1186 捜索開始
世界の敵が判明した。
その名は無詠唱魔法!!
それこそが精霊たちを侮辱し、怒らせた罪深き魔法だったのだ。
まさに禁忌の魔法。
これ以上無詠唱魔法がのさばれば人間と精霊たちの関係がますます険悪なものとなってしまう。
それを避けるためにも俺が、責ある人類の一人として問題解決に尽力する所存。
「ぶじょくはゆるさぬですー!」
「『ぶじょくする』とゆーこういにたいしては、命をかけるですー!」
「おまえはせーれーおーさまの『いのちをぶじょくした』ですー!」
「ちょこころねみてーなあたまですー!」
大地の精霊たちも、精霊王の怒りが伝わって来たのかヒートアップしていた。
最初のきかっけの時も、こうして精霊王の気持ちが他の精霊に伝播して漏れ聞こえたんだろうな。
では行動に移そう。
無詠唱魔法を解決するためにまず移動すべきだろうか?
『魔国を訪ねるのがよろしいかと』
先生が助言してくれた。
『精霊との契約で行使される魔術魔法は、元々魔族が扱っておりますからの。ゆえに無詠唱魔法も魔族の中から発したものと考えるのが自然です。魔王の下を訪ねて、話を聞いてみればわかることもでてくるのでは?』
なるほど。
先生の言にも一理ある。
では不躾で申し訳ないが、早速魔王さんの下へアポなしで訪ねてみることにしよう。
『待つのだ人間よ! この精霊王も同行させてはくれまいかッ!?』
しどろもどろな感じで精霊王さんが追いすがってきた。
敗北直後でアグレッシブな。
『我ら精霊のことで動いてくれるなら、すべての精霊の長たるこの精霊王も関わらぬわけにはいかぬ! この精霊王は人間を誤解していたようだ! 我々のためにここまで親身になってくれるとは!!』
精霊王さんが喜んでくれた。
こちらも精霊のために何とかしたいという気持ちはあるので、それが精霊たちの留飲を下げてくれたなら幸いです。
でも同行するってなると、それはそれで別の問題が生じそうな……。
だって精霊王、相当な巨体なんだぞ。
それはもうモビルスーツ並みに。
そんな精霊王が魔国の……しかも人口過密な魔都を闊歩したら大惨事に。
『それなら大丈夫だ。すぽぽぽぽぽぽぽぽ!』
妙ちきりんな掛け声とともに精霊王の身体が縮んだ。
その様相は逆ウル○ラマンとでも言おうか。
気づけばほぼ人間サイズにまでスケールダウン。
『どうだ! これならば並んで歩くのに支障あるまい!!』
カラカラ笑う精霊王。
さすが霊的存在というか、そんなところまで自由自在なんですな。
『ワシもご一緒してよろしいですかのう?』
そして先生まで同行を願い出てくださった。
『かねてよりワシは、無詠唱魔法はよくないと生徒たちにも教えておりました。礼儀知らず、横紙破りはいつかどこかで回りまわって報いをもたらすと。今回その基部が実現して、しかもまったく関係ない者にまで迷惑をかけるなど到底見過ごせませぬ』
俄かにわかりづらかったが、先生お怒りのご様子?
