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1155 超竜襲来

 しゃっす俺です。

 物産展も無事終わりました。


 終盤レタスレート&ホルコスフォンの襲来で混乱はあったものの結局治まった。

 ヤツらの紹介した豆は、ご来場の皆様にご好評頂けたようでいくつかの新規契約を獲得できたようだ。


「毎度ありー! お買い上げいただいた豆は運送サービスも行っておりますので遠慮なくご申しつけください! 豆については我がレタスレート&ホルコスフォン豆カンパニーにご用命を!」

「今なら納豆サブスクサービスに初年度無料にてご入会できます」


 次々と新しいサービスを打ち出して顧客を取り込んでおる……!?


 どう転んでも恐ろしい連中よ。


 そんなこんなで物産展もいい思い出に残りそうだなあと、早くも過去の記憶へと昇華されそうなところ……!


 またしても終わりの幕は下りなかった。


「ドラゴンだぁあああああッ!?」

「ドラゴン! ドラゴンが出たぞぉおおおおおッッ!!」


 えッ!?

 物産展会場はまたしても混乱の坩堝に!?


 ってドラゴンだと!?

 ヴィールお前の仕業か!?


「おれはここにいるが?」


 ヴィールは、店仕舞いして自主的打ち上げラーメンパーティの真っ最中だった。


 ヴィールじゃないとしたら一体何者?

 ウチの界隈じゃドラゴンといえばヴィールと相場が決まってるんだが、そのヴィールじゃないとしたら、それはそれで大変なので勘弁いただきたいのですが!?


 結局ヴィールでしたとするのが一番平和的なんだよ!


「失礼だぞご主人様! このおれ様に恐れおののくのだー!!」


 そうこうしているうちに問題のドラゴンが飛来。

 物産展会場の大きく開けたスペースに着陸する。


 そのドラゴンは……間近で見ると通常のドラゴンより巨大。

 ヴィールのドラゴン形態よりも二回りは大きい。


 そしてさらなる大きな違いは、その体の色だった。

 白だ。

 しかしただの白ではない輝くような純白。

 いや実際に輝いている。


 まだ一足も踏み込んでいない処女雪のような白。白銀ですら濁って見えるほどの純然極まりない輝く白。


 そんな純白のドラゴン……見覚えがないぞ。

 いやあった。見覚えあります。


「アレキサンダーさん!?」

『うむ、久しいな聖者よ』


 そう言って純白竜は姿を変えて人間形態となる。


 それはたしかにアレキサンダーさんだった。

 ドラゴン形態の時と見劣りしない白髪と、長くて白い御髭を持った好々爺の姿だ。


「突然押しかけて申し訳ない。本日、そなたらのところで面白い催し物を行うと聞いてな」

「はい……!?」


 その催し物、ついさっき無事終了いたしましたけれども。

 まさかこれから『降り注ぐ血の惨劇が本日のメインイベントじゃー!!』とか言わないよね?

 さすがに言わないか、アレキサンダーさんの人柄は最上級だから。


 ここで一旦、何故俺がここまでアレキサンダーさんにビビっているか説明を加えさせてほしい。


 端的に言って、この御方が世界最強だから。

 いや世界最強などという生易しい表現で収まる相手ではない。

 宇宙最強?

 次元最強?

 とにかくこのドラゴンがちょっと本気出せばそれだけで宇宙が消し飛び、代わりに新しい宇宙が複数誕生するような、そんな凄まじい相手なんだ。


 だからどんなにご本人の人柄がよかろうと舐めてかかっていいことなんてない。


「はわわわわわわ……!」


 ほら同族のヴィールですら『はわわ』って言っちゃうぐらいなんだ。

 生物としての格が違うことを本能で察してしまえるんだよ。同族であるこそわかってしまう絶対的な戦力差。


 でも必要以上に身構えることはやめなくては。


 人柄はね、本当にいいんですよ。

 本当にいい人なんですよ……!


「ごッ、ご無沙汰しております。今日はいかようなご用件で……!?」

「ふむ、さっきも言ったように聖者が主催したという今日のイベントが気になってな」


 だからそのイベント、もうつつがなく終了したんですが……!?


「実は我がダンジョンのことでいささか問題がな。利用者の数が減ってきておるのだ」


 へッ、それは……!?

