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116 農場の人間関係 その三

 ときに、大地の精霊たちがもっとも懐いているのが現状、サテュロスのお姉さんたちだ。


 サテュロスは獣人の一種。

 人と山羊の混合であると言われる彼女らは……、その、何と言うか……。


 ミルクを生産する。


 日夜、農場にミルクを始めとした乳製品を提供して、瞬く間に我が農場で重要な位置についた。


 そんな彼女たちの重要な作業は、大体夕方頃に始まる。


              *    *    *


 夕方。

 それは一日の仕事が終わる頃。


 屋敷内で掃除や整頓を行っていた大地の精霊たちも終業し、メイド服を脱いで畳む。


「きょーも、おつかれさまでした!」

「「「「「「おつかれさまでした!!」」」」」」


 挨拶を済ませた精霊たちは一斉に大挙してある場所目指して駆け進む。


 ……あと一応補足しておくが、メイド服を脱いだ大地の精霊たちはシンプルなワンピースっぽい出で立ちになっているぞ。


 そして彼女らが到達したのは、サテュロスの作業場。


「おねーさん! おつかれさまです!」


 精霊の一人が元気に呼びかけると……。


「あらあら、今日も一日頑張りましたねー」


 その声を聞きつけてサテュロスチームのまとめ役パヌが出てくる。

 相変わらず、色気が匂い立つような佇まいだ。


「では、用意いたしますのでちょっと待ってくださいね」

「「「「「「は~い!!」」」」」」


 パヌの前で行儀よく整列する精霊たち。


「では、召し上がれ」


 パヌが出したのは、小皿に盛られた一欠片のバターだった。

 それが精霊たち一人につき一皿。人数分揃っている。


「「「「「「わ~い!!」」」」」」


 精霊たちが大好きなのはバター。

 何故かは知らないが、このバターは日々屋敷の整理整頓を務めてくれる精霊たちへの正当な代価だった。


 サテュロスたちが我が農場で乳製品作りを始めるようになってから、精霊たちのためにバターを作って仕事終わりに配布することは、優先度最上位の習慣になった。


 精霊たちは、ひとしきりバターを舐め回して満腹になると、お礼とばかりにパヌに抱きつく。


「いつも、おいしいバターをありがとうです~!!」

「こちらこそ、いつもとっても美味しそうに食べてくれてありがとう」


 その抱擁も一種の習慣になっていて、サイズ的にも幼女のような精霊たちと、母性たっぷりのサテュロスが抱き合う様は傍から見ていて心がほんわかする。


 なので他のエルフや人魚族、オークゴブリンの顔触れも、仕事終わりにこの光景を見て心癒されようとその場に集まってくるのだった。


 かく言う俺もその一人だが。


 そんな出歯亀どもに気づいたパヌが……。


「まあまあ、皆さんも今日のお仕事お疲れ様です。すぐ用意しますのでお待ちくださいね」


 と聖母の大らかさで作業場の奥へと引っ込んでいく。

 精霊を一人抱きかかえたまま。


 そして再び出てきた時には、両手に一つずつトレイを抱えていた。

 そのトレイの上には乗せられる限りたくさんのガラスコップ(エルフ、ガラス細工班作成)が乗っていて、さらにそのコップの中は純白の液体で満たされていた。


「一杯のミルクで、一日のお仕事を締めくくってくださいね」


 サテュロス族特製ミルクである。

 皆は勧められるまま、コップを取ってミルクをがぶ飲み。これが美味い。


 五臓六腑に染み渡る美味さだ。


「美味しい!」

「いつも美味しいミルクをありがとうございます!」


 サテュロスミルクで我が農場は、毎日健康!

 カルシウム不足とは無縁で、皆イライラすることはない。


 なんだ。

 わざわざ心配しなくても、ウチが平和なのは間違いないことじゃないか!


 何せ住人全員が、毎日ミルクを飲んでるからな!


              *    *    *


 最後の余談。


 背筋の凍るような気配がしたのでノーライフキングの先生が来たんだな、とわかる。

 出迎えに外へ出てみると、やっぱり先生がいた。


 ただしヒュペリカオンのポチと一緒にいた。


『おお、よしよしよしよしよし。よぉ~しよしよしよしよし。よしよしよし……!』


 そしてめっちゃポチのことをモフモフしていた。


 頭から顎から背中まで、総身を舐め回すように撫でまくり。


『よしよしよしよしよしよしよし、よぉ~し……!』


 ポチは、遠目にいる俺からでもわかる困惑の態度だった。

 しかし逆らってはいけない相手だと本能で察知していて、仕方なくなされるがままって感じ。


『よしよしよし。よし! よし? よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし……!』


 さっきからポチの尻尾が垂れてピクリともしていない。

 可愛がり過ぎのストレスで脱毛しても可哀想だから。そろそろ助けに入ってやるか。


『よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし……!』

「先生?」

『よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし……!!』

「先生ッ! 先生ッッ!!」


 まさか一回呼びかけただけでは気づいてもらえないとは。


 数度の「先生」コールでやっと気づいた先生は、俺がいることを察知した瞬間、ポチを撫で回すための中腰の姿勢から直立へ移行。居住まいを正す。


『……我は生と死を超越した者。命なき者の王……』

「はい、知ってます」


 先生がそこまで犬好きだったとは知らなかったけど。

 照れ隠しに初登場の時点までキャラを戻さんでもいいじゃないですか。


 やっと解放されたポチは、むず痒さを解消するかのように後ろ足で顎を掻いていた。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
[一言] ミルクの生産もそのうちたりなくなるだろうし どうするんかな
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