わなわなと立ち上る怒気は、ノーライフキングから発しているせいか凍てつくような冷たさを伴う。
『当事者には一言注意してやらねばなりますまい。その役目をまっとうできるのは古今の魔法に通じたワシこそ適任かと』
『さすが死者の王! 頼もしい!』
精霊王も、和解したとたんに物凄いすり寄り方だった。
もはや年来のマブダチかという雰囲気。
「せーれーおーさま、がんばるですー!」
「くさばのかげから、おうえんするですー!」
大地の精霊たちは、そんな精霊王を見送りモード。
トップの精霊王はともかく、一般的な精霊はなんか追加の措置でもしない限りはこの土地を離れられない。
彼らはあくまで農場に付与されている冥神ハデスの祝福によって実体化できているのだから。
「皆様のご健闘をお祈りしておりますわい」
と炎の精霊。
「私はヴィール様のスープ研究に協力しますわ」
水の精霊も農場に残留の意思らしかった。
そして最後に……。
「私は……」
豆の精霊がいた。
アイツはこれからの自分の予定を宣言して……。
「……風の精霊に土下座してきます」
自分の立場わかってるじゃねえか。
* * *
そういうことで精霊王と先生を伴い、俺たちは魔国へとやってきた。
厳密には魔国の首都である魔都……その中心に聳え立つ魔王城に。
魔王さんは、俺が訪ねると必ず会ってくれる。
立場上多忙であるだろうに、その時の予定を変更してでも時間を作ってくれるので本当に申し訳ないことだ。
『それは……聖者様から訪ねてくる用件など、とびきりいいことか、とびきり悪いことのどちらかですからのう』
『後回しにして後悔したくもないだろうしなあ』
ん?
何を囁いているのですかな? 先生と精霊王?
応接間っぽいところで数分ほど待っていると、ドタドタ足音を立てて魔王様が駆け込んできた。
「お待たせして申し訳ない聖者殿!」
「いえいえ、予定も窺わずに押し掛けたのは、こっちなので……」
謝罪するのはこっちの方ですぞ。
そんな挨拶もそこそこに早速本題へ。
スケジュール秒刻みの魔王さんの時間を浪費するわけにもいかん。
一通りの説明が完了したところで……。
「なるほどそのような……!? やはり聖者殿からの用件をおざなりにするわけにはいかんな。内容がとびきりいいことか、とびきり悪いことのどちらかなのだから」
『『でしょう?』』
先生と精霊王。
声をハモらせるな。
「それで本日は見知らぬ御仁を伴っているわけだな? そちらが精霊の長……精霊王というわけか」
「お初にお目にかかります」
「いえいえ、こちらこそいつも世話になっている……!」
と双方これでもかというほど丁寧な挨拶。
これが大人のやり取りか……!?
「世話になっているのは紛れもない事実だからな。ただでさえ世界を支えてもらっている精霊だが、我ら魔族に限ってはそれに加えて魔術魔法の発動のために力を貸してくれているのだから。戦争時代、その力がどれだけ魔族の味方になってくれたかわからぬ」
魔王さんは深々と頭を下げた。
「魔族が今日の繁栄を謳歌しているのは、少なからず精霊たちの助けがあったからこそ。その恩義をこの魔王忘れたことはない。こうして直に礼を述べる機会を得られたこと、重畳に思う」
『んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』
精霊王が変な声を上げた。
この騒動のせいでかねてより自己肯定感を傷つけられていた精霊王だから、魔王さんからの謝礼で承認欲求が爆上がりになったのだろう。
高揚感でヘンになっておられる。
『こういうのを……こういうのを待っていました……! 精霊は皆から感謝されているのだな。必要とされているのだな……!?』
「そのように大恩ある精霊たちに対して、顔に泥を塗るような不埒な行い。魔族を率いる魔王として断じて放置できぬ。問題解決のために国を挙げて協力しよう。精霊たちを慰撫するためにも」
魔王さんの真摯な態度のおかげで精霊王さんが大分慰められている。
これで落ち着いてくれるなら、もう解決でいいかなと思ったが、それでも途中で投げ出すわけにはいかぬ。
無詠唱魔法についてなかなか講釈もしちゃったし、そっちの問題もしっかり片付けないとな。
「実はその点についてもおおよそ見当はついておる」
魔王さん、有力な情報を持ち合わせていた模様。
有能。
「実は最近、噂が出回っていましてな。城下で評判の魔法塾があると。そしてその塾一番の売りが……無詠唱魔法であると」
なんと。
それこそまさに答えじゃないか。
行ってみよう、その魔法塾とやらに。






