1157 智の頂上決戦
なんやわけわからんうちに決まってしまった三本勝負。
農場チームvs『聖なる白乙女の山』チーム。
一本目の天使対決は、積み上げた経験を活かしきったホルコスフォンに軍配が上がった。
そして第二戦は……。
世界最恐、ノーライフキング対決。
物産展を開催した農場国予定地には、我が農場からノーライフキングの先生が参加。
「すみません先生、急にお呼び当てして……!?」
『かまいませんぞ、聖者殿のおためならば……』
先生がいい人で助かった。
こちらとしてはソンゴクフォンの世迷言に付き合う義理など一ミリもないんだが、さっきの天使対決で盛り上がってしまってな。
「次の対戦見せろー!」
「盛り上がって来たぜー!」
後夜祭に残った物産展の参加者たちはすっかり名勝負に飢えておられる。
……後夜祭自体もなし崩し的に始まったしな。
そんな先生の対戦相手として立ちはだかるのは、同じくノーライフキングの家令。
『名高い三賢の一角と手合わせできる僥倖。そうそうあることではありません。こちらもいい機会と捉えさせていただきます』
不死の王でありながらアレキサンダーさんに従うという一風変わった存在。
俺も今日あったばかりなのでどんな人柄なのかさっぱりわからぬ。
そんな先生と家令が向き合う、ノーライフキング一本勝負。
『家令か……そなたの噂は伝わっておる。とびきりの使い手であるとか』
『三賢たるアナタ方に比べるべくもなく。先生、博士、老師。御三方は、死という限界を超えたはずの我らノーライフキングの遥か頭上に聳え立つ真の限界。まさに死以上の絶対と呼ぶべきもの』
『大仰に語らうものよ。この対決も余興以外の何者でもなく、肩の力を抜いていこうぞ』
『私も最初はそう思っておりましたが。アナタ様と仕合えるとなれば高揚を抑えきれませぬ。あの無節操天使め、またしても慮外言を……と思っておりましたが、禍福はわからぬものですなぁ』
なんだか家令さんの態度が積極的であった。
それに対し先生はやれやれといった風で。
『アレキサンダー殿に仕えし不死王たちは、皆かつては冒険者だったと聞く。未知未踏なるものに挑戦する気質か。死してなお血の滾りを失えぬとは、まさに業というヤツだわい』
『先生のごとく真理へと立ち入るには煩悩多き身にて』
『死してな忠節を尽くす道を選んだ者の、捨てきれぬ私欲か。……悪くない』
先生の眼窩が怪しく光った。
先生が、他のノーライフキングと争う場面はこれが初めてじゃない。
かつてノーライフキングの皇帝と戦ったり、他にも伯爵とかいうノーライフキングとも争ったとか。
それらの戦いはいずれも先生の圧勝だった。
しかし同じ不死王にもピンキリがあるのだろう。
今目の前にいる家令さんは、無双された二人とは明らかに違う気配の持ち主。
そう簡単に決まりそうな勝負ではない。
『小手調べといこうかの』
先生が青白く光る空間を展開した。
あれは『死光気』!
ノーライフキングのみが扱うという究極で最悪の害悪手段。
先生はあの気を空間に浸透させることで、周囲半径何十キロメートル内にあるものを一瞬で消滅させられるんだとか。
かつてあれを食らったノーライフキングの皇帝はなすすべなく、塵も残さず消し去られたんだ。のち復活したけど。
そんな無残な結末と同じ状況に立たされた家令は。
『……はぁあッ!!』
『ほう』
先生の『死光気』を力任せに跳ね返した!?
さらに一足飛びに跳躍したかと思うと、先生へ向けて斬りかかる!?
『りゃあああああッッ!』
家令は……どこから出したの? 自分自身の背丈並みもある巨大な剣を振り下ろした!
それは剣と呼ぶにはあまりに無骨なヤツだ!
『ほっほ』
しかし先生はスルリとかわす。
その回避行動、まさに暖簾に腕押し。
『わんぱくじゃのう。不死王となってまで、そのように派手な動きがお好みか?』
『生来、無学の徒にて。何をするにしても両手両足を動かすやり方しか知りませぬ』
家令さんは見た目に反してアグレッシブなスタイルだった。
しかし先生の『死光気』を跳ね返したあの力はなんだ?
