1150 威信を懸けて
物産展、絶賛開催中。
最初に様子を見た人魚国の出展はなかなかに画期的であった。
アレを超える興奮を、他国の特産物ははじき出せるのか? 興味深いところである。
「フックククククク……! この手で天を掴もう……!」
おや、魔王さん。
ここは魔国のブースか。魔国まで国王みずから現地入りなんて、どこも気合入っておられるな。
「当然だ……! 我々は、この物産展に威信を懸けて来ている。優勝するのは人間国でも人魚国でもなく……この魔国だ!!」
いや、物産展に優勝とかないです。
どういう流れでこうなったんだ?
魔王さんの全身から噴き出す闘志が、明らかに平時のものではないんだけれども?
何をもってこんなにキルマインド高いんだ魔王さん?
物産展に親でも殺されたの?
「我ら魔族は人魔戦争に勝利した地上の覇者……! その我々は物産展においても覇者たらねばならぬ……! ゆえにこの魔王、容赦せぬ!!」
普段なら絶対言わなそうなことを魔王さんが言っている!?
物産展は、ここまで人の平静を奪い去るものなの!?
「いや……なんか周囲から煽られてしまったみたいで……!」
そうおっしゃるのはマモルさん!?
魔王軍四天王の一人、魔族にてもっとも良識がありいかなる場合でも頼りになると評判のマモルさん!?
その分、本人への負担は半端ないともいわれるマモルさん!?
「『物産展とは自国のもっとも価値ある品を出店するもの!』『他国より劣るものは出せません!』などと言われて……。普段なら大臣たちから何を言われようと動じる魔王様じゃないんですが。今回ルキフ・フォカレ様から指摘されれたのがツボってしまったらしくて……!?」
『魔王様の変なスイッチを入れてしまった!?』とルキフ・フォカレさんご本人は自省して泣いたという。
「そんなわけで私が歯止め役として同行しました。……と言っても私でどこまで魔王様を抑えられるか、まったく自信ありませんが……!?」
またマモルさんが貧乏くじ引かされてる!?
なんで彼にばかりお鉢回ってくんの、彼より立場も実力も強い人たくさんいるよね!?
こうなったら俺も協力して魔王さんの抑え役に回ろう。
俺も自信ないが……大丈夫、力を合わせれば何とかなる!!
「……で、魔国からは何を出展されるんです? 肉とか? 野菜とか?」
「何を言っておる!? そのようなありきたりなものでライバルたちに差をつけられるわけがなかろう!!」
ヒィッ!?
今日の魔王さん絡みづらいったらない!?
「我が国以外では絶対に見られないもの! 他に類のないもの! それを披露して初めて魔国の偉大さを証明できる! 見るがいい! これが会議に会議を重ねて喧々諤々の議論の末に選びだされた、これが……魔国の魂だ!!」
そんな全力を込められても!
ただのイベントですよ、もっと気楽に行きいましょうよ……!?
で、魔王さんから提示された品物というのは……。
「……何コレ?」
人形?
手のひらサイズから少しはみ出るぐらいの人形。
しかしデザインはややいかつく、少女のお人形遊びに使われるものとは違うとわかる。
これは……筋骨隆々のおっさんの人形?
どういう趣味だ?
「なんと聖者殿、忘れてしまったのか!? 我々の熱く激しいバトルの日々を!?」
え? そんな過去俺にありましたっけ?
自慢じゃないが俺はファンタジー異世界にやってこようとも戦うこともしないのが自慢の男でして。
そんな俺に戦いの記憶など……。
……存在しない記憶?
「聖者様……アレです、『ゴッド・フィギュア』ですよ」
ごっど・ふぃぎゅあ?
んーと……えぇ……?
ちょっと待ってね今思い出す……!
……ああ。
あったあった、そういやそんなことが!
あれだろう! プラモデルみたいな神の像を魔法で動かしてバトルしようという企画!
元々はエルフの神像作りが高じて、一般の人にも安価でいきわたるように縮小化した神々の像を売り出したところ爆売れし、あまりに浸透しすぎたせいか改造して自分の魔力で動かせるツワモノまで現れた。
多くの人が追従し、自分の意思通りに動くようになった『ゴッド・フィギュア』を戦わせて競う大会まで開催され、一時期は大盛り上がりになったほどだ。
当時の俺も、俺の中にある少年の心が大スパークして夢中になったものだ。
ああして一つのことに打ち込める時期が、人生にはあるもんだよな……。
「『ゴッド・フィギュア』フィギュアはあれからも順調に売り上げを伸ばし、魔国では一つの文化として定着しているんですよ……」
なんと!?
