1211 人類ステップアップ
オークボ城本戦。
第一陣はあっけなく全滅の憂き目となった。
しかも大多数が第一関門で薙ぎ倒され、僅かに残った人々も第二関門で丁寧にすり潰されての終結。
一方的な殲滅であった。
こんなの見てる側は面白くもなんともない。
運営側の地元勢は、一生懸命頑張る気持ちはわかるけれども、気持ちが空回っている様子がわかりすぎて辛い。
ここは大運営たる俺のテコ入れが必要だなと思えてきた。
ご安心あれ、俺もこのオークボ城に備えて必殺のコンテンツを用意して来ていた。
さあ、戦場に集え!
農場国の開拓民たちよ!!
「「「「「「おおおおおおおおおーーッッ!!」」」」」」
見たか!
彼らは、農場国(予定地)在住の開拓者たちだ!
今日はお祭りということで特別に彼らを連れてきた!
さあキミたち!
オークボ城に挑戦してみる気はあるか!?
「「「「「「いえぇええーーーーッッ!!」」」」」」
よい返事だ!!
では第二陣にエントリーしておく!
「聖者様……これは?」
運営総指揮を執るダルキッシュさんがこわごわと尋ねてくる。
フッフッフッフ……ダルキッシュさんよ。
ウチの子たちは一味違いますぜ!
そんなこんなで始まるオークボ城第二陣。
昨今は参加者激増のためにいっぺんを激走させると対応できないため、数回に分けて行われている。
これから始まるのは二回目。
午前昼前の部ってところだ。
こちらに俺が、大運営スポンサー筆頭株主の権限で開拓者さんたちをねじ込んだ。
いずれも日ごろから開拓作業に従事している真面目な子たちだ。面構えが違う。
彼らがオークボ城に参加することで一体どうなるか?
それは見てからのお楽しみだ。
ではよーいドン、スタート。
「おおおおおッ!! 今度こそ第一関門で全員落としてくれる!!」
第一関門でカタパルトを撃つ係の人が必要以上に気合を入れている。
だから最初で皆殺しにしたら盛り上がらないだろっつうの。
しかしエンタメの常識も通じず、また弾幕ゲーのノリでクッション弾をばらまく。
これをすべて避けるには、それはもうトンネル効果に期待するか自然系の悪魔の実を食べるかしかない。
避けるならば……。
しかし答えはそれだけに限定されない。
「避けられないなら……! 弾き返せばいいんだぁああああッッ!!」
そう言ったのはウチの開拓者の中でもっとも望みが厚い冒険者コーリーくん。
開拓者のリーダー格でもある彼は、堀に渡された細い平均台の上を先頭立って進んでいた。
そんな彼にクッション弾の群れが、雨あられの密度で襲い掛かる。
これはやっぱり回避不可能!
と思ったところで……。
「必殺! オーラバリアー!!」
コーリーくんが張った見えない障壁。
それは、体内マナで形作られたバリアだった。
クッション弾は、その闘気壁にはね返されバラバラと堀の底へと落ちていく。
結果、平均台を渡る挑戦者たちには触れることもない。
「な、なにーッ!?」
「じ、次弾装填を……!?」
カタパルト係さんたちは慌てるが、あれだけの弾幕を張っておいてすぐさま次の準備が整うわけもない。
ガラ空きとなった状態で、挑戦者たちはみな猛烈な勢いで平均台を渡り、実に八割の人数が無事第一関門を突破した。
残り二割は普通にバランスを崩して平均台から落ちた。
しかし第一陣の壊滅的な状況に比べれば、圧倒的な成果だ。
突破した人と脱落者の割合が逆転したわけだから。
「ぬうぅううううう……バリアとは卑怯な……!」
いや弾幕ゲーに持ち込むのも大分卑怯です。
卑怯には卑怯を、チートにはチートを、先生やヴィールによって強化された人間には……そう、同じく先生やヴィールによって強化された人間を。
農場の開拓者たちも、日々遊びに来る先生たちによって色んな経験をしていますればバリアぐらい張れるようになる。
それが農場国クオリティだ!!
