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1116 挨拶回り

 俺です。


 農場国を立ち上げるに当たり、様々な人々からの協力が必要不可欠だ。

 こないだは気が急いて色んなことを一気に捲し立ててしまったので、一旦話を戻して順序だてて話していこうと思う。


 まず、俺の決意を聞いてくれたプラティは気楽そうに笑っていった。


「旦那様が決めたことなら問題ないわ。妻は、夫に黙って付き従うものですからね」


 プラティが黙って付き従ってたことってあったっけ?

 首を捻ったが、今こうして俺のしようとすることを全力肯定してくれる姿勢が素直に嬉しかった。


「ふふふ……旦那様が王様になるってことはアタシが生んだ三人の息子たちは王子様ってことね? 別に肩書きに拘る主義はないけれど、アタシのまつわるところどうしても高貴さが伴ってしまうのは運命かしら?」


 ……。

 まあ、このいわくありげな独り言も聞かなかったことにして。

 その他農場の住人たちにも意見を窺ったところ概ね良好な返事が返ってきて……。


 まず農場運営の重要な協力者オークボとゴブ吉。

 オーク&ゴブリンそれぞれを率いるリーダーであることの彼らはしっかり力強い言葉で……。


「我らは聖者様のために存在する臣下にして従者。聖者様のなさることには何であろうと付き従います」

「どうかご命令を。我々は我が君の意思を遂行するためにおりますので」


 なんとも頼もしい言葉。


 しかしキミたちも今は俺のためだけにいるわけじゃないだろう。

 自分の家庭があり、子どもも生まれたんだからまずそのことを第一に行動してくれ。


「そ、それはたしかに……!?」

「我が君からの大きな使命を達成すれば、それだけ我が子に誇れるものができるかと……!」


 はぁん、そういうこと。

 彼らにも私的なモチベーションができたということは喜ばしい限りだ。


 オークボもゴブ吉も頑張って昼間のパパはちょっと違うということを示してほしい。


 次に訪ねたのは我が農場でもっとも強大な二人。

 ドラゴンのヴィールと、ノーライフキングの先生のところだ。


 俺の決意のほどを知らせるとまずヴィールが……。


「それは大変いいことなのだー。おれ様の主人が偉くなればなるほど、おれ自身も偉く見られるってことだからな! 権勢欲の充足なのだ!!」


 ヴィールらしい喜び方であった。


「それで、国づくりをしたあとはやはり周囲を攻めて平定併呑! そして世界統一する大帝国を築き上げるという算段だな!?」


 そんな算段ありませんが!?

 ヤバいな、やっぱりドラゴン。思考回路が荒々しい方向にシフトしてゆく。


「大丈夫なのだ! ご主人様の敵はすべてこのおれがドラゴンブレスの一吹きで焼き尽くしてご覧に入れよう! そして焼け野原となった跡地に種をまき新たな農耕地にしていく、これが焼き畑農業なのだ!」