俺が速攻で飽きて記憶から消し去ってしまっていた一方でそんなことが!?
「定期的に発売される新商品は即日完売、フィギュア本体にとどまらず専用の改装素材や製作器具も飛ぶように売れています。あまりの人気に『ゴッド・フィギュア』の派生シリーズ『魔王フィギュア』も発売され、そちらも好評を博しています」
『魔王フィギュア』!?
何それ!?
「歴代の魔王様をモデルにしたフィギュアで現在七十四モデルが発売中です。一番人気なのは初代魔王ベリアー様で、累計販売総数五十万代を超えたとか」
それ不敬罪的な観点からいいのッ!?
「神のフィギュアを販売した時点でお察しというか……!」
それもそうか。
マモルさんの脱力感極まった説明に俺も気勢が削がれる。
「『ゴッド・フィギュア』の方も勢い衰えず、次々新作が発表される傍ら、既存作の新モデルなども発表されハデス神クリアVerやメタリックVer、さらには追加武装を盛られたスタービルドストライクハデス神フルクロスなども発売され、それらも大人気です」
いまだ白熱市場じゃないですか!?
そんなに長い期間ユーザーから愛されてきたなんて……それじゃあ速攻で飽きてしまった俺が三日坊主みたいじゃないか!
悔しい!
俺の趣味人としてのプライドが揺らぐぜ!
「このように魔国で大旋風を巻き起こす『ゴッド・フィギュア』は、類似したものは人間国にも人魚国にもないはず……!」
ゴゴゴゴゴゴ……と地に唸るような感じで魔王さんが言う。
「ゆえに我が魔国を代表する一品として出店を決めた。これを超えられるものは他国にもあるまい……!」
国家の代表作が趣味のシロモノって、それはそれでいいのか?
……いいのか。
人は必要なものだけで生きるわけじゃないからな。
心の潤いは必要、それこそが趣味の物だ。
「……実は当初、五聖剣を出展させようという話が持ち上がりまして……」
はいッ!?
マモルさんの話す余談に俺、衝撃。
「あれなら間違いなく他の国にはないからと言って……しかし議会にわずかに残った穏健派というか……冷静派の粘り強い説得で何とか回避を……!」
聖剣出されたらもうそれは物産展じゃなくて秘宝展ですよ。
もちろん非売品として展示するだけのつもりですよね? そう言ってください。
「しかし我は思った! この『ゴッド・フィギュア』こそ魔族の魂がこもった特産であると! 決して万が一にも聖剣が買われたらどうしようとかビビッたわけではない!!」
ビビッたんだ。
そらビビるわな。物産展は大抵展示物の販売しているんだし。
「本日は、この物産展のためにイベント限定、ハデス神(農場カラー版)を用意してきたのだ! 千台限定だぞ!」
それッ、暴動が起きるヤツ!
やめてください群がらないでください! 押さないで!
一人一つまでのお買い上げでお願いします! 列に並び直して再度お買い上げはできません! 転売しないでください!!
「まあ、集客力は高いでしょうね……」
マモルさんがタハハ、と苦笑した。
「さあ、盛り上がってきたところで久々に一勝負どうであろうか聖者殿!? 我が愛機、スーパーヘルメタルハデス神と現地バトルだ!」
え?
そんないきなり言われても俺がブーム初期使ってたフィギュアは多分家に置いてあるからすぐには持ち出せないよ?
「大丈夫だ! これから『ゴッド・フィギュア』を始める人、久々に『ゴッド・フィギュア』に戻ってきた人用に、簡単に始められるエントリースタイルという新シリーズが発売されたのだ! これを一台、聖者殿に進呈しよう!」
商売上手!?
こうやって一旦離れていったファンを引き戻そうという魂胆かッ!?
わかっていても魔王さんから直接勧められては断ることもできない。
こうなったらなすがままじゃー!
ゴッドファイト、レディゴー!!






