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1213 工芸研修

 今年のオークボ城もつつがなく終わった。


 毎年何らかの新しい試みがあるけど、同じチャレンジでも今回はちょっと毛色が違っていたので上手くいって本当によかった。


 ダルキッシュさんともひとまずの成功を喜び合い、来年再来年と段階的に地元民によるオークボ城主催を訳した。


 そんな感じで冬の寒さは厳しさを増す。


 農場そのものも重要だが今年は農場国(予定地)の方も気にしなくてはならない。

 あっちもガンガン寒くなっているようだ。


 今後農場国となっていく予定の開拓地は、それでもまだ農地ではないんだから冬の影響を受けることは少ない。


 だから厳寒の最中だろうがガンガン木を伐りまくって住める土地を増やしていくのもいいが、冬なので食料確保も一苦労。


 この時期はまだまだ各国からの支援があるので当面安心だが、来年には拓いた農地で自給自足できるようにしたいな。


 そういうわけで結局寒さからそこまで活発的にも慣れない今日この頃。


 ならば……ということで開拓地冬季特別プログラムを実施することにしてみた。


 職業研修だ。


 これまでの開拓者さんたちは、木を切り拓き、土地を均すことを第一に過ごしてきたので。


 冬でこもりがちになるのをいい機会に、もっとこまごまとした技術をこの機会に修得してもらえればと思った。


 食器とか衣服とか諸々の道具とか、自分たちで作成できれば捗るだろうからな。


 そんなわけで冬のとある晴れた日。

 開拓者の皆さんを集めて講習を開いた。


 衆目の集まる中、颯爽と居並ぶ四人のエルフ


「革工のマエルガ!」

「木工のミエラル!!」

「ガラス工のポーエル!!」

「そして……陶工のエルロン!!」

「「「「四人合わせて! 職人エルフ四人衆!!」」」」


 思ったよりまんまのチーム名だった。

 それはともかく彼女らは、我が農場が誇るモノ作りの最精鋭。


 彼女らの作る様々な製品が農場での生活を豊かにし、丈夫で長持ち農場に住む全員から重宝される。


 それだけでなく彼女らの作品には美術品的価値まであって、農場の外から買い付けに来る商人の手で高額取引までされている。


 まあ普通に一流の職人たちだ。


 今日は開拓者の皆さんに、コイツらからモノ作りの極意を教わってもらえたらと思っています。


 そりゃ美術品として通じるものは作れないだろけれど、食器とか鞄とかちょっとしたものを自分らでパパッと作れたらQOLクオリティ・オブ・ライフを向上させられるでしょう?


 まあ冬の間の手すさびと思ってやってみようよ。


 そんな趣旨を説明すると開拓者の皆さんたち……。


「うーん、聖者様がそういわれるなら……」

「実際冬だからってそんな暇なわけじゃねえけどなあ」

「火を絶やせないからもっと薪を確保しないと……!」


 すみません、あとで農場から炭を補充させますので。


「いや待てよ皆、これって考えてみればいい機会じゃないか?」


 開拓者さんの一人が諭すように呼び掛ける。


「実際こんな辺鄙な場所に住んでさ、まったく不便に感じたこともない……ってこともないだろう? 実際誰もが何かしら、不満に思ったことはあるんじゃないか?」

「う……!?」

「それは……!?」


 心当たりがあるのか押し黙ってしまう開拓者さん一同。


 すみません! まだ発展途上なもので!!


「不便に思うことの多くは、必要と思う時にその道具がないってことじゃないか? 都会だったら、足りないものがあればその辺の店に駆け込んで買い足せばいい。でもこの辺じゃそうすることもできないだろう? 買えないならどうする? 作るしかない!」


 その考えいいね。


 俺も農場の発展期は『買うって発想ないんですよ!』という考えを大事にしたものだ。


 特にこの寒さも厳しい時節。

 毛皮のコートなんかも作れたら大変助かるだろうし。


 ん?

 今からじゃ遅いだろうって?


