1166 海藻の回想
物産展も無事終わり、残るものもあった。
それは思い出とか、一仕事やりきったことで得た成果……というのもある。
元々政略的な狙いありき出始めた企画だったし。
俺たち農場国の存在感、未来の貿易ハブ国家というイメージを上手く印象付けられたと思っている。
しかしそれ以外で、もっと目に見える形で残ったものがある。
それこそ物質として残ったものが……。
それがこの……ワカメの山だ!!
「なんでこんなに……!?」
俺の目の前には、それこそ山盛りとなって俺の身長より遥かに高い……体積的には俺の十倍はありそうなほどのワカメがこんもり積まれている。
どうしてこんなに山盛りかというと……。
物産展で人魚王のアロワナさんが持ってきたワカメが、残ったのである。
そして持ち帰らずに置き去りにして去ったのである。
――『どうぞ、皆さんで召し上がってくだされ』という言葉を一緒に残して。
それ体のいい残り物処理にならない?
誤解なきように、物産展本番でワカメは大好評で、多くの参加者が山盛りワカメを購入し、美味しく食べていってくださった。
それでもまだこんなに残ったんだ。
一体どれだけのワカメを会場に持ち込んだのだろうと思う。
……一トン?
「ワカメって結構簡単に増えるからねえー。アロワナ兄さんのことだし養殖しようとして加減を間違ったんじゃない?」
人魚王の妹としてプラティのコメント。
それで過剰在庫をこっちに?
「物産展でさばき切ろうと思ったんでしょうけど、あの千客万来をもってしても消費しきれないとは……。生産にパッファかランプアイでも関わったのかしらね?」
ともかく俺たちはこの量のワカメを消費していかないといけない。
食べ物には賞味期限があるからなあのんびりもしていられないけれど、同時に乾物にすることでる程度保存可能になるのもワカメの特色だ。
ミネラル豊富で長期保存にも向く。
ワカメは完全食品だぜ!
それでもこの山のような量は問題ありだが。
「この量を消費しようと思ったら相当な時間がかかるわよ? ウチにも数いるけど、それをしても追いつきそうもないワカメの量……!?」
なお恐ろしいのは、開拓地にもこれと同党あるいはそれ以上の量のワカメがあるということ。
開拓地にも相応の人数が根差しているが、それでもあのワカメの量は相当だろう。
「味に飽きるっていうのも問題よねー。味噌汁にぶっこむにしても毎日はさすがに無理だし……。いつになったら片づけられるかしら? 農場国が完成する方が先かも……?」
プラティが怖い冗談を言ってきた。
やめてくれ、ただワカメを消費するだけのことを壮大な物語にしたくない。
ということで対策を練っていくぞ。
まあ、基本的にワカメを消費するには食べていくしかないんだが。
土に撒いてもワカメがニョキニョキ芽を出すわけもないしな。
……ワカメって肥料になるのかな?
まあ、いいや。
先ほどプラティが言ったように、同じものを連続で何回も食していれば飽きが来るのは必定。
ワカメと聞いて一番に思いつく食し方は味噌汁の具だが、そんなに毎日毎日ワカメ味噌汁は摂取できない。
豆腐の味噌汁も飲みたければネギ味噌汁も飲みたいし、トマト味噌汁も飲みたい。
では他に、ワカメのいい消費法はあるかというと……!?
