1151 智の源泉
ふう、バトッたバトッた。
あれから小一時間、魔王さんと『ゴッド・フィギュア』で遊んでいたわ。
久々であったがやはり面白いな。
時間もたってゲームとしても洗練されていた。
また本腰入れてハマッてみるのもいいかもと思ったが、子どもも三人生まれた矢先、趣味に没頭しすぎるとプラティに怒られそう……。
その辺は一旦置いておくとして、今日の主題は物産展だ。
ここまで人魚国、魔国と見てきたので、次に拝見するのは当然人間国だな。
はてさてどんな特産品が置いてあることやら……。
「あッ、聖者様、よくお越しくださいました」
リテセウスくん……。
揃いも揃って、何故どこも国主がみずから出張ってきているのか?
「僕も大統領として、人間国のためにできることをしようかと。それに僕が言い出した企画ですから、僕が最後まで関わらないといけないと思いまして」
真面目だなあ……。
それで、人間国はどんな特産品を用意したのかな?
これまで予防接種やらフィギュアやら、そこそこぶっ飛んだラインナップを見てきたから心の準備は整っているぞ。
さあ来い!!
「では紹介させていただきます。まずはこれ! ミノタウロス族が丹精込めて育てた牛肉です!」
……。
へぇ……!?
「ミノタウロス族が育てる牛は、その肉はジューシーで柔らかく、口に入れた瞬間蕩けるとさえ言われています。人間国の中だけでなく国外まで評判が轟きわたっていました」
う、うん知ってる……!?
何故なら俺、ミノタウロスさんところの牛肉食べたことあるので……。
「そんなミノタウロス牛ですが、実はここ最近まで生産が途絶えていたんです。何代にもわたって受け継いできた優良な肉牛の血統が断絶してしまったとか。我々政府側も、人間国を代表する名物を復活させはできないかと援助を試みたんですが、どうにも芳しくなく……!」
援助なんてしていたんだ。
何という気配り、さすがリテセウスくん。
「しかしある時、急に肉牛の血統が復活したと聞きまして! これは売り出しの好機と支援金を倍プッシュして販路開拓を試みているところなんですよ」
そりゃあ、この物産展は大チャンスだなあ……。
「さらには、ヤギの獣人サテュロス族の皆さんが提供してくれた最高ブランドのサテュロスミルク! バターやチーズなどの加工品もありますよ! これもこれからの人間国を富ませてくれる大きな財源となるに違いありません!!」
そんなリテセウスくんのプレゼンを聞くに、俺は展示品そのものとはまったく別の方向へ向けた感想を持った。
リテセウスくんの推し品、いたって普通……。
いやまともだ。
地域でとれたものの特色をアピールし、付加価値を示して消費者へお届け、その代金で地域を活性化させる。
これこそが物産展のあるべき姿なんじゃないか!?
いや、だからと言ってアロワナさんや魔王さんが間違っているというわけじゃないんだが……!
でもリテセウスくんは先日、どうもそこはかとなく危うげな印象があったから不安に思っていたことはたしか。
でもそれも俺の杞憂だったということでいいんだな?
やっぱりリテセウスくんはん人間国をしょって立つべき男だぜ!
「ではここで、他の出展者さんたちも見てあげてくださいよ」
え?
他の出展者!?
しかし俺はもう人魚国、魔国、人間国と見回って、これですべてのブースは見終わった……と思っていたんが……!?
「それは認識が甘いですね聖者様、あっちを見てください」
あっち?
リテセウスくんの示した方角を見ると、そこには……。
「エルフー、エルフの陶器いらんかねー!」
「新人の作った新作だよー!」
エルフたち!?
エルフが陶器の碗やらカップやらを売り出している!?
「まさかこの物産展、エルフたちも参加しているのか!?」
「「その通りじゃー!」」
その声は、エルフ族の長、エルエルエルエルシー!?
略してL4C!?
それからエルフ王!?
「そこで売り出しておる器は、森の若きエルフたちが拵えたもの!」
「エルロン宗匠の宇宙的傑作に感化されて、その道を志すエルフの若者が増えておってな! 今日の催しは、その発表の絶好の舞台というわけじゃ! 誘ってくれて感謝してやるぞえー!」
騒ぎ散らしているL4Cとエルフ王。
しかしなんで遠くから喋ってるんだ?
と疑問に思っていると売り場にいる普通のエルフが教えてくれた。
「お二人はハイエルフなので、森の外に出られないですから」
ああして森の範囲ギリギリから見守っているのか……!?
