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1129 全国行脚

 俺です。

 ふぃー、疲れた疲れた。


 人前に出るのってやっぱり緊張するなあ。

 農場で鍬振るってるより何倍もの疲労感がある。

 体より精神にくる疲労感だ。


 ひとまずはこの体に重く引っかかるアクセサリーを全部外して、このパキパキの服も脱いでしまいたい。

 そして化粧を落とす!

 クレンジングはどこだ!?


「聖者殿、本当にお疲れ様でした」


 一刻も早く後片付けしたいところへ、魔王さんが控室へ突入してきた。


「魔都の住人たちも聖者殿にいたく感動していた……! これこそ聖者殿の起こす奇跡。この魔王ゼダン感服いたしましたぞ!」


 ご期待に添えたのなら何よりです。

 もうウッキウキだな魔王さん。


「これで我が魔国には完全に聖者殿の存在が浸透したと言える。聖者殿が国を治めるにあたって異論が出ることはもはやあるまい」


 それが目的だったので狙い通りに行けたんなら本当によかった。


 魔王さんと握手を交わしながら、俺は力ない苦笑いしか返すことができなかった。

 あー、早く帰って風呂入りたい。


「いやいや、いかにも気疲れしています的な風だがな。純粋な体力消費でもあるだろ。ご主人様めっちゃファンサービスが過ぎたのだー」


 と言うのは一緒に控室へ入ってきたヴィール。

 備え付けのお茶を一杯飲んでフィーッと息ついている。


「ニンゲンどもが盛り上がるからってやんなくてもいいショーまでしやがって。聖剣閃光を十連発はさすがにやりすぎだろ」


 ちゃんと空に向けて撃ったからいいじゃないか。

 いいだろ、魔都の人たちなんかやるたび全力で拍手してくれるからこっちもサービスのし甲斐があるんだよ。


 お前だって途中から出てきて目立とうとしてたじゃないか!


「アレはご主人様がまた変な話しようとするのを止めに出たんだろ! 大体何なのだあの話は!? 矢が一本だろうが三本だろうが大して変わんねーのだ!!」


 いや、アレは毛利元就さんの有難いお話でね……!?


 しかしヴィールだってそのあと興が乗ってドラゴンブレス連発して見に来た人たちをビビらせてたじゃないか。

 もちろん空に向けて撃ってね。


「こッ、これを機会にドラゴンの恐ろしさを改めて下等生物に教えてやっただけなのだ。合わせてご主人様の凄さもその身に刻み付けてやったわ!」

「うむうむ!『聖者はドラゴンを従える』と言うのがもっとも人口に膾炙したシンボル的な描写故な! ヴィール殿も出てきたことでインパクトは倍増よ!!」


 魔王さんが実によくはしゃいでいなさる。


 そう言えばプラティは?

 彼女はママ友のアスタレスさんやグラシャラさんとお喋りしに子どもらと共に別室へ……。


「しかもそのあとご主人様『ファンとの触れ合いも必要だ』とか言って何十人と握手したり、質問タイムとったりと明らかにやりすぎなのだ! 特にあの五百の質問用意してきたヤツ! どう見ても常識逸脱してんだろ、あんなのまで真面目に付き合わなくていーのだー!!」


 うーん、たしかにヴィールの言う通りなんだが、せっかく今日のために頑張って用意してくれたと思うと無下にはできなくてさあ。

 しかし色んなことを質問してきて、皆俺のこと色々調べてんだね。先生やヴィールやレタスレートの所業も交じってたけどさ。


「聖者殿の動向は、世界の人々の興味を集めているからな。断片的にしかわからぬのがますます謎めいて解き明かしたくなるのよな」


 そういうものですか。

 いや、俺も気持ちはわからんでもないけど。

『答えはCMのあと!』とか言われたらついついCM明けまで見て答えを確認したくなる心理よな!!


 特に最後に質問してきた女性がメチャクチャ質問が鋭かったよな。

 人魔戦争の終結にどれぐらい絡んでいるのかとか、魔王さんとの付き合いはどれくらい前からあるのかとか。

 新人間国の設立にも絡んでるんじゃないのか、とか……。


 一瞬に答えに詰まるような質問ばかりだった。


 あの女性は一体?


「リュゴマイテスは、かつて魔王軍の上級士官で『煌塵のリュゴマイテス』とあだ名された猛者だ。戦争終結後に、軍縮の動きが出るより前にいち早く退役届を出して除隊している」


 はー。

 そう言えば雰囲気が何となくアスタレスさんに似ていたような?


