1170 ドラゴン初シフト
オレ様はプロトガイザードラゴンのテュポン様だー、ぐははははははは!
おれ様はダンジョン主になったぞ!
これからおれ様は一国一城の主ってヤツだー! ぐわはははははは!!
え? 違うって?
所詮アレキサンダーのヤツから借り受けた小さいダンジョンの管理人になっただけだろう?
うるせぇよ!
今はそうでも原始皇帝竜であるおれ様は、いろんな意味合いでのポテンシャルに溢れている!!
今はアレキサンダーの支配力に溢れているダンジョンもそのうちおれ様が影響力を増して完全に自分のダンジョンにしてやるぜ!
庇を貸して母屋を取られるってヤツだな(?)わはははー!!
そのためにも今はダンジョン管理者としての仕事に従事しなきゃな。
最初はめんどくせえと思ったけれど、あのヴィールとやらから教えられて、けっこう面白そうに思えているおれ様だぞ。
はーん、ここが問題のダンジョンか。
この辺りのニンゲンどもの集まっている場所から多少離れて、適度な距離のところに小さな山ができていた。
つい昨日までは何もないただの森だったって言うのに。
アレキサンダーが軽くマナを注入してこんな亜空感ができるんだから、やっぱ物スゲーよなアイツ。
「ではテュポンよ。このダンジョンはお前に任せる。お前の思うままにしてダンジョンを盛り立ててみるがいい」
フン、当たり前だ!
おれ様はおれ様の自由にしかやらないぞ!!
「私は自分のダンジョンに帰るが、これからお前はここで生活してダンジョンを盛り立てていかねばならん。すべてお前ひとりでやらねばならぬのだから心してかかるのだぞ」
お、おう……!?
「一人だからと言って自堕落に過ごしてはいかんぞ。就寝起床、決まった時間にしなければいかん。洗顔歯磨きもしっかりするのだぞ。食事は好き嫌いせずに野菜も摂るのだ。近くに聖者やヴィールがいるんだから困ったことがあればすぐ相談しなさい。私もできる限り様子を見に来るようにするから……!」
ええい、わかったわかったわかった!!
何、心配げに繰り言してるんだ!? おれ様はプロトガイザードラゴンのテュポン様だぞ!
ダンジョン管理ぐらい一人でこなして見せるわ!!
さあ、わかったらとっとと帰れ!
いずれ世界中に轟きわたるであろう、おれ様の評判を遠き地で耳にするんだな!!
……ふぁー。
やっと帰りやがったか過干渉なヤツめ。
これでやっと、おれ様の独立ダンジョン暮らしを始めることができるぜ。
ここで頑張ってダンジョンを繁盛させれば、きっとおれ様にもアレキサンダーを凌駕するぐらいの能力を得られるはず!
あの農場の死体モドキがそんな風なことを言ってたんだから間違いない!
さあ、今日から始まるぞダンジョン管理者!
おれ様の栄光の第一歩だ!!
* * *
……はー、暇だな。
品出しは終わってるし、フェイスアップもさっきやったしでやることがねー。
また見回りでもしてくるかなー、と思ったら、来たぞ侵入者!!
ついにおれ様のダンジョンに人が来やがったな!!
どれどれ! 監視魔法で早速覗いてやるぜ!
ここからは魔法を使った遠見の映像だ!
ふむふむ……侵入者は男どもの一団か。
人数はざっと十人。
ま、おれ様にかかれば一瞬で全滅だな。
しかし今のおれ様はダンジョン主、腕っぷしではなくダンジョンに組み込まれた刺激で勝負しなければな!
さあ、十名様ご案内!
我がダンジョンの妙をたっぷりと味わってもらおうか!!
そうしてダンジョン内を進む侵入者たちを息をひそめて観察する。
魔法で遠視しているので息をひそめようとひそめまいと意味ないんだが。
「うわー、この感じ、アレキサンダー様のダンジョンに似てるなあ」
「アレキサンダー様のダンジョンの体験版なんだろ? そりゃ似てるだろうさ」
「違ったら体験版にならないからなぁ!」
うぐッ……!
おれ様にとっては思い出したくないことをことさらに言いやがって……!?
そう、このダンジョンの設営元はあくまでアレキサンダーのヤツ。
まずアレキサンダーがマナを送ってダンジョンを実体化し、家令とヤツとかが調整して、ヤツらの住処と寸分たがわぬように仕上げたんだとか。
それを、このおれ様がエネルギー供給して形を維持しているんだ。
内装を変えようとかしようと思えばできるが現在のところ禁止されている。
――『せめて運営開始一年目くらいは趣旨を保ってください』と家令から言われた。
くっそ、しかしいつかおれ様の思い通りに変えて、正真正銘おれ様のダンジョンにしてやるぜ!!
そんなおれ様の決意も知らず、侵入者どもはずんずん中へと分け入っていく。
「懐かしいなあ、オレらも冒険者やってるときはこうやってダンジョン探索したっけ」
「結局は芽が出なかったけどなー」
「たしかに。人類相手とモンスター相手ってまったく違うってのを思い知ったよなー。中には上手く適応できたヤツもいたけどよー」
「ま、オレら天職は傭兵で、冒険者には向いてないってことだよな」
何の話だ?
