1149 海の幸
そんなわけで、物産展当日の俺です。
案外と始めるまでスルスル来たな。
今までだとこういうイベント系は始めるまでに相応の準備があって、それにいくらか時間と手間を割くものだけれども。
実際に準備に動くのは、参加表明をしている各国の人たちということで、俺らはハコだけ用意してお待ちしているだけだ。
会場である農場国も、今は更地の開拓地なので、飾り立てるにしてもやりようがないしなあ。
せいぜい展示用の台とかテーブルとか用意するのがせいぜいだ。
あとまあ物産展を見に来てくれるお客さんが疲れた時のためのベンチとか、お腹がすいた用に食事スペースとか。もちろん自分で食べ物を用意しているかどうかは人それぞれなので、食事もこちらで用意。
ホストとしての最低限の務めだ。
あと遠方から来た人は日帰りもできないだろうから宿泊施設としてホテル的な屋敷を一軒建てた。
オークボたちに頼んで。
ああ、あと馬車で来る人たちのために道も舗装しとかないと。
ゆくゆく輸送路として活用される予定なら道幅広めにとっとくかな。片側六車線だ!!
……やったことといえばそれくらいかな。
まあ今までのような創意工夫がない分、楽だった。今までやってきたことを繰り返せばいいだけだし。
そんなこんなでやってきました物産展。
ここで改まって『物産展とは何か?』ということを再確認してみよう。
物産展というのは、主に特定の地域を限定して、そこの名産特産を紹介したり販売したりすること……らしい。
だから今回みたく世界各地から特産品を持ち寄るのはちょっと違う気がしないでもないが、まあ大丈夫。許容されるさ。
日本語は懐の深い言語なんだから。
と、言うことでまずは運営側の方々が続々と現地入りいたしております。
各国を代表して、それぞれ自慢の一品を持ち寄ってきた方々だ。
到着順から紹介していこう。
現地への一番乗りは……人魚国のアロワナさんだった。
「やあやあ! ここが聖者様が新たに治める土地ですか!! この何もないが、これからわんさか色々なものが建つと考えると、農場の初期の頃を思い出しますな!」
「妹を掘っ立て小屋に寝かすのかって怒ってましたよねー」
この世界で主立つ三大国の一つだから人魚国も当然参加を表明した。
しかし国王たるアロワナさんみずから乗り込んでこられるとか意気込みを感じますな。
「国交が開かれたことで、貿易が拡大することは我ら人魚国の最課題ですからな。これまでもできる限りの交流はありましたがまだまだ足りぬ、どんどん規模を大きくしていきたいのです」
そのためにも今日の物産展は絶好のチャンスというわけだった。
「ここで物産展に出したものが好評を博せば、交易品として一気に商品価値が高まりますからな! 外貨獲得ですぞ!!」
商魂たくましいコメント。
アロワナさんも人魚王として自国を富ませていきたい、その思いが強いんだろう。
そこで……人魚国は物産展に何を用意してきたんです?
「ワカメです!!」
……。
ワカメかぁ。
「ワカメは食べられる海藻であり栄養分豊富! パッファが言うには鉄分? ミネラル? がたくさん含まれているんだとか。よくわからんが体によさそうな響きだな!!」
「ワカメって知らん間に増えてて処分に困るのよねー」
プラティが所見的に言う。
実兄が乗り込んできたということでさすがに顔を出しに来たようだ。
「網とかに絡みつくとなかなか取れないし……。なるほど! ワカメを国外へ輸出できれば厄介なものが減って一挙両得! さすが王様らしい小狡い考えだわ!」
「二重三重に失礼極まる言いぶり!? 邪推はよくないぞ妹よ、私は純粋にワカメが世界に誇れる我が国特産品だと純粋に信じるからこそ、出展したまでで……」
「えー? でもさすがにー?」
「いいか、陸の聖者様に嫁入りし、長いこと海から離れているお前は知らないかもしれんが、最近ワカメのある重要な効能が発見されたのだ! それを聞けば世界に誇れる価値あるワカメと認めてくれるだろう!!」
え?
まさか異世界ワカメに、何か想像もしえない付加価値が!?
MPが回復するとか?
「いいか! 実はワカメを食べると……髪の毛が生えるらしい……!」
……。
いや、あのお義兄さん、それ……。
そう言われてはいるけど科学的根拠は一切ないヤツ……。
「はあ? 髪の毛は普通に生えるものでしょう?」
「これだから!! 世の何千万人という男が未来に不安を抱え、そして厳しい現在に直面する男も少なからずいるのだぞ! その不安、悲しみ、嘆きをワカメが救ってくれるなら、縋りたくなるのが人の情ではないか!!」
アロワナさんも生え際とか気になっているのかな?