「その後、自発的に聖者殿のことを調べて回り、調査結果をまとめて本まで出版し、聖者研究の第一人者となっている。いわば魔族たちに聖者殿への興味が広がる火付け役となった女性だ。まったく直接的な接触はないのに、どうしてそこまで聖者殿への興味を持てたのか……」

「なかなか見どころのあるヤツなのだー」


 そんなに俺のことを調べて満足することなどあるんでしょうか?

 本人としては困惑の度が深いのですが……。


「式典が終わってすぐ、我が下へ嘆願が来た。『どんな役割でもいいので開拓地で働かせてほしい』と。正確には聖者殿の下で働くのが望みのようだ」


 期せずしてよさげな人材をゲットできそうだ。


 彼女の有能さは質疑応答でしっかり伝わったからな。

 これから農場国を作り上げるために、人材はいくらでも必要だから願ったり叶ったりというところだろう。


「それに伴って、おまけで何人か引き連れていくとも言う。なんでも、このまま魔都に置いておいても何の益にもならない連中だからと……」

「あ? もしかして非常識な質問してきたヤツらのことか? なんだか普段から働いていない気がプンプンと漂ってきてたぞ? 大丈夫か?」


 ……。

 まあ、どんな人材であろうと今は助かるから。


 でも魔王さん。

 もしかしてだけど、これからできるウチの国を絶好の左遷先にしようとかしていませんよね?


「でもまあ、これでやっとご主人様の見せびらかし業務も終了ってこったな。慣れない作業でこっちも大変だったのだ。これからはやっといつもの日常へ戻れるのだー」


 ヴィールの『やれやれ』という気分にも共感できるんだが……。


 たしかに俺ももう、このまま農場に立ち返って一心不乱に土を耕したいところだけれども。

 そしてもう二度と農場の外には出たくないと思うところだけれども。


 実は俺、『これでいいのか?』という気がしないでもない。

 何かが足りない気がするんだよな。

 何だろう?


 ……そうか、魔国だけじゃダメなんだ。


 この世界には主に三つの大国がある。

 魔国と人間国と人魚国だ。


 その中で魔国でだけ執拗にお披露目をして、他の二国は何もなしは通らないだろう。

 人魚国でも、人間国でもしっかり俺の存在をアピールせねば。


「うむ、その通りだな! 三大国すべてで聖者殿の存在を周知させてこそ連携もしっかりできるというものだ!」

「うえぇ……、今回と同じのをあと二回やるってことか? 気が遠くなるのだー」


 すまんなヴィールよ、面倒なのに付き合わせて。

 さすがにぶっ続けではやらないので、ひとまずしっかり休憩を取ってくれ。


「では各国に連絡を取って、予定を汲むことから始めねばな。我ら魔国も仲立ちを務めよう。聖者殿にばかり負担を強いるわけにはいかぬでな」


 魔王さんのお気遣いありがとうございます。


 俺たちも一度始めたことは最後までやり通したいので、しっかり務めさせていただきますよ。

 ……このデー○ン閣下みたいな衣装はどうにかならんかなとも思うが……。


   *   *   *


 そんでまず先に来たのが人魚国。


 何故こちらを選んだかというと、特に理由があるわけでもなくなんかスムーズに進みそうだから?


 何しろ現人魚王が嫁の兄だから、色々と段階をすっ飛ばして進められるんだ。


「よくぞ来てくれた! 我が妹の夫として聖者様を誰よりも歓迎いたす!」


 とアロワナさんは俺たちの訪問を心から喜んでくれた。

 人魚王であるアロワナさんは俺たちのために首都人魚宮でパレードを決行。


 街のド真ん中の運河を巨大遊覧船に乗って流れる俺たち。

 それを人魚国の多くの人魚たちが讃えてくれた。


「プラティ様ー!」

「プラティの旦那様ー!!」


 なんだか既視感があるなと思ったが、前にもこうして人魚国でパレードやったな、と記憶が甦ってきた。


 一度プラティと一緒に里帰りした時にもこんなパレードで歓迎してくれたし、思えば武泳大会とかアロワナさんパッファの結婚式でも俺皆の前に出ていたから。

 俺、思えば人魚国では既に一定の認知を得ていたんだ。


 以下、人魚国では普通にパレードやっていつも通りの歓迎を受けて帰った。


 ここではやっぱり聖者というより『プラティ王女の夫』という認識の方が強いな。

 プラティがいかに人魚たちにとって人気者かを窺い知ることができた。


 そうして思った以上にアッサリ終わった人魚国訪問。


 さすれば次は残る一つ。

 人間国への訪問を残すのみとなった。

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