1128 アーリーマジョリティvsレイトマジョリティ
引き続き選ばれし聖者研究員ダガンザムだ!!
ついに今日、オレたちはこの目で聖者を目撃する。
ここ魔王城前の広場に、聖者が降臨するというならば!
本当であれば一生モノの奇跡だ! これをムザムザ見逃すわけにもいかぬ!
もし何かの食い違いで絶好のチャンスを逃してしまったら一生の不覚!
だからこそ絶対に邪魔者を入れさせぬように最前列を確保したぞ!!
ハッハハハハハハ! 昨晩のうちから同志たちと共に場所取りした甲斐があったぜ!
こういう時こそ無職は強い!
「当然よ! 我ら聖者研究員、聖者を求めて研究を続けてきた!」
「そんな最終目標聖者をこの目で確かめられるならなんだってやってやる!」
同志たちのテンションも高いな。
徹夜明けのせいかな……。
さあ朝日も昇ってしばらく経ち、開演の時は近い。
背後もガヤガヤ騒がしくなって他の客も詰めかけてきたようだな。
ふふん、今頃入場とは暢気なことよ。
我々のように本気で聖者を見たいという情熱がないヤツらは、大人しくオレたちの後塵を拝しておるがいい。
「フフフフ……、オレたちこそ真の聖者研究員……!」
「だからこそ最前列で聖者を確認する権利がある……!」
「何なら握手してサイン貰っても……!?」
同志たちも、もうすぐ聖者を直見できるという期待に胸がときめいているな。
オレもそうだ。
さあ、早くオレたちの下へ、その神聖な姿を現してくれ聖者よ……!
「さあリュゴマイテス殿、こちらの貴賓席で聖者様をお迎えください」
「かたじけない」
アレアレアレッ!?
なんだあの女は!?
あとからやってきておいて、徹夜して最前列をとったオレたちよりももっと前に座りやがったぞ!?
しかもいい椅子とか飲み物とか用意してあって、明らかにオレたちより待遇がいいじゃないか!
なんなんだ!?
「ちょっと待て! あとから来ておいて不公平だぞそこの女!」
「なんだ?」
オレたちの抗議に少しも色を変えずに受け答えする女。
その冷静沈着な態度が忌々しい。
「私は、魔王府から特別招待を受けてここに座っている。これは魔王様主催の式典であるのだから、特別な客に対して特別なスペースがあることは当然だろう」
特別招待だと!?
クソ、不公平だぞ! オレたちは徹夜して最前列を確保したというのに、お前は特別扱いとは!
「徹夜で並ぶな。迷惑だろうが」
そんなオレたちに、豪華な椅子に座った特別扱い女が冷静に言ってくる。
「深夜の集会、居座り行為は騒音の元ともなり周辺の迷惑になるとともに、治安悪化の原因にもなりかねない。利用する側される側が気持ちよくやりとりするためにも、早く来て場所取りするにしても朝日が昇るまでは待つべきだ。朝こそが真の一日の始まりなのだからな」
おのれ、そんな正論を……!
正論だけで世の中は動かないんだぞ!
それに一日の始まりは朝だって!? そんな自分たちだけの常識を押し付けてくるな!
無職の一日はどこからでも始まるんだからな!!
そんな風に反論していると、あの冷静女は心底呆れたという感じのため息をついて……。
「こんなにいい年をした男子たちが腑抜けた言動をとるとは……。平和になった反動というものか。せっかく必死になって戦勝をもぎ取ったというのに虚しくなるものだ……」
何だこの女!?
何から何まで上から目線で偉そうに!
オレたちにはオレたちの、最前列でいなければならない深刻な理由があるんだ!
そう、オレたちは聖者研究員だからな!!
「聖者研究員?」
オレたちは、聖者というこの世の謎に挑む気高い戦士!
究極の研究対象である聖者がこの目で見れるとわかったからには、もっとも近くで聖者を見なければ始まらない!
そう思って徹夜してでも最前列をとった次第!
聖者について様々な調査結果や推論を事細かくまとめた『大研究! 聖者の秘密』全十五巻はオレたちの聖典だ!
オレたちはこの『大研究! 聖者の秘密』を読み、聖者という存在の深遠さに惹かれ、この本の作者リュゴマイテス史に倣って聖者を研究しようと思い立ったんだ!!
そこまで言うとあの冷静女、これまで以上に大きなため息をついて……。
「自分のしてきたことを形に残すために出版した本が、このように受け取られていたとはな……。何ともやるせない気分だ。もっと自分の作ったものが世に与える影響を考えるべきだったのか?」
ん? 何を言っている?
