1178 ミント戦争
大ショック!!
父、渾身のチョコミントアイスクリームを我が子たちはお気に召さなかったご様子!
何故だ!?
アイスの成分を均一にするための混ぜ込みが足りなかったか!?
「いや、それ以前の問題じゃないの?」
などと訳知り顔で登場するのは妻プラティ!?
薬草園の手入れは終わったの?
「ダルくなってきたから半分くらいで一旦止めたわ。……それよりも旦那様、策に溺れたようね」
なッ、なんだと?
「たしかにこの新作アイス、見た目も味もこれまでにないもので非常に新鮮。意欲作に感じたわ。ミントの爽やかな風味に、チョコのずっしりした甘みがアクセントとなって互いを強調し合う。満点の組み合わせと言っていいでしょう」
そ、そうか……!?
褒めてくれてありがとう、自己肯定感が上がって元気出た!
「この鼻から突き抜けていく清涼感に、どっしり口に溜まるチョコの甘さ……! チョコ味をミントが洗い流して……! ぐおぉおおおおおおおおッッ!! いくらでも食べれる!!」
そんなに貪りつくすように!?
プラティのリアクションが激烈であるほど、俺の傷つけられた自己肯定感も回復する!
ありがとう!!
「うぇっぷ……。しかし旦那様、新鮮な風味にとらわれすぎて大前提を間違えたわね! どんなに目新しかろうと、それが受け入れられなければどうにもならないのよ!」
うぐッ?
それはたしかに……!?
「子どもの舌にミントの味は早すぎるでしょう。ミントはハーブ、ハーブは要するに薬草の一種ですからねー。子どもと薬、なかなかよろしくない組み合わせであることは育児歴も堂に入ってきた旦那様ならわかるんじゃない?」
「われなべに、とじぶたー」
いや、それとはまた違う意味合いで……!?
しかしプラティの発言にも一理あり。
良薬は口に苦し。
そして子どもといえば苦味は大嫌い。ただでさえまだまだ感覚も鋭敏で、味覚だってそう。苦味も大層な刺激だ。
ジュニアもノリトも、俺たち大人のような死んだ舌とは比べ物にならない。
瑞々しい味覚の持ち主。
そんな彼らにとってミントの刺激が強すぎたというのか。
「それにこの青々しい色も及び腰になるんじゃない。今まで食べ物で、こんな色合い見たことないでしょう? 子どもなら特に警戒しちゃうんじゃない?」
それ俺にも覚えがある!
幼子のみぎり、ばあちゃんが作ってくれたヨモギ餅が怖くて食べれなかったんよな!
だって緑色だもん!
餅といえば白だろ、という先入観から緑餅という異様さについつい及び腰に!
ごめんよばあちゃん!
でも今はヨモギ餅が大好きです! 大人になった今なら!
見た目、味……。
様々な観点から子どもたちにミントアイスはまだ早かったということか……!?
「これは、こどものころに、きらいなあじー」
「がむしゃらだった、あのころー」
ぐはぁあああああああああッッ!?
子どもの立場に立てなかったなんて! 俺は父親失格じゃあああああッッ!
「いや、そこまで思いつめなくても……!?」
突き詰めて言えばミントって薬草の味だもんな。
薬草の味って要は薬の味なんだよ。
古来よりミントといえば好き嫌いが分かれていることで有名な食材。
チョコミント好きな陣営と、チョコミント嫌いな陣営で争い続けてきたという。
黄金のリンゴよりなお戦火の象徴となる作物か……!?
ならばこの異世界でもミントは人から受け入れられず、日陰にい続けるのか……?
……否!
ミントは滅びぬ! 何度でも甦るのだ!
(園芸的な意味でも)。
ジュニアたちに不評だったのは、あくまでミントが子どもの味覚に馴染まなかったから!
薬の味であり特徴的な清涼感を持つミントが老若男女すべてに受け入れがたいこともわかる。
だからこそ、ミントの独特な風味を楽しめる大人に、ミントの味を知ってもらおうではないか!
目指せミント復権!
