1183 マスターピース
ここまでのあらすじ。
大地の精霊たちの不穏な呟きによって世界の危機を察知した俺たち農場チーム。
上手いこといっている世界の危機に陥らせてなるものかと調査の末、精霊たちの大締め……精霊王に会うことが必要だと結論する。
しかし精霊王にはそう簡単に会えるものではない。
ぶっちゃけ神と会うより難しい。
実体すらない精霊の王と面と向かうためには、地水火風の四精霊に助力を得なければいけない……というところまでわかった。
そして大地の精霊、炎の精霊、水の精霊の実体化に成功して、残るは風の精霊だ!
というところまできて現在へと至る。
ここからが未来の話。
俺たちは風の精霊を呼び出すために、波長の合いそうな人を探しまくった。
ここまで成果を上げた方法に倣い、風の軽やかさ、自由さ、ドライさを共通させる人材を追い求めるものの、意外にも条件にピッタリ合うものはなかなか見つからない。
バカな、農場にもけっこう人がいるはずなのに。
こうも当てはまらないものか。
でも考えてみればウチは農場だからな。
地に足つけて長い時間をかけて地面を整えていく、そんな作業を日々行っている人たちなので風属性と相性が悪いのは仕方ない?
ここは仕方なく対象範囲を農場の外へ広げるか……と思った矢先。
「ちょっと待ちなさい!! 私を無視して話を進めるとはいい度胸ね!!」
「我々もお祭りに参加させてくださいマスター」
お、お前らはッ!?
レタスレートとホルコスフォン!?
農場が誇る豆コンビが緊急参戦!!
「何をやってるか詳しく知らないけれど、私たちに声もかけないなんて薄情じゃない! しかも何? 世界の危機なんでしょう? そんな時こそ私たちコンビが活躍する場所!!」
「これまでお世話になった人々のため、納豆の輝かしい未来のため、是非とも世界を救わせてください!!」
参戦動機はこの上なく真っ当で純真だが、この二人というだけで不安を払拭しきれない。
だってコイツらだよ?
頭の中に豆のことしかないコイツら、残る最後の風属性とどう絡むというのかね?
ホルコスフォンは天使なだけに光属性のイメージだし、レタスレートは何だ? ロイヤル属性か?
しかし双方、今となっては元々のイメージを全塗り替えする勢いで豆属性なんだよなあ。
こんなコイツらに何があっても風の精霊を呼べる気がしない。
風の精霊からクレームが入れられるレベル。
だからと思ってお前らへの連絡を避けていたのに、まさか向こうからこようとは……。
どうなるのコレ?
さらなる混沌の呼び水のような気が……。
「レタスレート、調査から判明しましたが現在、精霊を呼び出すことが求められているそうです」
「なるほど! なれば私たちのスーパーミラクルシャインフォースエナジーで、超ウルトラゴージャスな精霊を呼び出そうじゃないの!!」
すみません、突き進まないでもらえますか!?
しかも頭悪く、威勢のいい単語を並べていく!?
「それでは行くわよ! ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
気炎万丈、レタスレートから噴き出す気合に空間が歪みそうだ。
しかしどれだけやっても彼女らと風の精霊が結びつくことはないと思うんだが。
どんだけ強威力で遠くにまで飛ぶ大砲でも、照準が会わなければ的には当たらないように。
しかし……レタスレートの気合が集束してまとまるかのように、何かが空間に姿を現していく。
これは……風の精霊?
本当に風の精霊が実体化したのか!?
「……私は、豆の精霊」
は?
「豆の精霊」
何度も言わんでもわかるわい!
いやわかりたくなかったけれど……!
理解することを拒否している俺の脳みそのためにも回数かけてすり込んでくれるのはありがたかった。
しかし!
「豆の精霊って何!?」
「読んで字のごとく、豆属性を司る精霊です」
だからそれが何!?
精霊って地水火風の四属性が基本だろ!?
どれにも当てはまらない新たなる属性を勝手に作り出すな!
「私たちに相応しいジャストな精霊が生まれましたねレタスレート」
「まさに私たちを象徴するかのような存在ね!!」
満足感に充足されてるんじゃない!
どうするんだよこれ!?
ある意味思った通りの展開すぎて逆に安心だよ!
四属性の精霊を全員呼び出すことで精霊王への道を何とか切り拓こうというところだったんだぞ!
大地の精霊!
炎の精霊!
水の精霊!
豆の精霊!
一つだけ何か混ざってる。類似品で規定した効果が得られません!!
「大丈夫よー。風と豆で結構似てるじゃない?」
似てねぇよ!
語感が合ってるだけで一文字すら共通してねえよ!
そうして俺が必死に抗弁しているのにレタスレートはマイペースに……。
「まあまあ、ひとまず試してみるだけ試してみたらいいんじゃない?」
「ダメだったらその時に新しい手段を模索してみたらいいのです」
俺の困惑をまるっと無視して、自分たちがMCであるかのようにスイスイ話を進めていく。
「精霊たちよ! 大自然を構成する霊的存在が勢揃いするとなると壮観だわ!」
「人生で、一度は目に収めておきたい光景ですね」
何か足りないものがあると思うけどな!
「欠けたることのなしと思えばできないことだってできる!」
「さあ皆さん、精霊の力を一つに合わせて奇跡を起こすのです」
だからレタスレートとホルコスフォンで場を仕切らないでと!
しかし精霊たちもノリノリでテンション高めに対応。
「だいちですー!」
「ほのお!」
「みず!」
「まめ!」
何度聞いても拭いがたい違和感!
「「「「四つの力が合わさりて、いと高き御方へと導かん! 示せ、万物流転の統治者よ!!」」」ですー!」
四属性の精霊が力を合わせて、まったく別の世界の扉を開ける。
昼間だというのに晴天に星屑が渦巻き、その中心が穴を開けて広がる。
その穴から……零れ落ちる一滴。
しかしそれは遠近法で、雫のように小さく見えただけで。
落下し、地表に近づくほどに振るえるほど巨大な物体だとわかった。
召喚される神々よりもずっと巨大だ。
それは人の姿をして、それでいて知性を感じさせるほどに整えられた装束に身を包んでいた。
煌びやかな鎧でマントまで羽織っている。
優美で豪壮で、戦争の指揮を執る王様のような威風堂々さ。
「精霊王……!?」
これが……様々な紆余曲折を経てまで追い求めた精霊王なのか?
地水火風、四属性の精霊たちすべてに認められた時、精霊王が現れる。
……でもさあ!
全部揃ってなかったよね絶対に!
違うの!
違うのが一つ紛れ込んでる!
笑う人形、怒る人形、泣く人形、踊る人形で魔界への扉を開けようとして、本当に開いちゃった気分!
わかりづらいかこのたとえ!
「一息つくのは早いわよセージャ! 私たちにとってここからが本番なんでしょう?」
「そうです、精霊王と会談し、世界にいかなる危機が迫っているかを突き止める、それがマスターのすべきことでしょう」
「これがゴールじゃなくて、スタートよ! 相手は精霊の大親玉! ただ交渉するだけでも相当な困難があるかもしれないわ! でも、恐れてはダメよセージャ!!」
レタスレートとホルコスフォンが叱咤激励してくるが、今!
今俺がもっとも恐れているのは!
風の精霊から告訴されることだよ!!