 気になりますよね。アレキサンダーさんは人の生活に寄り添おうとするドラゴン。そんなケースは実に珍しい。


 彼が根城としているダンジョンも、攻略しに来る冒険者へ格別の配慮がとられており安全性、娯楽性が充分に高めてある。

 ダンジョン管理を一手に担う冒険者ギルドも高く評価しているアレキサンダーさんのダンジョン。


 そんな手塩にかけて整備したダンジョンの客足が伸び悩んでいるとわかれば、それは悩まれることでしょうな!!


「それで調べた結果、原因はここにあると知った」


 へッ!?


「聖者が新しく国を作るということで、多くの冒険者がこちらに流れていったようだな労働力として。その分我がダンジョンから人が少なくなっているということで……」

「すみませぇええええええんッッ!!」


 まさか我が国の勃興が巡り巡ってアレキサンダーさんに迷惑をかけているとは!!

 これがバタフライエフェクトってヤツ!?


 けっしてアレキサンダーさんに敵対しようというわけではなく!

 なので報復とかそのようなことは御勘弁をぉおおおッ!!


「落ち着いてくれ聖者よ。物騒なことなど考えておらんし」

『そもそも聖者の国に関連した人材流動で減った利用者数はあくまで微々たるものと、何度も説明しているのですが……』


 ヒィッ!? 誰?


 アレキサンダーさんに沿うかのようにして現れる新キャラ!?

 俺には見覚えのない顔だが、身なりからしてノーライフキングであることはわかる。

 だって骨と皮だけだから。


『申し遅れました。私はアレキサンダー様の忠実な下僕、ノーライフキングの家令です』


 やっぱりノーライフキングだった。

 でもアンデッドの王とも称されるノーライフキングを従えられるものなのか?


 ……いや、アレキサンダーさんなら可能か。

 逆に言えばアレキサンダーさん以外の誰もできそうにない芸当だがな。


『聖者様のご高名は我が主の御許にも頻繁に届いております。かねてより直接お会いしたいと思っていたところ、思わぬところで願いが叶い重畳にございます』

「それはご丁寧に……!?」


 どうもどうも。

 ノーライフキングって信じられないくらいの長生だから、相当人格ができているか人格破綻しているかのどっちかなんだよな。


『私としては利用者微減は一過性のことなので、むしろ全体的に人口増加している現状を思えばそのうち利息が付いて回復するだろう……とお諫めしているのですが……』


 家令さんの困ったような表情。

 逆にアレキサンダーさんは情熱に煮えたぎったように瞳に炎を宿して……。


「いいや! 時の流れに身を任せるのは経営者としてあまりに無策! これをいい機会にと、我がダンジョンを盛況にするための手を打っていこうと思ったのだ!!」


 いや、だからアナタのダンジョン充分に盛況ですやん。

 農場国の影響を受けて利用者微減に傾いたとしても、せいぜい誤差範囲でしょう?


「そのためにここへやって来た! 今日ここで行われるという物産展? なるものが各地の自慢の品を紹介する趣旨と聞いている!! ならばそれこそ我がダンジョンをいまだ知らぬ人々に知ってもらう好機ではないか!?」


 いや、物産展だから物産展。

 ダンジョンは何も生み出されたモノじゃないだろ、むしろ生み出すモノだろう。


 微妙に趣旨がズレておられるし、第一……。


「もう物産展終了しました」

「『ぎゃふん!」』


 アレキサンダーさんだけじゃなく家令さんもズッコケる。


 だってしょうがないじゃん。

 こんな陽も西に傾いた下校時刻にやってくるんだもん。レタスレートすら滑り込みだったのに、これ以上無限に受け付けてはいられませんよ。


「そんな……なんとかならんか……!?」

『我が主がこうまで頼んでいるのですよ? 少しは手心を加えようとか思わないのですか?』


 そう言われましてもね。

 こっちも物産展を主催したものとしてルールは厳格に守らないといけないんですよ。


「兄上にビビりながらもルールはキッチリ守る。さすがご主人様なのだー」


 そらそうよ

 ルールは守るためにある。

 イベントの無事なる進行のためにルール厳守してくださった参加者さんのことを思えば、あとからルール破りを認めてしまえばちゃんと守った人たちがバカになるじゃないか。


「そうか……ルールじゃ仕方がないな……」


 そしてあっさり引き下がるアレキサンダーさん。

 宇宙最強の力を持ちながら良識を弁えているのがとても愛らしい。


「ちょっと待ってくださいよん!!」


 せっかく話がまとまりかけていたのに、乱入してくるお前は誰だ?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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