「うおおおおおおおッ!? そんなッ!?」
そう、これが開拓者たちを招聘した真の目的。
日々の指導によって超パワーをもった人員でもってひっくり返ったパワーバランスを再びひっくり返すんだ!!
そうこう言っているうちに第二関門。
例の転がる大岩を避けて進む坂。
ここでもピッタリ横一列に並んで岩が転がってくるという鬼畜なしようとなっております。
「一部の隙間もなく……これでは躱しようがない……!」
引き続き先頭を行くコーリーくんが状況分析。
「かと言って後ろに下がり続けていてはゴールできない。左右もダメ、前後もダメというなら、進む道はただ一つ……!」
何か思いついたのかコーリーくん。
「それは……上だぁああああッッ!!」
コーリーくんジャンプ!
転がり落ちてくる大岩を飛び越えた!?
それこそ走高跳のように!
自分の身長を遥かに超える高さで、まるで猫のような跳躍力!
たしかに転がり落ちてくる大岩の上には大空が広がっていて、その範囲は完全なノーマーク。
安全地帯と言ってもいい。
そのスルールートを見つけ出し、迷わず飛び込むコーリーくんの判断力。
しかし気づけたからって、そう簡単に実行できる攻略法でもないがな。
なんでって、普通の人間は大岩を飛び越えられるぐらいの大ジャンプはできない。
足元が地面から十センチ離れる程度がせいぜいだ。
それをホント『猫か?』と見紛うほどに跳躍できるコーリーくん、やはり開拓地での日々の鍛錬が息づいている。
開拓地で先生やヴィールと共に日々を健やかに過ごしたら、垂直飛びで十六メートルぐらい簡単に飛べるようになってしまうのだった。
続く他の開拓者たちも……。
「そうか! 左右がダメなら上に行けばいいんだ!」
「さすがリーダーの発想力!!」
「そこにしびれる憧れるぅ!」
「よしオレたちも続けぇえええええッッ!!」
と次々ピョンピョン大岩を飛び越えていく。
なんか鮭の遡上を見ているみたい。
これまでオークボ城第二関門の大岩転がしには、x軸y軸の概念しかなかったのが新たにz軸が加わった瞬間だった。
新概念の導入。
先生ヴィールの指導を受けた者たちvs先生ヴィールの指導を受けた者たちで、戦いのハイレベルさが際立つ。
こんなの選ばれし者たちにしか演じきれないだろ、新規ファンが参入できなくて先細りするで、と思ったが……。
観客席の声。
「おおおおおッ! 今年のオークボ城は見応えあるな!」
「エキサイティングだわ!!」
「運営が変わってどうなることかと思ったが、見てる分にはサイコー!!」
……そりゃそうか。
常人にはとても無理なミラクルプレイ飛び交う会場。見ごたえたっぷりだろうなあ。
ただこれを参加する皆ができるかというと……。
『できますぞ』
え?
先生がいつの間にか俺の隣に立っていた。
『ヴィールのラーメンが全人類に浸透しているのは最近確認が取れましたからな。身体能力の基礎が出来上がった状態で、あとは適切な訓練さえ積めば誰にでもできるようになりますぞい』
マジすか。
俺の知らないところで人類かなり進化している。
ということは、来年以降俺たちが関わらないところでもオークボ城は、ビックリドッキリを提供して大盛況を見込めるってことか……。
世界は、皆で一緒に一歩一歩進んでいるということだな。
そして結局、第二陣はコーリーくんが天守閣まで到達し、無事全制覇なしという惨状は回避することができた。
そのあとダルキッシュさんと協議し、もう少し攻略に隙が生まれるように調節すして、第三陣以降も何とか適正難易度で進めることができた。
とはいえやっぱり一番盛り上がったのはコーリーくんたちのいる第二陣だったが。
このまましばらくは俺たちも監修という立場でオークボ城に関わっていき、最終的には巣立ちを見届けるパターンで行こう。






