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1209 育成の間の出来事

 これは、オークボ城スタッフ育成中に別のある場所での出来事……。


   *   *   *


 生きる価値のない者が多すぎる。

 そう思わぬか?


 我が名はラボス。

 大いなる宇宙の支配者。


 あらゆる星の強者たちは我が手によって制圧された。


 強き者は素晴らしい。

 とりあえずはこの私に支配される資格がある。


 強さこそは正義。

 強さこそは存在価値。

 強さこそは、その者を彩る美しさ。


 逆に弱さは悪。

 この宇宙最強たるラボスがもっとも憎むものこそ弱さ。

 弱さはあらゆるものを停滞させ、腐らせ、意味を消失させ災いを生む。


 オレが宇宙を支配したのも偏に弱さを根絶するため。

 この宇宙がよりよくなるために、オレが支配する宇宙の片隅にも弱さの存在は許さない。


 いや宇宙の外にすら。


 オレはオレの宇宙支配を成し遂げたが、オレの理想は収まりきれぬ。


 自分の宇宙の外も、オレの強さの摂理で塗り替えなければ。


 オレの部下の科学者がようやくオレの要望に応え、次元ジャンプ装置を完成させた。


 これによってオレはまったく別の宇宙、――異世界にまで侵略の手を伸ばすことができる。


 我が強さの摂理は留まることを知らず!!


 今もオレの知らないところで弱者どもがのうのうと暮らしていると思うだけで虫唾が走る。

 生まれながらの罪人……弱者ども。

 お前たちの安穏たる無為な生こそが罪そのものなのだ。


 その罪を贖ってくれよう、お前たちの血と死によって。

 強者は生きることに意味があるように、弱者には死すことだけに意味がある!


 さあ、オレが選び抜いた強者の軍団よ。

 殺戮を始めよ。

 弱者を蹴散らし、踏みつぶすことで強者の価値を証明せよ!


 ワープ!

 ……ワープアウト!


 ……ふん、ここが新たなる侵略の地か。

 青い空に広がる草原。

 のどかな風景か……フン、反吐が出る。


 このような腑抜けた場所を戦乱の業火で包むことこそ我が使命よ。


 うん……?

 何かあそこでモゴモゴうごめいているな?


 生き物、小さな子どもか。

 この世界にも知的生命体がいるらしい。

 しかし子どもなどでは、この世界の標準的戦闘力は推し量れまいがな。


「ラボス様、ここは私めらにお任せを」

「あのようなガキどもにラボス様みずからの手を煩わせることもありません。我らが露払いを務めましょう」


 フン、我が忠実な部下どもめ。

 いいだろう。


 オレは子ども相手にも甘くない。

 成長すれば強者と化けるかもしれないが、その資質を見せるためにも、降りかかる危機をあらがって見せろ。


 精神まで弱者でなければ、力で及ばずとも決して負けることはない。

 そんな強者こそをオレは称賛する。


「さあ異世界のガキども! 抗って見せろ! オレはラボス様の腹心ブラッボラ!」

「同じくラボス様の右腕ガンギモウ! この世界の血の味は、どんなものか楽しみだぜぇ!!」


 ふッ、強者のみを基準に登用したせいか、我が軍は残虐な者が多いわ。

 しかし純粋な強さの前では、あらゆる悪逆が許される。


 ガキどもよ、お前たちが嬲り殺しに遭おうとも、それは弱さという罪が招いた罰。

 潔く贖罪につくがよい。


「ぎゃーっはっはっは! 死ねえ!」

「ぐろべおぅッ!?」


 ……もう終わったか。

 まだこの異世界の相対レベルがわかったわけではないが、所詮は一般人のしかも子ども。


 このラボスが率いる最強軍団から逃れ切ることはできなかったか。


「ぐばぼえぇどぉおおおおおッッ!?」


 凄まじい力で殴り飛ばされる……あれは? 我が部下ガンギモウではないか!?

 しかも向こうで転がっているのはブラッボラ!?


 バカな、さっきの断末魔は部下たちのものだったか!?


 ではヤツらを倒したのは……!?


「なんだテメエら!? 妹に手を出すと許さないぞ!!」


 あの小さな男のガキが、勇猛果敢の我が部下たちを無力化したのか!?


 信じがたい……おい子どもよ。

 お前は、この世界でどれほどの強さなのだ?

 お前は、屈強なる戦士の一族か? それとも最強の覇者の息子なのか?


「何言ってんだこのオッサン? オレはどこにでもいる農民の子だ。無害な一般庶民だ!」


 何を……何も特別なところなどないというのか?

 それを、我が勇猛な部下を蹴散らして?


「お前たちの方から襲い掛かってきたから悪いんだからな! 妹が怖がって泣いちまったじゃねえか! いい大人が恥ずかしくねえのかコノヤロウ!」


 ほう、妹を守ったのか。

 見上げた根性をいうべきか? いいや違うな?


