいかようなものか拝見させてほしい!」
あ、ハイどうぞ。
でもまあ鉄道を見るなら農場じゃなくて農場国にいかないとだけど。
現在も物資運搬のために異世界鉄道車両の三体は忙しなく動いている。
とはいってもご自慢の速度と運搬量を持ってしたら、必要作業は早々に完了してしまうので、その他は手持ち無沙汰なようだ。
農場から農場国へ移動。
到着。
『『『……おや聖者様、どうしました急な訪問で?』』』
列車どもはやっぱり暇を持て余していたのか三体合体していた。
今日の作業はもう終わったのか?
『『『もちろんだぜ! こんな小さい村の支援物資運ぶのにオレらの積載量にかかればチョイチョイよ! 聖者様頼むぜ、オレたちの性能をフル活用できるミッションを与えてくれよ!』』』
最近になって気づいたが、この三体合体ロボ。
身体は一緒になっても精神(?)は統合していないのかその都度表層に浮かび上がる人格は一郎、次郎、三郎で違いがあるな。
まあ、別にだれが喋っても体が一つ内情は全員に意志が伝わってるしいいんだが。
「ぬう、これは巨大ゴーレム……!? 聖者殿はこのように尖ったものまで……!?」
いやいやいやいや魔王さん。
アレはあくまで副産物というか。アレの存在自体は計画の主目的だけど、機能がおまけと言いましょうか。
とりあえず車両どもよ、今日は天下の魔王さんがキミらの働きを見に来てくれたんだから、とりあえず仕事モードに変形しなさい。
『『『車両モードを仕事モードって言いかえるな!? 仕方ねえ、ドッキングアウトそしてフォームチェンジ!!』』』
「おお、ゴーレムが変形を!? これは、目覚ましい新機能……!」
魔王さんの目がキラキラ輝いている。
まあ、彼も神フィギュアにドハマりする性格だから変形合体ロボットにときめかないわけがないよな。
来年あたり、ヤツらの1/100スケールの変形オモチャが魔国中で売られていたりして。
そんな未来視は脳みその片隅に打っちゃっておいて。
今は魔王さんに鉄道の仕組みを解説しよう。
「コイツらは、車両をけん引する動力車ってやつですね、コイツらに複数両の付随車をつけて、貨物量を挙げるって仕組みです」
「ほうほうほう!」
魔王さんは、本当に息を弾ませて説明に聞き入る。
男の子として心底列車にカッコよさを感じるんだろう。
前の世界だったらそのまま鉄道模型かプラレールを買い集めだす。
「試乗してみます?」
「おお! 是非!」
返事が快活。
こうして急遽、魔王さんを乗せて車両試乗会スタート。
「うおおおおおおおおッッ!? ここが客室か!? 我が居室より豪華ではないか!?」
「駅弁食べます?」
テキトーに走らせて人間国側のサンチョウメ駅までつくと魔王さんは胸ワクワクさせて……。
「これは素晴らしい発明だぞ聖者殿! この列車が国中を走るようになれば世界は様変わりすること間違いない!!」
魔王さん、乗車中にシュウマイ弁当三杯もよく食べたな。
また『太る』ってアスタレスさんに怒られますよ。
「是非とも、この鉄道を我が魔国にも導入したい! 聖者殿、計画を立てていただけぬだろうか!?」
いや、あのー……?
これでもこの鉄道、まだ実験段階というか。
マジで文明を一段階進めるシンギュラリティみたいなものなので世界規模の導入は慎重を期したい。
「そうは言っても為政者として、この技術に期待を寄せないわけにはいかぬ! どうだろうか? とりあえずはこの線路を伸ばして魔都まで繋げるというのは!?」
「その計画、僕にも噛ませてください!」
うわぁ、何ッ!?
リテセウスくん!?
人間大統領であるキミが、都合よく雑魚敵のようにエンカウントしないで!?
「僕だって、鉄道の噂を聞きつけて街に調査しに来たんですよ! しかし魔国側が前のめりで乗り気なら悠長なことも言ってられない! ここは人間国側も線路を伸ばして、魔都と人間国の王都を一本の線でつなぎましょう!」
「まさに友好の懸け橋だな!!」
二大国の首相たちの間で、ずんずん話が進んでいる。
鉄道という架け橋は、それまで距離で分断されていたそれぞれの世界を結んでいくのだ。
しかしまあ、それで困る人たちもいるんだが。
世界が大きく前進すると、取り残される人が必ず出てくるものだ。