「ワカメご飯作るか……!」
ワカメご飯といえば、誰もが好きだろうけれども、好きな料理には挙がりにくい隠然たる存在。
しかし給食のメニューにワカメご飯が出てくるととても嬉しかった記憶は残っている。
そんなワカメご飯の作り方は、ホカホカの炊き立てご飯に、刻んだワカメを混ぜる。
ただそれだけ。
正確にはワカメに味付けしてあるけれども。
少量の塩と醤油を加えて、ワカメと一緒に混ぜ込みご飯に浸透させる。
このほんのりとした海を彷彿とさせる塩味がまた美味しいんだ。
「へぇーこれは美味しい。……美味しい……美味しい!!」
段階的にテンションが上がるプラティ。
「ご飯とワカメ、まったく違う歯ごたえが混ざり合って独特の新鮮さを発揮! とてもいい味だわ! 塩の効いた味付けもワカメの海っぽさに合うし! ……口の中に海の香りが漂ってくるかのようだわ……!」
人魚であるプラティとしては。海の風味なんて慣れたものだろう。
だからこそ最初は反応が鈍かったし、味わいうにつれて自覚的になり、なおかつ郷愁ブーストもついて、あの段階的ハイテンションになったんだろうな。
はてさて、ワカメご飯のポテンシャルはただ茶碗によそってかき込むだけにとどまらない。
その真価は、おむすびにした時にこそ発揮される!!
適量とったワカメご飯を手の上でコロコロ転がし……。
できたぜ!! ワカメおむすび!!
真ん中に詰め込むような具もないが、その代わり全体にまんべんなく混入するワカメ。
おむすびによく合う塩気。
ワカメご飯こそおむすびの隠れた定番!
そしておむすびにしたからにはするべきことは一つ。
ヘパイストス神をまつっている神棚に備えた。
ヘパイストス神は俺がもっともお世話になっている神で、かつおむすびが大好きなのでこうしてお供えしているのだ。
おむすびはすぐさま天差す光を浴びて、そのまま天上へと昇っていった。
キャトルミューティレーションみたいだ。
そして数秒の間のあと……『好』という神託が下って、気に入っていただけたようでよかった。
「やったわね旦那様!! ワカメおむすびは神の審判を通ったわ!!」
「よし! これから毎日ワカメおむすびをお供えしたら、ワカメ消費もはかどるな!!」
それを聞いてか、さらに『え?』という神託が下った。
ワカメも元々美味しいし、栄養豊富だし、あともしかしたら髪の毛生えてくるかもしれないし。
食品として優秀なのは間違いないので、この分なら無事今ある分もほどなく消費し尽くせることだろう。
そう安心していた矢先……なんか次元を突破して我が前に勝手に降臨してくる神がいた。
『聖者ッ……! 聖者よ! そなたのワカメおむすび見せてもらったぞ!!』
おや、菅原道真公。
どうしたんですかいきなり? っていうかワカメおむすびのことを何故アナタがお知りに?
噂を伝え聞いたにしてもレスポンス早すぎやしないか?
『今、奇遇にもオリュンポス神界にいてな!! ヘパイストス神が奉納されたおむすびを貪っていたのが目に入ったので! あれは聖者が拵えたもので相違ないか!?』
はあ、そうですが。
な、何か問題がありました?
道真公の信者はワカメを食してはならない宗教的理由があったとか?
『いいや、そんなこともない。ワカメ美味しいよな! ただ同じ海藻つながりということで、是非とも聖者にお勧めしたい商品がある!!』
……はあ?
『それがこれ!「梅の実ひじき」だ!!』
……はあ。
『我が神居、大宰府で開発された品で、ひじきにカリカリ梅を混ぜたものだ! ご熱々のご飯にかけて食べるととても美味しいご飯の友だ!!』
ほうほう。
試供品をいただいたので、実際熱々ご飯にかけてみる。
もぐもぐ……。
うめぇえええええええええええッッ!!
ひじきの独特な食感に梅のカリカリ間のハーモニー!
さらに全体にほんのり梅の酸っぱさがかかっていて食欲促進させる!!
『そらそら美味かろう! 必要な時はいつでも私の方から送るんでな! では用も済んだところで天界に戻らねば! 私の順番が回ってきたら勝手に操作しそうなヤツらばっかりだしな!!』
そう言って道真公、あわただしく去っていった。
……なんだったんだ?
まあ気持ちはわかるが。
何かしらきっかけあれば地元のご自慢品紹介したくなるものよな。
道真公によってはひじきと同じワカメが出てきたことでねじ込めると判断したらしい。
愛があふれ出していますな。






