1177 ペパーミントの聖者
俺です。
ここ最近は農業国関係にひっきりなしで忙しないけれど、もちろんそれだけに没頭しているわけじゃない。
農場本拠でも毎年の作物に精を上げているし、父親としても日々頑張っております。
長男ジュニアも次男ノリトも今が人生一番の伸び盛り。
たくさん食べてたくさん大きくならねばならにお年頃。
そういうわけで三食の他のおやつも手は抜けない。
俺はこれまで培ってきた技術と、これまで蓄積してきた数々の素材で様々なおやつを作り出して子どもたちを喜ばせてきた。
ホットケーキの一つも出せばジュニアもノリトも目を輝かせて喜ぶ。そこになぜかヴィールやエルフどもや他の若者たちまでやってきて目を輝かせる。
なんなの。
そのうち、まだ赤ん坊の三男ショウタロウも喜んでおやつを貪るようになるんだろうな……と思うと今から楽しみでたまらない。
しかし、そんな我が家のおやつ事情もただいまピンチを迎えつつあった。
……ネタ切れしてきたのだ。
我が子らにおやつを供しだして早数年。
それだけの時間が経てば数種類しかないレパートリーではすぐに放出し尽くし、お馴染みのもののローテーションになってしまう。
それもまたいいんだが、やはり供する側としてもときには日常に新鮮な驚きが欲しいものだ。
そう思って、日夜新しいおやつのアイデアを探し求める俺であった。
「プラティに何かいいアイデアない?」
「うーん?」
とりあえずはもっとも近しいところの妻プラティに相談してみた。
「そうねえ……いい考えがあるわ。サザエのつぼ焼きにヒントを得た……!」
「あッ、いいです」
器を凝るというのもいいかもしれないが、サザエの殻は明らかに食器として扱いづらさが先に立つ。
そういう捻った構想はエルロンの食器づくりに託すとして……俺たちは元々の目的をズレずに追及していこうじゃないか。
つまりはおやつ作りを。
「そうねえ……サザエ以外にアイデアは出ないけど、そういうことならアタシの薬草園でも見てみる?」
と呟くプラティ。
本当にサザエ以外にアイデアがなかったのか……?
しかし薬草園な。
人魚国のお姫様であったプラティは、嫁ぎ先でもある我が農場の一角に自前の薬草園を保持している。
彼女は優秀な魔女でもあるから、魔法薬の材料となる薬草を安定して供給する仕組みが必要となるのだ。
プラティと同じく魔女であるガラ・ルファも農場に自分用の薬草園を持ち、ディスカスやベールテールなど新世代魔女もそれに倣っている。
それぞれの得意分野に合わせて育ててある薬草が微妙に異なっていて、場合によっては互いの育てる薬草を交換し合ったりと融通関係にあった。
かつて農場に住んでいたパッファやランプアイも薬草園を持っていたが、結婚を機に人魚国に戻ることになって、植えてある薬草を丸ごと移設していった。
そんな魔女の命ともいうべき薬草園。
プラティのそれは農場でも一番年季が入っていて規模も大きい。
俺も長い結婚生活で立ち入ることは何度かあったが、相変わらず壮大で、周囲も緑に覆いつくされていた。
「いやぁー、ちょうどいいタイミングだわ。雑草が生い茂ってきて大規模な草むしりをしようかってところだったしねー」
プラティまさか!?
体よく俺を草むしり要員にしようと!?
「まあ、奥さんが喜ぶことをしてもバチは当たらないでしょうよ。作業の途中でいいアイデアも生まれるでしょうし。……あ、旦那様このウコンなんかどう? カレーを作る時の必須品よ!!」
ウコンもまたプラティの薬草園で栽培されている。
基本我が家で料理をするのはほとんど俺だが、カレーだけは彼女の得意料理で、それもカレーの主原料となるスパイスが、この薬草園で栽培されるが故だ。
「カレーせんべい……もいいかもしれないが、夕飯と被るとちょっとな……」
もう少しアイデアはないかと周囲を探りつつ、雑草もブチブチ引き抜く。
さすがに俺も農業歴長し。雑草とそうでない草の見分けはつく。
「あッ、旦那様そっちはいいわ」
え? なんで?
あの区画、他にもまして草ぼうぼうだが?