 一応冬物の衣服は他方面から運び込まれているから事足りてはいるだろうけれど。


 でも供給が安定すればそれに越したことはないし。


「今までは手に入れるばかりで持て余していた獣の革なんかも加工法をしっかり知っておけば納屋で腐らせておくこともないからさ。いいことだと思うんだ。だから皆で習ってみようぜ!」


 という一人の説得で開拓者さんたち、講習に前向きになってくれた。

 やったぜ。


 そうなったら早速エルロンたちよ、講義をよろしく頼む!


「ん? もう話し合い終わった?」


 その間エルロンたちは木々の間で森林浴を楽しんでいた。

 エルフは隙あらば森に浸ろうとする。


   *   *   *


 それではようやくエルフたちのものつくり講座開始だ。


 まずはエルロンの陶器作り。

 エルロンは、エルフ陶工として日夜窯の前に陣取り、多くの陶器を焼きまくっている。


 最初はそんなでもなかったんだが俺が一時期陶器作りにはまって、協力してもらったらアイツの方がどっぷりハマッて今ではいっぱしの陶匠気取りだ。

 ……いや実際のところいっぱしどころか国宝級と言っていいぐらいの人材になっちゃって。


 アイツの作る陶器は美術的価値をもって天文学的な値段でもって取引されるという。というか実際にされている。


 彼女の作る作品に熱狂的なファンもいて、今や教祖並みに祭り上げられるエルロン。

 そんなえエルロンが直々に陶器作りをレクチャーすると知れたら世界中からシンパが集まりそうだが残念。

 今日はゲリラ的な講習になるので周知はされていません。


 さてエルロンよ、それでは陶器作りの要諦を語っていってくれ!


「いいかお前……陶器とは、即ち宇宙ッ!」


 あッ、ダメだ……!

 職人らしい非常に抽象的でイメージ先行な講釈となっている。


「陶器とは、己の心を映す鏡……。水を吸い、いかなる形にも変わることができるからこそ、陶器は作り手の心をそのままに映し出す!」


 あの……、あのエルロンさん……!?

 もう少し具体的な……生活に合ったアドバイスを頂けませんでしょうか?


 彼らがその領域に至るには、まだしばらくかかると思われるんですが?


「そんなことはない! 陶器はすべてを収めてくれる! その志がなくてはよい器を作り出すことはできない! 目標は大きく持たなくては進歩もあり得ないのだ!!」


 エルロンは職人気質を暴走させていた。


 それは他の担当者も似たり寄ったりで……。


「皮をなめすことで、己の心からも余分なものを削ぎ落とす……! それが革加工の極意……!」

「赤熱したガラスの輝きに、イメージを映し込むのです!」

「木を彫るのではありません。木の中からあるべき形を取り出すのです」


 エルフは皆が皆スピリチュアルな方向へと突き進んでいく。


 ここでもう人選を間違えたかと思った。

 やっぱりエルフに、ヒトにものを教え込むなんて不可能だったんや!


 これならもうドワーフ辺りに授業を頼んだ方がよかったか!?

 でも彼らは彼らでプロの職人だから、授業を頼むとなるとそれなりに高い報酬を取られそう。


 結局はエルロンたちに頼む以外になかったわけで。


 開拓者の皆さんに申し訳ない……。

 もう少し俺に広い人脈があればもっとマシな教師を紹介してやれたのに。


 このスピリチュアルな師匠らの下で、なんとか学べるものを自分自身の手で掴み取ってくれ!!


「ううーん、器は……みずからを映し出す鏡……?」


 いかん! エルフどものスピリチュアルな発言を真に受けている。


「とりあえずこれまでの人生をイメージし……器に表現し……色づけをして……、こうだ!」

「おおおおおおおおおおおおおおッッ!? 素晴らしいではないかッ、傑作だ!」


 はい?


「オイオイオイオイ、凄いぞ聖者様! この開拓者が作った陶器は、今すぐ市場に出せるほど濃い! まだまだ粗削りなではあるが、それすら魅力的に映るほどだ!!」


 エルロンから絶賛されるほどイイモノを創り出した?

 一体、その制作者は、どちらの開拓者だ?

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