俺のイメージだけど、先生の力は対処不可能でどうしようもないと思っていたのに。
『私のような何の取り得もないノーライフキング。本来であれば三賢の敵にもなりますまい。しかしながら私には偉大なる主の加護があります』
主?
それは……アレキサンダーさん?
『超竜アレキサンダーに忠誠を誓うノーライフキングの家令は、その代償として主竜より力を分け与えられておる。ほんの一部の力にすぎんが、それでも大元が大元じゃからのう、この世のどんな存在よりも大きいということじゃ』
たまによくいる『オレは世界そのものから力を得ているのだ』とかいう悪役。
無尽蔵な力で攻略はほぼ不可能という相手を、ごり押しで倒せるのが家令ってことだ。
無敵じゃん。
それがアレキサンダーさんの加護を得るっていうことなのか。
『たった一合の攻防ですべてを見抜きますな。さすがはすべての不死王が目標とすべき賢人』
『まあ、純粋な力押しである分わかりやすいからの。アレキサンダー殿の力を得たぬしの力は、他のあらゆるノーライフキングよりも上であろう』
『意味のない頂点です。アレキサンダー様から借り受けたこの力は、あくまでアレキサンダー様のもの。あのお方の役に立つためにしか使えませんし使いたくもありません』
家令さんが、その力を用いて今、先生と戦うのは?
『ノーライフキングとして遥か格上の先生、私にないものをアナタはこの上なく備えている。そんなアナタから多くのことを学びたい。学び得たものでよりアレキサンダー様のお役に立ちたい。それが私の望み』
『勤勉じゃのう』
『己を遥かに凌ぐアレキサンダー様の力をいかようにして凌ぐか。先生、名高き三賢の一角であるアナタの知恵をご披露ください!』
そうして再び大剣で斬りかかる家令さん。
どのように凌げって言われても、それが宇宙最強アレキサンダーさんの力なら、さすがの先生も無理なんでは。
あまりの不条理ゲーにさらされた先生だが……。
『……ふッ』
『ぐおおおおおおおおおおッ!?』
逆に家令さんの方が吹っ飛ばされた!?
どういうこと!?
先生の力が、アレキサンダーさんの力に勝ったとでも!?
『まさかまさか……。宇宙をも消滅誕生させる超竜の力にワシごときが太刀打ちできようもありませぬ。ぶつかり合った瞬間、再生不能なまでに粉々にされるのがオチですの』
『バカな……ではどうやって……?』
吹っ飛ばされながらも、ヨロヨロ立ち上がる家令さん。
よかった大事ないようで。
やはりノーライフキングは何よりタフさがピカ一だ。
『超竜に対抗できる力はただ一つ。超竜の力のみ』
『それは……!?』
『ぬしに触れた瞬間、ぬしに宿るアレキサンダー殿の力を我が物とし、使わせてもらったのよ。それでもってぬしを押し返した、というカラクリじゃ』
『そんな……互いの攻撃が触れ合うのに一瞬の隙間もないはず。そんな刹那の際に、私のマナ回路に侵入し、私とアレキサンダー様の独自パスを解析して割り込み、膨大な力を抜き取ったというのか』
『少々、防犯意識の足りぬマナ回路であったな』
よくわからない数瞬になんかすごいことが行われていた模様。
最強の力を持つがゆえに、対抗するにはソイツ自身の力しかない。
そのセオリーをとっさに思い出し、相手の力を利用してそっくりそのまま送り返す。
そんな芸当ができるのも先生の、千年を生きたノーライフキングとしての知恵と知識と技術と魔力、すべてが結集した結果だ!
やっぱり先生は凄いぜ!
『……参りました』
家令さん。
地面に膝をついて深く首を垂れた。
『そして感服いたしました。これが世界最高峰のノーライフキングの戦い方。ただの力押しでは決して切り崩せぬものと思い知りました』
『ぬしの技も見事なものよ。アレキサンダー殿への純然たる忠誠心あってこその力。感心いたしたぞ』
互いを讃え合う決着。
終わりが告げられると同時に周囲から拍手が巻き起こった。
見る人だれもが感嘆を禁じ得ないバトル。
これが極限まで極めた者同士の戦いということか……!?