「あの辺はちょっと難しいのを植えてあるのよ。繁殖力が恐ろしく強くて、下手に他の薬草の区画と混じると爆発的に生い茂って元々ある種を駆逐してしまうの。そうなると困るから、あとで慎重に念入りに処置するのよ」
ふーん。
そういうもん。
植物にも色々なものがあるものだなあと思った。
そういえば、前の世界でもそういう植物があったなあ。
爆発的な繁殖力で一旦生い茂ったら駆除できないほどだから絶対庭に植えるなって……。
ミント。
そうミントだ!
プラティの薬草園に植えられていたのもミントであった!
ミントといえばハーブの一種。
香りづけのためにお菓子にも多用される植物であった。
これを使えば、また一風変わったお菓子が作れるんではないか!?
「プラティ! これ使ってもいいかなあ!?」
「まあむしったそばからすぐ生えてくるから別にいいけど……」
困惑するプラティを尻目にミントの葉っぱをむしりまくる俺。
むしったそばからミント独特の清涼感ある香りが漂ってくるぜ!!
うむ、俺このミントの香り好き。
爽やかさがあるからなあ。
鼻から抜けていくような清涼感があってこそ、時に胸焼けするほど甘ったるいことのあるお菓子との相性がいいんだろう。
これはいい素材を見つけたぞ!!
プラティのところでたくさんミントを積んだ俺は、ひとまず作り置きしてあるヴァニラアイスを引き出し、そこにミントの葉を散らしてみた。
実食。
「これはよい!」
想像通り絶妙の取り合わせだった。
単体だと甘ったるいヴァニラアイスを、ミントの葉が口に入るたびに清涼感で洗い流し、何度でも新鮮な甘さが味わえる!
これが味と味のマリアージュってわけかい!!
続いての実験で、ハーブティを作ることにした。
ミントはハーブの一種だからな。
ぐっつぐつに沸騰させたお湯にミントをぶち込み、待つこと二分程度。
煮出したミント成分で満載のフレッシュミントティが完成だ。
ゴクッと爽やか。
「……鼻から抜けていく……!?」
なんか空気が。
ハーブティと言ったら他にも数種類のハーブと呼べる草をブレンドしたり、ティータイムよろしく砂糖をぶち込んで味の調整したりするものだが、この度混じりけなし百パーセントのミント成分ストレートパンチで脳みそから吹き飛ぶ。
「フッククク……コイツはガンギマリだぜ……!」
さすが眠気覚ましガムの主成分に採用されるほどだぜミント……!?
という感じで実験検証はつつがなく進み……。
ついに実装段階に入る!
ジュニアたちの食卓に上るからにはもっとも目新しい新作料理に仕立て上げなくてはな!
ただ美味しいだけではない、目で見ても楽しめる記憶に残る料理とするのだ。
そこで思いつくのがチョコミントアイスクリーム!!
あの常識外れた青々とした色!
そんな珍奇なる色を一目見て驚かないはずがない!!
ということでチョコミントを作っていくぜ!
そのためにまず、アイスクリームに混ぜ込むためのミントシロップを製造する。
ミントティーを作った時以上にミント葉を煮詰めて徹底的にミント成分を煮出す。
そしてドカンと砂糖を混ぜる。
そうして出来上がったのが葉っぱから液体へと成分が移ったミントシロップ!
うわ緑ぃ……!?
想像以上にグリーン……!?
こんなもの混ぜ込んだらそりゃアイスクリームも青々しくなるものさ。
しかし俺は迷わず踏み出す。
まだキンキンにまで冷やしていないアイスクリーム生地にミントシロップだばぁ。
ついでに刻んだチョコレートへんも、だばぁ。
それらを均一成分になるまでかき混ぜて、あとは冷凍庫にぶち込んで時を待つ!
* * *
さあ、出来上がったか!?
我が新作、チョコミントアイスクリーム!!
うーん青いぜ! ガガーリンが感動するぐらい青いぜ!
そしてちりばめられたチョコ片も重要なアクセントだ! 鼻から突き抜けるような清涼感と、チョコレートのどっしりした甘味がこれまた好対照でハーモニーを奏でる!
どうだ我が子らよ!
これが父の新たなる自信作だッッ!!
「おくすりくさい~にがい~!」
「りょーやく、くちににがしー!」
……あれッ?






