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11 餓鬼海星

 プラティが我が開拓地にやって来て、劇的に変わったことがもう一つある。

 ここは特筆して語っておくべきだろう。


 それはトイレだ。


 人間、入れれば出る。

 それは生理的なことだ。


 排泄物をどう処理するかは、衣食住に次ぐ大切な問題。

 これをおざなりにはしておけなかった。


 で、実際のところ俺が今までトイレはどうしていたかと言うと……。


 ……。

 ……海があるじゃん、近くに。


 直接流し放っていた。

 昔の船乗りなんかはそうしていたって聞くし、母なる海は大きくて多少の汚濁は難なく受け止めてくれる。


 海中はあらゆる成分が渦巻いているのだし、そうしたものがプランクトンなどの微生物を育て、それを小魚が食い、その小魚をより大きな魚が食い、その大きな魚を俺が釣って食物のサイクルが完成すれば、それはいいことなのではないか?


 ……と言うことを打ち明けたら、プラティに超怒られた。


「そ ん な わ け な い で しょ!!」


 と。

 俺は全面的に土下座して詫びた。


「陸人のそういう無神経なところ大嫌い! 海の食物サイクルは、海の生物だけで完成しているのよ! 別世界の汚濁を勝手に流し込むな!!」

「はい! 仰る通りです! すみません……!」


 割と彼女に逆らえなくなっている俺だった。


「……でもまあ、陸人はアタシたち人魚ほど綺麗好きでもないし仕方ないか。ちょっと待ってて」

「?」

「アナタたちがビックリするアイテムを持ってきてあげる」


 そうしてプラティは、またしても下半身マッパになって海に潜っていった。

 そして何かしら携えて戻ってきた。


「これがトイレ事情を解決する必殺アイテムよ!!」


 ババーン!! と。

 プラティが掲げる星形の何か。

 それは……。


「ヒトデ?」

「正確にはヒトデ型のモンスターよ。こないだ捕まえてきたバ・ニシンGと同じような」


 つまり普通のヒトデではないってことか。

 この世界、モンスターが有効活用されてるな。


「このヒトデは、ガキヒトデと呼ばれるモンスター。通常のヒトデと違って雑食性で、何でも食べる貪欲なヤツなの」

「……それ大丈夫なの?」

「うん、だから掴む時は注意してね。指噛まれるから」


 全然大丈夫じゃなかった。


「コイツを、桶なり箱なりに入れて、水を張っておきまーす」


 プラティは言った通り、ガキヒトデ数匹と水を張った桶を用意した。


「これでトイレ完成よ」

「えッ!?」


 これがトイレ!?

 ただの水張った桶じゃないか!?

 その中にヒトデが数匹落ちてるだけの!?


「じゃあ、実演してみせましょうか?」


 プラティが自分の腕に、ナイフのような小さな刃物を押し当てた。

 そのままスッと一線引く。


「いいッ!?」


 すると彼女の白い肌に真っ直ぐな切り傷が出来て、血がボタボタ零れ落ちる。


「えええーーーッ!? あわあわ、ちょっと!?」

「大丈夫よ、心配しなくて。これぐらいの傷、薬を塗っておけば……」


 軟膏を塗ると、腕の傷はウソだったかのように跡形も残さず消え去った。

 人魚の薬スゲェ。


 そして一方、問題のヒトデ入り桶には、傷口から流れた血が落ちて、中の水が真っ赤に染まっていた。

 ちょっとギョッとするような絵面だった。


 赤一色の桶の水。


 恐らくそうすることが彼女の目的だったのだろうが、そうする意味は一体何だったのだろうか。


「だって……、実際に用を足すわけにはいかないじゃない。アナタの見てる前で」

「?」


 プラティが赤面するのがまた意味不明だったが、そんなことにもかまっていられない劇的変化が起こった。


 血で真っ赤になった桶の水が、見る見るうちに透明になっていくのだ。

 その過程、一分とかからなかっただろうか?

 驚いている間に桶の水は、完全に元の透明度を取り戻していた。

 底に張り付いたヒトデの姿をハッキリ確認できるほどに。


「これがガキヒトデの効果よ。驚いたでしょう?」


 とプラティは得意げだ。


「この意地汚いヒトデは、水中に漂っている微細な有機物まで吸い取って食べてしまうの。大きな生物の出した排泄物も同様よ。今回は血で代用したけど……!」


 そうか。

 血液を吸収して養分に取り込めるんなら、排泄物もわけないと言うことか。


 人魚の国では、このガキヒトデが『海の掃除屋』として重宝され、下水やごみ処理のため各家庭に常備されているのだとか。


「汚物を吸収して養分として溜めこむだけ分裂して増えていくわ。増えすぎたらバ・ニシンG同様、煮殺して肥料にするもよし。もしくは引きちぎって釣りの餌に使うもいいわ」


 どう転んだって有効活用できる夢の素材。


 こうして我が開拓地に、清潔なトイレが加わった。

 現在寝床にしている掘っ立て小屋にそのまま置いておくのも何なので、少し距離を空けたところにさらにコンパクトな小屋を建て、そこにヒトデ入り桶を置いて個室トイレとすることにした。


 普通に考えたら排泄物の類は溜めて発酵させ肥料にすべきだろうが、ウチには既にバ・ニシンGの強力魚肥がある。


 というわけでガキヒトデのトイレは即刻採用。また一つ生活が豊かになったと喜ぶ。


 プラティも何やかやで完全に居ついて、二人の共同生活が当たり前のものになってきた。

 そんな日々がしばらく続いた。

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