「私がその本を書いたと言っているんだ」
へ? 何?
「私がリュゴマイテス。魔王軍の退役軍人で除隊後、聖者の研究を進めていくうちに第一人者となってしまった者だ」
…………。
ん? それでは?
アナタが我らの聖典の創造者!?
我々の最終到達点……聖者に次ぐ伝説的人物!?
リュゴマイテスさん! オレたちファンなんです! この聖典にサインをもらえませんか!?
「……お前たちが聖者を目指すのは自由だが、周囲の迷惑になるようなことだけはやめてくれ。今回も、ただただ聖者への興味や憧れでここへ来た人たちもいるんだから、彼らが気持ちよく帰れるように……!」
リュゴマイテス様の説教じみたセリフが続かんとしたその時だった。
背後の群衆たちが騒ぎ出した?
もしや聖者が登場したのか!? そうなれば一瞬とて見逃すまい!
一体どこから聖者が現れたのかと窺ってみれば……。
壇上に現れたのは魔王様だった。
なんだ聖者じゃないのか肩透かししやがって……。
もったいぶってんじゃねー! 早く聖者を出せー!
「ぐおら貴様ら魔王様に対して何言ってるんだぁあああッッ!!」
リュゴマイテス様が慌てふためいているところへ、さらなる変化が訪れる。
ん? なんか明るい?
徹夜明けで目の光感知度が狂ったか?
見上げてみると……うわぁあああああああッッ!?
上空から何かが降ってくる!?
白い蒸気をまといながら落下してくる巨大物体は……!?
まさか彗星!?
彗星が地表へ向けて落ちて来るうううううううッッ!?
……と思ったが違った。
彗星は、広場の群衆に激突する寸前で爆発四散し、その中から出てきたのは乗馬した一人の男。
まさかあれが……!?
「私が長年追い求めてきた聖者なのか!?」
リュゴマイテスさんに先に喋られた。
アレが聖者……!?
初めてお姿を見たが、まさに我々が想像した通りの神々しいお姿。
天の神を彷彿とさせるような純白の衣装。
太陽のように煌めくアクセサリー。
空中だというのに落ちずにとどまり続けるあの馬は、一体どういう原理で浮いている!?
「感動している場合ではないぞ同志ダガンザム! 我らがずっと夢見てきた聖者が目の前にいるのだ!」
「今こそ直接その御前に拝謁してお言葉を賜るべし! この時のためにオレは『聖者にぶつける五百の質問』をまとめてきたのだ」
もうちょっと頑張ってまとめようよ五百は多い。
しかし同志たちの言うことももっとも。一番近くに慣れると思って最前列に陣取ったのに、聖者が上空から現れたものだから大して意味がない!
ぐおおおおおッッ!
こうなったら他の連中を踏み台にしてでも聖者の下へ!
どけお前ら! オレの聖者への道を邪魔するなあああああ!!
「鎮まれ貴様ら!!」
ぐわぁああああああッ!?
何をするんですかリュゴマイテス様!? いきなり魔法をぶっ放してくるなんて!?
「貴様らが見苦しく騒ぐからだ。何故聖者様の前で敬虔とした験とした態度になれない? 見ろ、他の人々の真摯な姿を……!」
うう……。
たしかに多くの群衆がひざまずき、手を合わせて祈りを捧げている……。
これが真に神聖なる者に出会った時の人の取るべき行動なのか?
「私自身を含めて、今までの言動を改める必要があるな。そう、我々は聖者に対して敬虔になるだけでいい。俄かの知識も必要ない。すべてをあるがままに受け入れるだけでいいのだ」
リュゴマイテス様の言葉が胸に刺さる。
そうだな……俺たちは難しく考えすぎていたのだろうか。
聖者という超常の存在に、オレたち凡人の考えが届くわけがない。
ただ真摯に、無心に、聖者の言葉に耳を傾ければいいではないか。
「……えー、ここに一本の矢があります(ボキリ)。さらに三本の矢があります(ボキボキボキ)」
……あれは?
まさか魔国を矢に見立てて『こんな国すぐさまへし折ることができますよ』ということか!?
さらには三本矢を束ねて折るのは『魔国と人間国と人魚国、世界三大国が束になってかかってもいっぺんに打ち砕くことができるという暗喩!?
恐ろしい、なんて恐ろしいことを公の場で宣言するんだ聖者!?
やはり聖者は、世界を終焉に導く破壊者なのかッ!?