ああ、そういやなんかで聞いたっけな。
この土地にいる人族って、冒険者から落ちこぼれたヤツなんだって?
さらに言うと元傭兵で、戦争が終わって職にあぶれたから冒険者に転向したものの、そこで上手くやれなくて開拓に流れてきたとか。
へっへん、落ちこぼれってヤツだな。
そんな連中、生まれ持っての最強優勢種プロトガイザードラゴンであるおれ様から見れば哀れ極まる存在だぜ。
「まあ体験版ダンジョンとはいえ、探れば素材がちゃんと出てくるのは助かるがな」
「まったくだぜー! お陰で毛皮とか布地とか鉱物とか色々出てきて大助かりよ! あと肉も!」
「どれも木々を切り分けるだけじゃ手に入らないけど必要なものだからなー。今までは外からの支援に頼らなきゃ入手できないって言われてたから近場にダンジョンできたのは本当に助かる」
お、おう……!?
そんな風に有難く思われるとは、意外……。
フン、ニンゲンというのは生きるために色んなモノが必要になるということか。不便で哀れな生き物だな。
おれ様であるところのドラゴンは、この身一つあればどこででも生きていける。それこそ極寒灼熱、海中や宇宙空間でも。
羨ましいだろうなあニンゲンども。
「またダンジョンに入るなんて夢にも思わなかったよなあ。オレは開拓者になった時点で一生ダンジョンとは縁のない生活になるかと……」
「本当にこの開拓地は思ってもみないことが起こりすぎだよなあ。……何お前、もう二度と入れないと思ってたダンジョンに入れて、嬉しい?」
「いや、そんなに」
ええッ?
何言ってるんだコイツ? おれ様の管理するダンジョンに入れて光栄だぐらい言えよ?
「自分にダンジョン探索の才能ないってことは短い冒険者時代に思い知ったからさー。今は木を切り倒して土均してる生活の方が楽しいわ」
「やっぱり? オレも似たようなもんだわー。ドキドキ未知の冒険よりも、地道でも毎日をコツコツ過ごしたいよなー」
「それが性根に合ってるっつうかー?」
なんだコイツら、地道にコツコツ?
そんなことして何になるって言うんだ?
強さで根こそぎ破壊し、奪い取ってこその生き物だろう? ニンゲンの考えることはよくわからん。
「それに今の生活をしてると、生きるか死ぬかのスリルなんてゴメンってなるよなあ」
「そりゃあお前、嫁さん貰ったからだろ! いや、これから嫁さん貰うのか?」
「慰めに来てくれた娼婦の中に幼馴染がいたとか、どんな運命だよ? 演劇にもそんなご都合展開ないっつーの!」
と集団の中の一人を囲んで小突き回す。
嫁?
つがいってヤツか。ドラゴンの間でも流行ってるな最近。
「彼女が家で待ってると思うとよ、とても危険なことなんてやれねえわ。傭兵の頃は何で無茶できたんだろうって今思い出して怖くなる」
「若いからこそできた無茶だよなあ」
「オレらも歳食ったってことよ。ダンジョンの素材集めは適度に片づけて、早く開拓作業に戻ろうぜ。外のヤツらも交代待ってるだろうし」
「地道にコツコツ、これに勝る生き方はねえってな」
……。
フン、所詮落伍者どもの自己弁護だ。
しかしそんな一団を狙って、背後からモンスターが忍び寄ってきた。
気配を殺すのが美味い獣型のヤツだ。
遠見で監視しているおれ様だけが気づけた。
「えッ!?」
ヤツらが気づいたときには、もう飛び掛かられていたあとだった。
剥かれた牙は目前に。あの距離と速さでは、もうどうあってもよけられないし防げない。
牙の狙いは喉笛。
あれはもう死んだな。幼馴染が待っているとかほざいていたニンゲンだ。
……。
ギャウンッ!
と獣型モンスターは跳ね飛ばされた。
そこでやっと周囲の者共も異変に気づき、まばらに武器を取り出す。
遅すぎるわバカ共が。
これでは冒険者を落伍するのも納得の鈍重ぶりだ。
「え? 何が起こった? モンスターが……なんで吹っ飛ばされてんの!?」
「知るかそれより戦闘だ戦闘!! 考えるのは安全が確保できてから!」
「オレらだいぶ平和ボケしてんじゃん! これ他の連中にも注意喚起しないと」
……フン、ダンジョン主みずから助けなきゃいけないとか、本当にトロ臭いヤツらめ。
仕方なかろう、このダンジョンの目的が本来のものと違って宣伝なんだから。
いきなり死人なんか出したらイメージダウンが甚だしすぎる。
アレキサンダーのヤツに怒られてしまうぜ。
当面はヤツらの要求通りの管理者を演じて、雌伏しておかないとな。