正直俺も気になっている。
虚実定かならぬものに望みを懸けるのは正直感心しないけれども、懸けたくなる気持ちもわかるというか。
まあ、それを除いてもワカメはミネラル豊富で健康にいいからな!!
食べて損はなし!
ということで皆! もっとワカメを食べよう!!
「もちろん持ってきたのは一品だけではないぞ。次は……カニだ!! 見てくれから陸人はなかなか口に運んでくれなくてな」
日本育ちの俺は、たしかにもうカニは高級食材って知ってるけれど。
たしかに一度もカニを見たことのない人にとっては、これが食べられるもの……しかも一杯一万円とかする高級食材だなどと思いもしないだろう。
内陸部にお育ちで海すら見たこともない人ではカニも見たことないだろうしなあ。
そしてあの見た目を『美味いから食ってみろよ!』と言われても大金はたいて冒険しようという気にもなれまい。
「しかし、こうしたイベントがらみなら普段は踏み出せない一歩を踏み出してみようという気にもなれるはず!! こんな機会を与えてくれて本当に聖者殿には感謝ですぞ!!」
いや、発案したのはリテセウスくんなんですけれどね。
「同じ理由で持ってきましたエビ! ウニ! タコ! イカ! ナマコ! シャコ! ワラスボ! ホヤ! カメノテ! イソギンチャク! ヤドカリ! ヒトデ! ウツボ! ダイオウグソクムシ!」
ちょっと待った。
途中から俺ですら食べ物と認識していないものがチラホラ出てきたけれど?
それらも調理次第で可食なの!?
海は奥深いなあ……!?
「これはまた種類豊富ねぇ。やっぱり人魚国は環境がまったく違うだけに特産品に関しては強いわね」
プラティの感想。
たしかに海中にある人魚国はそれこそ地上とは別環境なんだから、他国では見たこともないものをピックアップすることなんかいとも容易いだろうなあ。
「海産物だけではなく、女人魚たちの作った魔法薬も取り揃えてきたぞ。こちらはかねてから注目されてる分、目新しさはないがな!」
本当に売り出すもの山のようにあるな人魚国。
環境が違うという長年戦争に明け暮れていた人間国や魔国と違って、平和な時代に生まれた文明文化が様々あるとも言えるか。
「フフフフフフフフ……! これで終わりと思ったかな? しかしまだとっておきがあるのですぞ!」
何ですって!?
これまででも充分の品揃えだというのに!?
「これは我が人魚国でもつい最近確立された技術。よってそれを世界中へ発表するために、今日はまたとない最高の機会! こんな好機を与えてくださった聖者様には感謝がつきませぬぞ!!(二回目)」
アロワナさんがこんなに自信たっぷりに言うなんて……。
一体人魚国はどんな驚異のメカニズムを確立させたというんだ?
「それはこの……予防接種だッッ!!」
「「予防接種!?」」
プラティと二人でびっくらこいてしまった。
「人魚国が誇る、き……ッ奇才ガラ・ルファが提唱した空前絶後のシステム! これにより人魚国での流行病被害は例年の三割未満に抑え込めている! もはや有用性が認められているのだ!!」
今『狂気』って口走りそうになってギリギリで言い直した?
「この素晴らしい我が国初のシステムを! 国外にも大々的に発信したい! そのためにも今日の物産展! 本気で取り組ませていただきますぞ!!」
ガラ・ルファの産物がこんなところで日の目を見ることになろうとは。
彼女が農場に来た当初は考えもしなかったなあ。
予防接種が、病気の事前対策や健康維持のために非常に効果的であることはハッキリしているからな。
是非ともこっちの世界でも大いに流行らせてほしい。
「だ、だんこはんたいー!」
「ここから、いなくなれー!」
危機感を察してのか、ジュニアとノリトが駆け込んできて反対を叫んだ。
しかし我が子らよ……こればかりはお前たちの希望に添えない。
子どもが注射嫌いなんて昔から決まりきっていることだが、それでもお前たちが健康に育ってほしいからこそ避けて通ることはできない!
しかし一番手の人魚国からこのようにビックリ特産品の好ラッシュ。
物産展……想像以上にエキサイティングな催しになりそうだぜ……!