この辺りもだいぶ開拓が進んで更地も広がったからな。人に住みよい環境にしつつ自然も可能な限り残していこうと思った。
「彼女らエルフ族は、三大国のどこにも所属しない独立勢力ですから、物産展に独自で参加する資格が充分あると思ったんです。なのでお誘いの連絡をしておきました」
とリテセウスくん。
気配るー。
「我らの推す商品はそれだけにあらずじゃぞ! 今回更なる目玉模様してあるんじゃ!」
「材木じゃ! 材木じゃぞ! エルフの森から間引いた木は高級木材! これからここに国を建てるお前らにとっては需要高ではないのか!?」
おいエルフ、森を守ろうという固い意志はどうした?
時代に迎合した?
ヤツらの謎の変節はともかく材木はたしかに欲しい!
今までは開拓のために伐り倒してきた木をそのまま流用してきたから屋材について全然気にしていなかったが、これから可住領域を広げていくためにも外からの材料調達は必至。
ついさっき自然に優しくと誓いを立てたところだし必要以上の伐採も避けたいしなあ。
それにアイツら、さっきの文言の中に『高級木材』とあったな。
そこのあたり詳しく。
「ふっふっふ、我らエルフ族が生み出せし最高材木……その名も『エルフ杉』じゃ!」
『エルフ杉』ぃ!?
「滅びかけておったエルフの森を復活させる際、植林した木が随分真っ直ぐ丈夫に伸びたもんでのう! お前らって家の材料になる木は大枚はたいて買うんじゃろう? これで我らも大金持ちじゃ!!」
「その金で新たなエルロン宗匠の器を買うんじゃー!」
あ、そうか金銭欲か。
エルロンの作る陶器に心惹かれた物欲が貨幣経済に絡み取られて金銭欲となり、材木を売るという選択に繋がったか。
しかも杉って……。
一時期滅びかけたエルフの森を救う植林作業に提供した木の中にやっぱり杉が混じってやがったのか!?
大丈夫か!?
杉と一緒にこの異世界にまであの病が輸入されないか!?
「何なら別の種類の材木もあるぞ、オークが好みそうなのでオークの木と名付けてみた」
「ヨーロッパ産の落葉樹!?」
オークって名前の木は既にあるんだから紛らわしいことやめてくれ!
さらにエルフ以外にも物産展に参加している小種族は数いるようで……。
ドワーフの皆さんとか……。
「我らドワーフが手ずから作り上げた職工品! この場でアピールするのにピッタリじゃ! 今日はワシらの独壇場じゃぁあああああッ!!」
「我ら魔島の者たちも負けておらんぞ! 特産品コーヒー豆を外界との接触で刺激を受けて品種改良を重ねた最新作で勝負じゃああああッッ!!」
本当に色んな所から物産展に乗り込んできている。
こんなに賑やかになるなんてな。
農場国が完成したら、これらの品物がここを通して世界中を駆け巡るのだろうか。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁああーッ!! ゴンこつラーメン一丁上がりなのだ!」
ヴィール!?
ドラゴンのヴィールまでもが物産展に参加していたのか!?
「当たり前なのだ! お客さんあるところにおれ様あり、少しでもラーメンを売りさばいてゴンこつスープを減らすのだ!!」
ドラゴンエキスを消費することに勤勉だなあコイツは。
「もちろん今日のための新製品も用意した! 見るがいいフリーズドライ製法で固めた麵に濃縮液体スープを加えたお土産ラーメンセット! これでお家でもおれ様のラーメンを味わえるのだ!!」
コイツ……。
いつぞやのインスタント麺を作った経験を一歩進めてフリーズドライ製法にまでたどり着きやがったか……!?
日進月歩が凄い。
「……なあご主人様。ここで集まってる連中一通り見て思ったんだがさ」
「ん? なんだ?」
「こいつらが特産だって言ってるもの大体、もとはご主人様が生み出したもんじゃね?」
ん?
「魔族どもの作った神の像だろ? うめー牛肉もご主人様が探し求めて見つかったもんだし、よぼーせっしゅ? とかいうヤツもご主人様がガラ・ルファを焚きつけて作らせたようなもんだしな」
「さ、さすがに言いがかりだよ!?」
それにワカメに関しては俺にはまったく関係ないぞ。
でも、それ以外にエルフの陶器とか杉の木とか……。魔島の人たちのコーヒー豆もウチが作ったコーヒー豆に影響受けているようなことを……!?
「アイツらが紡ぎだす文明や文化すべてにご主人様が関わってるのだ……。するってーとよ、この世界を進化させてきたのはご主人様ってことに……!?」
「考えすぎだよぅ!?」
ヴィールの怖い推論に、俺は思わず否定した。
でも否定しようにも仕切れないところが怖かった。