1145 油ものの王
ごきげんよう俺です。
俺の発案した合コン計画はひとまず成功の兆しを見せ始めているようだ。
イベント直後から成立したカップルがちらほらと散見される。
企画当初は皆から『正気か?』とか『男のサガわかってる?』とか散々な言われようだったが……。
……それ見たことか!!
必ず最後に愛は勝つんだよ!!
これも俺が必死こいて少ない知識と推測力を駆使して繰り広げた合コンのおかげだ!
王様ゲームはついに開催することもできなかったが……!
中には早くも結婚を考えているカップルもいるようで、大変いいことだ。
家庭を築いて、次世代を育んでいくことこそが国家存続だからな。
しかし俺には、先日開催の合コンについていくつかの反省点がある。
王様ゲームの件もそうだが……!?
さらに忸怩たる要因は……フライドポテトについてだ。
いや、フライドポテト自体は大好評だった。合コンに参加した男性も女性もバクバク言わせて平らげ、皿に一欠けらも残らないほどだった。
だからフライドポテトは全然オッケーだったのだが、しかしフライドポテトだけでではたどり着けない領域がある。
陽キャな飲み会では、フライドポテトに並んで絶対必要不可欠なもう一品。
唐揚げだ……!!
フライドポテトと唐揚げ。
その飲み会メニューのマッスルブラザーズがいてこそ、若者群がる合コンが盛り上がるというものだ!!
刺身とかモツ煮とかはもっと歳が行ってからだ。
しかし前回の合コンでは唐揚げをお出しできなかった……!
唐揚げの生産ルートが確立されていなかったからな。
意外にもまだ唐揚げ作ったことがなかった……。
本当ならもっと早い段階で作ってそうなものだったが、俺が大人なせいだろうか。
油ものは胃にきついんだよな。
というわけで今まで無意識化で避けていた唐揚げ作りにチャレンジしようと思う。
よりエキサイティングで健全な合コンを開催するために。
* * *
「うぉおおおおおーッ!! 美味いものに誘われてやってきたのだーッ!!」
ヴィール。
もう来たか。
大体いつも新作料理をこさえる時はどこからともなく現れて試食第一号を務めてくれるものだが。
作る前から乱入してくるのは新しいパターンだ。
「ご主人様の新作料理にもう忍耐が追い付かないのだ!! このグリンツェルドラゴンのヴィール様が手伝いを買って出てやるから、そうすりゃマッハで完成なのだーッ!!」
何言ってんだコイツ?
こういう食欲最優先キャラが手伝いを買って出てもかえって邪魔にしかならないのがセオリーだが、ヴィールに関してはそうともならないのが不思議なところだ。
今ではヴィール自身、料理はけっこうできる方だからな。
自分で一からラーメン作るし。
『下拵えしといて』って言っておけば一通りやってくれるレベル。
「よし! したらばヴィールと一緒に唐揚げ作りに邁進しようではないか!!」
「いざキッチンを進め、なのだーッ!!」
作るぜ唐揚げ、目指すは鶏肉。
「では唐揚げを作るために、まずは鶏を狩ってきます」
「料理番組では絶対にありえない段階から始まったのだー」
仕方がない。
ここはお料理スタジオなんかではなくファンタジー異世界なのだから。
スーパーで部位までキレイに分けられた鶏肉が置いてあるわけでもなし。
特定の肉の部位が欲しかったらみずからモンスターハントして部位破壊するしかないんだ。
というわけで山に分け入り、トリ型モンスターを狩猟するぜ。
「おれんとこの山ダンジョンでいいのかご主人様?」
うむ。
ニワトリだから洞窟ダンジョンにはいないだろう。
そして山へと入り、早速出くわした鳥型モンスター、一見ニワトリのように見えて、しかし飛行能力を持つそのモンスターの名は、フライ・ド・チキンだッ!!
異世界の魔物だけあって強力で、多彩な攻撃で俺たちを翻弄する!
『バンプ・オブ・チキン(ニワトリの一撃)!!』
ぐおぉおおおおーッ!?
『カーネル・サンダース(雷魔法)!!』
ぐぇええええええーッ!!