 お前の鍛え上げた強さを弱者のために使うなど間違っている。

 強さとは、己をより強く高めるために使うもの。愚劣な弱者のために力を振るうなど無駄遣いの極み。


 この世に“守る”ほど愚かな行為はない!


 お前も、我が部下を倒すほどの強さを備えるならもっと強者の自覚を持て!

 さすれば我が軍の要職に召し抱えて……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 腕をひねり上げるな! いたたたたたたたたたッ!?


「うっせぇ! 兄貴が妹を守って何が悪いんだ!? 農耕一筋三十年の父ちゃんも『人間は弱いから助け合うもんだ』って言ってた! オッサンは大人なのに、そんなこともわからねえのか!?」


 何を愚昧な屁理屈を!?

 もういい! 弱者の妄言に囚われた者は、たとえ見込みある強者だろうと召し抱える価値を持たん!!


 最後に真の強者の凄まじさを目の当たりにしながら死ぬがいい!

 この最強ラボスみずからの手にかかってヴァルハラへ旅立てることを誇りに思ってな!


 くらえ必殺! ジェノサイド指パッチン!


「一般人よわよわパーンチ!」


 ぐおおおおおおおおッッ!?

 何だと!? 我が最強必殺技が!?

 一度鳴らせば、世界の人口半分を消し去ることができる極悪指パッチンが、こんな子どものパンチでかき消され、オレ自身まで大ダメージを負うと言うのか!?


 どういうことだ!?

 やはりこの子ども何か特別な存在では?

 勇者か神の生まれ変わりとか!?


「いいや、そのガキは正真正銘、どこにでもいる一般人の長男だな」

『そしていかなる困難にも立ち向かえる勇気と、弱き者をいたわる優しい心の持ち主である』


 ご、ごぉおおおおおおおおおッ!?

 な、なんだ!? 現れただけで凄まじいプレッシャーが、オレを捻じ伏せ呼吸を止める。


 なんだあの女のガキと、干からびたミイラは!?


「うわー、ドラゴン様とノーライフキング様だー」


 と子どもが言う。


『不審者相手によく気張ったのう。あとは我ら大人が片づけておくゆえ、そなたは妹を連れて家に帰って、お菓子でもお食べ』

「テメーの度胸の褒美に、ご主人様から貰ったクッキーを分けてやるのだー。食う前にちゃんと手を洗えよ」


 なんだコイツらは!?

 なんだコイツらはッッ!?


 この宇宙最強ラボスが、金縛りにあうほどの激烈な殺気!

 まるで蛇に睨まれた蛙ではないか!? この宇宙最強ラボスが!?


『やれやれ……子どもらに危害がなくて何よりじゃったが。それもぬしが垂れ流したエキスのお陰と思うと釈然とせんのう』

「何を言う、これはもはやおれ様のMVPなのだ! ゴンこつスープは世界を救う!」


 何を?

 どういう意味だ?


『ふむふむ、わけわからんと言う顔をしておるのう? 次元を超えてまで侵略を企てる欲深き征服者が』

「残念だったな! この世界のニンゲンどもは、おれ様が配り歩いたゴンこつラーメンのお陰で、強さの基底値がぐんとアップしているのだ! それこそ一般庶民がその辺のラスボスと同じぐらいになるほどにな」

『ヴィールがゴンこつスープを消費せんあまりに、もはや全人類にいきわたってしまったゆえな。しかもそれを何度か繰り返したことで大分全人類の底上げになっておるからのう』

「ご主人様風の物言いをすれば『戦闘力たったの53万? ゴミめ』といったところなのだ」


 では何か?

 この世界では、宇宙最強であるこのオレを遥かに超える戦闘能力が一般レベルだというのか?


 では、今目の前にいるこの二人は?

 この世界でも圧倒的強者であることが伺えるこの二人は……!?


「それで最後は、網戸の隙間から潜り込んできた羽虫の始末だなー」

『ほんにのう、時空の歪みを感知して来て見れば、このような痴れ者に遭うとは。このような思い上がった小僧は、こちらの世界では久しく見んかったのう』


 ダメだ……もう、逃げなくては!?

 この世界では……オレこそが絶対弱者……!?


「上には上がいて、下には下がいる。強さなんてもんがどんだけあやふやなもんか思い知ったか?」

『知ったところで今更意味はないがのう。さあ、安らかにお休み』


 オレは……この異世界に来てはいけなかった。

 オレなどほんの小さな世界の強者に過ぎなかったのだ。


 オレはここで、一人の弱者として終わった。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[一言] 大いなる宇宙の支配者「ラボス」…か。 まさにラスボス向けの直球ネーミングだね。 一方、とある伝説のRPGのラスボスとして知られる「ラヴォス」という名前は、作中では原住民たちの言葉で「ラ」は…
[一言] 冒頭読んでる頃「中二病オチかな?」 先生とヴィ―ル登場「まじで異世界転移して侵略しにきたんかーい」
[一言]  ギャグマンガでありがちな実は妖精サイズで地力が違い過ぎたとかじゃなかった・・・
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