1212 オークボのオークボ城
私はオークのオークボ。
本日は家族でレジャーに訪れている。
行く先はオークボ城。
我が名が冠されていて何やら非常に面映ゆい。
しかしこうしてオークボ城を、ユーザーとして体験するというのも初めての体験だ。
そこのところは我が君が推し進めている『オークボ城地元委託計画』の関係で、私も戸惑うところは多い。
「どうだ? 今までずっと自分が主催側に回っていたイベントを、客としてみるというのは?」
そう質問を投げかけるのは、隣の席に座る盟友ゴブ吉殿。
農場のゴブリンチームを率いる彼と、同じくオークチームを率いる私とでは長年、様々な任務を協力しながらやり通してきた戦友であり親友だ。
彼も家族連れで、オークボ城観客席にしつらえられた升席で隣通しになりながら観覧中。
同じ升の中には互いの家族が同居済み。
「おらー、気合入れろー。出血しなくて何が戦いじゃー」
「野蛮なイベントですわねえ。ウチの子の教育によろしくありませんわ」
お互いの妻はなんやかんやでイベントで夢中なのでゴブ吉殿と互いに世間話する余裕もできる。
まあ話だけでも寂しいので、通りかかった立ち売りスタッフに……。
「すみません、ビール二つ」
「ありゃしたー」
それぞれ我が子を膝に乗せてビールを呷る。
その間も会場ではオークボ城に挑戦する者たちは飛んだり跳ねたり舞ったりしていた。
「……んで、どのような気分なのだ?」
んゆ?
ゆったりした雰囲気でゴブ吉殿から問われた。
まあ周囲は興奮しているんだけど。
「オークボ城は貴殿が立ち上げから関わってきたイベントだからな。我が手を離れて寂しいとか、思うところがあるのではないか?」
んー、たしかに。
何を隠そうオークボ城の発端となったのは我ら農場のオークだからな。
たまたま城を築くのにとても具合のいい土地を見つけて、見つけたらどうしても立てたくなったんだもん。
それで我が君こと聖者様に我がまま通して立てさせてもらったのだよな。
だからこそ我が名を冠したお城になっちゃったんだけれども。
こんな長寿イベントになるなんて……。
我が手を離れるほどに続いてしまうなんて……。
「とはいえ、そこまで感慨深いわけでもないんだよなあ……」
「えッ? マジで?」
だって我らオークがこだわっているのはあくまで建設だし。
建てちまったら終わりというか。
まあ開催のたびに増築ができたのは楽しかったがな。
でもまあ最近は、農場国の整備で色んなのを追加で建てていかなきゃいけないし、オークボ城まで手が回らないことも危惧していたから委託できるのはありがたいっちゃありがたかったな。
そういうゴブ吉殿の方はどうなんだ?
ゴブリンチームもオークボ城の開催にはよく駆り出されていただろう?
「それはもう……司会進行から設備の運転、迷子センターの管理に行列の案内……。細かいことは全部ゴブリンに回ってきていたな」
それは……。
ご苦労様です……。
「オークボ城と銘打ってるわりに、我々ゴブリンが圧倒的に働いていたような気がする」
だってキミたちゴブリンの方が圧倒的に器用だから。
あらゆる場面において頼りになり、重宝されるのがゴブリンなんだ。
凄いじゃん。
「そんな我々も諸業務を地元の人々に移管して……、彼らも凄いよな。それだけ複雑で範囲が広くなった業務をしっかり引き継げているんだから」
現在、我々の代わりにオークボ城を回しているのはダルキッシュ様の部下だとか。
事前に先生とヴィール様にしっかり訓練を受けていたけれど、それだけでちゃんと勤められているのは凄い。
「オークボ城の運営は、魔力管理の技が必要なところもあるからな」
「そうじゃそうじゃ! わらわは、ホムンクルス管理の引き継ぎとか入念にやらされたんじゃぞ! 魔族にも扱えるように仕様変更までして! 人魚宰相の仕事と並行でやらされるから大変じゃったわ!」
ウチの妻のゾス・サイラが愚痴を挟む。
彼女のホムンクルス妨害強襲はオークボ城第三関門として名物だから、打ち切るわけにはいかなかったんだよなあ。
本当によく働いてくれる女性だ。
「それらも含めてオークボ城のリソースが空いたわけだから、その分を農場国につぎ込むわけだが」
我々オークも、農場国に色々新設備を建築していくことになるだろうよ!
そう思うと腕が鳴るなあ!
さて何を建てようか!!
「なんか建てるとなるとときめいているよなオークは……。オークボ城には未練がないのか?」
城といえば!
おいおい農場国にも城がいるようになるだろう?
我が君も王様になるのだし居城としてやっぱり必要だよね、という話。
実はもう構想だけでもオークチームで出し合っているんだ!
なかなか野心的なアイデアあるんだけど聞く!?
「ああ、はいはい……、うわ弾幕張ってるぅ……」
ゴブ吉殿!
競技の内容はほどほどに私の話も聞いて!
新しく農場国に建設する王城だけど、やはりどこに建てるかが最初にして最大のネックだよね!
「はいはい」
そこで我々は重大なことに気づいた。
建設地を選ばなくてもいい方法を。
天空に城を浮かべればいいんだ!!
「ふ~~ん。……えッ?」
空に浮かべてしまえば交通手段も断たれるし、実質的に侵入もできなくなるだろう!
さらに推進機関もあれば必要に応じて求められた場所に急行できるという利点もある!
それでも同じ航空戦力で攻められる可能性も考慮しとかないとだから今、案が出ているのは自立稼働型の人型ロボットで守備させるってところかな?
飛行能力つけて目の辺りからレーザー光線でも出せれば巨大空中戦艦も墜とせるだろうし!
問題は巨大な城を恒常的に浮かべておける動力源だけど、これは我が君に相談させてもらえればと考えている。
「夢が広がるねえ……!?」
ん? どうしたゴブ吉殿?
若干引いてる?
「まあ、オークたちの建築好きは前々から知っていたことなので、そこまで困惑ではないけれども。オークボ城に割くリソースがこれから空くことで、ますます色々なことに手を出せるようになるだろうが……」
……ゴブ吉殿、そこで一拍おいて……。
「……それでも、なんか新しいことやる?」
……。
やらないかな。
もちろん我が君の要請で作らなければいけないものは作るだろうけれど。
趣味で何かを建てる……というような、それこそオークボ城のようなものはやらないと思う。
何故かというと……。
子どもがいるからなあ。
私には、ゾス・サイラとの間に生まれた可愛い一子がいるのだし。
この子の成長を見守ることの方が重要で、趣味の時間とか確保している場合じゃなくなるからな。
「わかるわかる。家庭もったら妻子最優先になるよなー」
同時期に結婚、子どもを持ったゴブ吉殿も同じ気持ちであったか。
そう一家の長……夫であり父親となったからには……。
家庭が最優先だよなあ。
自分の趣味は二の次だよなあ。
そういう意味では、オークボ城が我々の手を離れてくれて助かったというか……。
「しかしそれでもオークボ城は続いていくからありがたいことじゃないか。新しい人材が、我々の青春を引き継いでくれると思えば……」
たしかにな。
今の我々にはそれぞれに守るべきものがある。
それに尽くしながら、頑張る若者たちの背中に声援を送っていこう。