激闘の末にやっと仕留めることが叶った。
命にありがとう。
きっとお前のことを、最高の糧として昇華して見せよう。
そうして俺が食材確保している間に、ヴィールが手筈通りに進めてくれていた。
「ご主人様ー、下味と生地作っといたぞー」
ホントに下拵えくらいはオートでやってくれる手際のよさと判断力の持ち主であった。
よし、必要なものはすべて揃った!!
唐揚げづくりに着手していくぞ!!
既に適度な大きさに切り分けられた鶏肉があります!
部位はモモとムネです!!
キモとかハツとかポンジリとかは……焼き鳥になってしまうからな。
それらモモとムネの肉を、調味料を混ぜて作った液に漬けて浸み込ませていきます!
「おおおー、これで肉そのものに味付けしてこうってわけだなー?」
そういうことです。
肉そのものに味がついていて濃い口だからこそ、若者からの人気も高いんだろうな。
しっかり味のついた鶏肉に、今度は衣をつけていく。
小麦粉と片栗粉を混ぜたものを振りまいて、しっかりと隙間なく付着させたら、油へドボン!!
ヴィールよ、油は適温か!?
「おう任せておくのだー! ドラゴンブレスで九千六百万度のにまで上昇中なのだー!」
高すぎるわ。
入れた瞬間鶏肉が蒸発するだろ。
しかもいくら油だってそこまで熱くならねえだろ、普通の油使ってる?
しかし、ちゃんと揚がった。
こうして出来上がった唐揚げは、しっかりと油をきっておいて千切りキャベツを添えて完成!!
「うおおおおおおおッ! これで完成だな!? 美味そうなのだぁああああああッ!」
出来栄えの良さにヴィールも感動熱狂だ。
これが合コンのリーサルウェポン、唐揚げ。
とりあえずコレとフライドポテトを並べておけば若者たちはニッコニコ。
高カロリーで濃厚で脂っこい。
これを好まぬナウなヤングなどいるだろうか、いやない。
さあ、早速味を見てみようではないか。
試食タイム!
「よぉーし、では早速レモンをかけるのだー!」
いや待て。
なんで初っ端からその行動に出る?
「え? だって唐揚げには絞ったレモン汁をかけるものなんだろう?」
その知識どこで得た?
ひとまずストップだ。レモンはダメとは言わんがレモンをかけるかけないは大抵飲み会における戦争の火種になってしまうんだ!!
「まあ詳しいことは知らんがとりあえず試してみないことには是非も語れんのだ! 行くぞレモン汁だばぁー!」
待て待て待てぇい!?
レモン丸ごと一個握り潰すな!?
その一個分から絞り出される果汁が何ミリリットルかわかってんのか!?
レモンかけることは知っていても程度はまったく見知らぬヤツ!?
「最近おれ様のドラゴンとしての力量が伝わっていないから、ちょっとマッスルなところを見せてやりたかったのだ。すげーだろ、おれ様の握力にかかれば果物ぐらい生卵みてーにグシャリだ!!」
それはわかっております!
ドラゴンですもんね! 強いですよね!
でもその強さを示すタイミングをバッチリ間違えておりますよって!?
レモンもいいけどひとまず素の味を試してみましょうよ!
それが料理を楽しむセオリーですよ!
「それもそうだな! では早速何もつけてない出来立てを!」
サクッ、ジュワァ……!
「うまぁあああああああああッッ!! 美味いぞこれは! カラッと揚げた衣の内側! 鶏肉が柔らかくてジューシーで! 封じ込められた肉汁が噛んだところから漏れ出して! んぁああああああ~口の中がアッチーのだぁあああああああッッ!!」
うむ、大変好評。
やはり出来立ては温度が違うな。
そんなに肉汁ドカッと出た?
「オレがドラゴンじゃなかったら口の中火傷していたのだ! しかし熱いからこそ美味い! 料理は何でも出来立てが一番なのだぁああああッ!!」
沸き上がるヴィール。
うむ、唐揚げそのものいいが出来上がりも上手くいったようだな。
これで飲み会に懸けるキーアイテムがまた一つ揃った。
我が国の合コン事情はますます盤石だぜ!!