『やめんか』

「あいてぇッ!?」


 ヴィール、頭頂部を杖でゴツンと叩かれ痛みに呻く。

 杖を振り下ろしたのはノーライフキングの先生であった。


『聖者様の下で多少は落ち着きを学んだかと思ったが、まだまだドラゴンの破壊本能を御しきれんようじゃのう。まあ国作りなどスケールのデカい話をされれば致し方ないか』


 すみません先生におかれましては。

 きっと穏やかな生活を望まれるでしょうに。

 農場近辺も農場国として世間に認知されれば先生のダンジョンも有名になってしまい、平穏な生活を破ってしまうことにもなりかねぬ。


『なに平穏ならもう千年近く、もう充分に満喫しましたわい。これからは人と交わり、目まぐるしい変化を楽しむとしましょう。というよりもう既に楽しんでいる最中です』


 そうだよな。

 先生は農場学校を開き、多くの生徒に教えを施し成長を促している。


 最初は政策の一環だったのが、今やすっかり先生の主導だ。

 農場国が出来上がれば、より大きな教育機関を築いて先生に主導してもらいたいなと思う。


「そう言えば先生、今教えている農場学校の生徒たちはどうですか?」

『皆すくすくと伸びております。彼らがここから羽ばたいていき、活躍する日が楽しみで堪りませぬなあ』


 先生は本当に楽しそうに夢馳せていた。

 そんな先生の未来への期待に、俺も農場国建国で一助を加えていきたい。


 さらに次には農場住み込みのエルフたち。


「国造り? 勝手にすればいいんじゃない?」

「我らエルフに国など関係ない! 森があればそこがエルフの住処よ!」

「私たちは住処の呼び方に関係なく聖者様の下で皿を焼き続けるのみ!!」

「私は革製品を作る!」「私はガラス製品を!」「私は木工細工を!!」


 ある意味でマイペースな者たちだった。

 コイツらは自分たちの創作意欲さえ満たされたらそれでいいんだろうなあ。


 農場国が立ち上がっても、その辺意識しながらケアしていこう。


 さらにもう一団。

 農場の乳製品を担っているサテュロスたちへ。


「まあ、こちらの存在が公になるなら私たちも里帰りしやすくなりますわね」


 というのはサテュロス族のリーダー、パヌ。

 概ね好意的だった。


「この間外で同族とあったら何だか里心が疼いてしまって……。もちろん農場もとっても住みやすくていいんですけどね!」


 フォローを加えてくれた。


 あと大きく不安だったのは農場で酒部門を担っている半神バッカスだ。

 自分を崇拝する巫女たちを連れて酒造りに明け暮れているけれども、彼は天神ゼウスの血を受け継ぐ神とのハーフ。

 かつては神と人との間に生まれた超人類ともいえる存在を一挙に神界に引き上げ、神と人とのみだりな交わりを断った時期があったという。


 そんな中一人、召集に背いて人間界に残ったバッカスは、以来ずっと放浪を続けた。

 ただひたすら美味しい酒を追求して。


 そんなバッカスが一つ所に留まったのは非常に貴重なことだろうが、それだけここ農場で作られる異世界のお酒に興味惹かれたのだろう。

 しかし一つの場所に留まってもバッカスの本質は放浪者。

 農場が農場国となり、今まであやふやだった枠組みがしっかりしたら、そこに留まり続けるのは無理かもしれない。

 そう思って慎重に探りを入れてみたが……。


「問題なかっす!」


 杞憂だった。

 でも何故半ば博多弁?


「私は酒の神にしてよりよい美酒の探求者。放浪はそのために手段にすぎん。まだまだこの地で研究すべきことは多くある。この地でできる最高の酒が出来上がるまでは、村になろうと国になろうと、この地が砕け散ったとしても留まり続けるであろう!」


 さすがに砕け散ったら留まれないのでは?

 しかし一番懸念していたバッカスの離脱が起こらなそうなので一安心だ。


 次に訪ねたのは大地の精霊たち。

 この辺の地の生命力が実体化した存在で今日も元気にお掃除などしているので、お菓子を配るついでに聞いてみた。


「けんこくですー!」

「きょうえいけん、じゅりつですー!!」

「どくりつせんそうですーッ!!」

「ころにーおとすですー!」


 こちらも歓迎ムードだった。

 建国作業を大分派手なものと認識しているようだが。


 これでチームには一通り話が通ったので、今度は個人勢に話を振ってみる。


 まずは農場の医務担当ガラ・ルファである。


 人魚族でもある彼女は初期にやってきた魔法薬使いの女人魚らが次々寿退社していく中で最後まで残った魔女である。

 彼女自身一度は求婚までされたものの、フツーに断り、フツーに農場での業務を続けている。


 彼女の研究もいいかげん祖国で認められているから、これを機に人魚国へ凱旋するのもアリか? と思ったが……。


「何を言います、農場が国に進化するなら、それこそ私の望む活躍の場じゃないですか!!」


 逆に闘志を燃やされた。


「私の夢! あまねく世界全体に予防接種とワクチン治療を浸透させること! 細菌ウイルスの存在を明らかにし、世界的にも認めさせた今さらなる目標はこれです! そして医療に関しても新しい仕組みを作り上げようとする新国建設こそやりやすい環境はありません!!」


 そりゃまあ、俺も自分が築こうとする国にしっかりした医療体制は絶対いるわい! とも思うが……。

 それをガラ・ルファが担当してくれるなら、これほど心強いことはない。


 次に俺は被服部門に行ってバティにヒアリングしてみる。

 意外と彼女の立場が一番厄介な気がする。

 魔国の貴族に嫁入りしながら被服師の仕事も辞めず、二足の草鞋を履く彼女。


 これから農場が国としての立場を明確にすればバティは二国それぞれの所在を明確にしなければいけなくなり、面倒事が増えそうだ。


 あまつさえ千年のベビーラッシュでバティも元気な男の子を生んでいる。

 育休期間もまだまだ真っただ中だが、それでも育児の合間を見つけてはバリバリ服を作り続けるのはもはや彼女の本能と言っても過言ではない。


 ことを伝えるとやはりバティは難しそうな顔をして……。


「夫の立場を考えると面倒なことになりそうですね。私は服作りをやめることはできませんし……。若手も育ってきましたけれど、立場をハッキリさせるためにどちらかに属するということをするとはどちらかの裏切りになってしまいますし……」


 バティも悩んでいる様子だ。

 彼女の今後についてはさらなる話し合いの結果を待たねばならなくなるかもしれない。


「あッ、ベレナはどう?」

「大丈夫です」


 こうして農場住人のほとんどの聞き取りは終わった。


 なんか忘れている気がしないでもないが……、忘れているならそれほど重要なことでもないんだろう。

 俺は次の段階に進む。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] オークボとゴブ吉の奥さんズは? 特にゾス・サイラはこれを期に人魚国の宰相を今度こそ辞められるのか?
[良い点] 大地の精霊、半分くらい物騒な事言ってません?
[一言] 締めに入った?
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