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114 農場の人間関係 その一

 さて。

 俺だが。

 改めて我が農場を見てみると、人が増えたなあとしみじみ思う。


 厳密には人じゃないけど。


 ここ最近、ラッシュ的に加入が続いたな。

 エルフの盗賊団二十名の仲間入りを皮切りに、冬を隔てて、大地の精霊たちが通勤してくるようになり、さらにサテュロスのお色気お姉さんたちが加乳……、もとい加入。


 あと番犬としてすっかり居付いてしまった狼型モンスター、ハイリカオンのポチたちも。


 ……え?

 アイツらも変異化起こして上位種のヒュペリカオンになった?

 …………。

 ……まあいいや。

 その話はあとに置いておくとして。


 百人ちょっとで安定化していた我が農場もいきなり二倍近い人数になり、色々と複雑化が進んでおります。


 人魚やらオークやらエルフやら。種族は事細かに分かれるが、皆、同じ言葉で会話し、二本の足で立って二本の腕で作業するなら誰もが人間ということで問題なかろう。


 種族とか個性の範囲内でオッケー。


 ……というは所詮、異世界からやって来た俺の勝手な先入観なのかもしれない。


 この世界で生まれ育った彼女らにはそれぞれの価値観があり、それゆえに他者と対立してしまうこともあるだろう。

 時には傍目から見たら何の意味があるのかわからない観念的な対立もあろう。


 俺は各自の個性は出来るだけ尊重してやりたいが、農場に争いを持ち込むことだけは勘弁してほしい。


 そこで俺は、肥大化した人員のそれぞれの心理状況をチェックしてみることにした。

 特定の誰かと不仲となっていないか?

 なっていたとしても深刻な問題になるか? そうでないか?


 農場の長として、しっかりチェックしていきたい。


              *    *    *


 まずは一冬越えてすっかり我が農場に馴染んだエルフたちから。


 彼女らは、同種以外だとオークたちと触れ合う機会がもっとも多い。


 それは、我が農場においてオークたちが大まかな土木建築を担当。対してエルフたちが小道具の作成などを担当していて、作業がら協力し合うことが多いのだ。


 …………。

 何故この二者を最初の観察対象にしたかというと、前の世界での固定観念を引きずっているせいか、どうにも不穏さを拭えないのだ。


 エルフとオークという組み合わせに。


 そこで俺は物陰から隠れて、彼らの様子を覗いてみることにした。

 今作業場にいるのはそれぞれのリーダー、オークボとエルロン……ではなく、その部下に当たる一般オークと一般エルフだった。


「おおおおおおおおッッ!? すっげええええええッッ!?」

「でしょでしょ!? 凄いでしょ!? でしょ!?」


 ……。

 なんか一般オークが驚き興奮していて、一般エルフが自慢げだ。


「これこそ私が開発した新兵器! 斧と弓矢を合成させたのよ! 斧の柄を弓のように曲げて、矢を射れるようにしてみました!」

「すげえじゃないっすか! 必要に応じて斧と弓を使い分けられて! 遠近攻撃にこれ一つで大活躍じゃないっすか!!」


 エルフたちは最近では武器制作も担当していて、オークたちがダンジョンに入って振るうための新兵器制作に余念がない。


「オクヤミ! アナタがこの新兵器を持ってダンジョンに入れば、一番手柄は間違いなしよ! 遠くの敵も近くの敵もバッタバッタと薙ぎ倒しよ!!」

「ありがとうございますエルヨ姉さん! 姉さんのおかげで皆から尊敬されます!」


 あの一般オークの名前がオクヤミで。

 対して一般エルフがエルヨというらしい。


「さあ! ここに試し切り用の薪を用意してみたわ! これを弓と一体型の斧、名付けてボウアックスで割ってみて!」


 安直なネーミングだなあ。

 まあ、それぐらいの方が理解しやすくていいけど。


「合点承知!」


 オークのオクヤミくんは、弓と斧が一体になったボウアックスの柄を持ち、まだまだ火にくべるには太すぎる薪に向かって狙いを定める。


「ほりゃああああああッッ!!」


 そして振り下ろす。

 しかしボウアックスの切っ先は薪に当たった瞬間みょいんとしなり、インパクトの衝撃を吸収した。


「…………」

「…………」


 そりゃそうなるよね。

 斧の柄を弓として使えるようにしならせれば。力を入れるだけ曲がって力を吸収するに決まっている。


「……構造的欠陥!」


 エルヨさんはその場に崩れ落ちた。


「だ、大丈夫ですよエルヨ姉さん! オレ、頑張ってこの斧使いこなしますから! 姉さんが心を込めて作ってくれたので大事にしますから」


 打ちひしがれるエルフを必死で慰めるオークの図、爆誕。


「この斧作るために、聖者様の倉庫からマナメタルこっそり失敬してきたのに……!」

「ぬごッ!? そ、それはオレも一緒に謝りますから! 姉さん! 元気出して姉さん!!」

「オクヤミくん優しい……!」


 感極まってオクヤミに抱きつくエルヨ。


「うわーん! アンタ本当にいい子だよー!! 大好きだよー!!」

「オレも大好きですよ!」


 …………。

 当人たちに気づかれないよう隠れながら観察した結果、オークとエルフの関係性は……。


 問題なし。

 まったく問題なし。

 超仲良し。


 コイツらはまったく心配ないので、他の連中を観察していくことにしよう。

 そんな感じで、各住人の観察がしばらく続きます。


「もうオクヤミったら、こんな年増のオバサンに優しくして、勘違いされても知らないゾ♡♡」

「え? エルヨ姉さん充分若いですけれど!?」


 いや別の意味で心配かも知れない!


 ちなみにこのウォリアーオークのオクヤミ。

 のちに柄のしなる特殊な斧を用い、斬撃の威力を倍加させる戦法を編み出してオークチーム名うての闘士になる。


 嘘だけど。


 いや、きっとなると期待している俺が。

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