ふぉわりゃああああああああああッッ!!
「ままー、おやつー」
「じゃあ、一緒にカレーせんべいでも食べましょうか」
* * *
そうして訪れた先が……。
『こちらをワシに味わえと?』
そうです先生お願いします!!
是非ともこのチョコミントアイスクリームを、ノーライフキングの先生にご賞味いただきたく!!
ミントが大人向けの風味を持っているというのなら、我が農場にて一番の大人!
千歳である最長寿の先生こそうってつけと思いまして!!
大人の味覚をご賞味ください先生!!
『頼っていただけるのは嬉しいですが……ワシはどちらかというと漬物とか納豆とかの方が好みなんですがのう……。あまり甘味が強いのはちと……』
はい! だからこそ先生にお願いしたいのです!!
大人の味覚を備えた先生であれば、チョコミントの味わいも好みに合われるかと!!
などと熱くミントプッシュしていたら、横から出てくる闖入者が。
『にゃにゃにゃにゃー! 年齢の話ならにゃーも混ぜろにゃー!!』
あ、猫。
と見せかけたアイツはノーライフキングの博士。
先生とはまた別の不死王だ。
『にゃーは全ノーライフキング中、最年長! 圧巻の四千歳にゃ! その人生経験にかけて期待に応えてやるにゃー!』
ではハイ、ミントの葉。
『ぎゃーッ! 匂いがキツイにゃぁああああああッッ!!』
あまりに長生しすぎて永遠なはずのノーライフキングのボディすらガタが来ていた博士は現状、猫の身体を借りて活動している。
感覚も猫のものを借りているのだ。
その状態でミントの刺激的な香りを嗅いだら……。
『にゃああああああッッ!! 鼻がすーすーすしすぎてヤバいにゃぁあああああッ! 五感が断たれるにゃぁあああああッッ!!』
と疾風のごとく駆け去っていった。
ミント厳禁な対象は子どもだけではなかったようだ。
『ふむ……、たしかに刺激的な味わいですのう』
その横で先生はマイペースにミントアイスを楽しんでいた。
『ミントはハーブ、ハーブは薬草、薬草は体にいいのが定番ですからな。体にいいと思えば苦さも辛さも我慢できる。それが大人というものですぞ』
カラカラと笑う先生。
まさに、そういうリアクションが欲しかった。
よかった先生のおかげで自信が取り戻せてきた。
この意気で、異世界にチョコミントアイスを広めていくぜ!!
* * *
そう思って数日後……。
「ミント? そんなの薬みたいな味がして美味しくないじゃない?」
「はぁああああッ!? そう言ってるのはお前の味覚がお子様だからだろうが! ミントの清涼感はスッキリするし眠気覚ましの実用性もある! ミントを舐めんなよくぁあああああああッッ!!」
おかしい。
農場内にチョコミントアイスを広めただけでチョコミン党と非チョコミン党で分かれて争いが始まってしまった。
どう転んでもミントは争いを生む植物なのか?
この状況を鑑みて、俺はチョコミントを世界中に広めるのはストップさせることにした。
まだ人類に、チョコミントは早すぎたか……!?
そんなこんな思っていると上空からバッサバッサと羽音が。
ドラゴン化したヴィールだった。
スィーツ系の新作時には必ず駆けつけてくるヤツが……。
最後に出てくるとは珍しいな。
『なんだか危険な気配を察したのだ。ドラゴンは用心深い生き物なのだー』
世界一の暴力性を備えた生物なのに……。
ヴィールはクルクルパッと人間形態に変身すると……。
「で、これが問題の新作なのだなー。待ちに待った実食なのだ、遠慮なくパクッ」
チョコミントアイスを口に含んでヴィール。
『クゥーーーーーーーーーッッルッ!!』
感動のせいかまたすぐドラゴン形態になるヴィール。
『口の中がスース―するのだぁああああッッ! ひんやり風通しもいい! この状態なら氷のブレスも吐けそうなのだぁああああッッ!!』
チョコミントのおかげでヴィールが新技を?
ミントの可能性は無限大。






