1114 世界から集合
ぐおぉーーーッ!?
おっす! オラ、ヘルメス!?
このオリュンポスの天界に様々な世界の神々が大集合しているだとぉ!?
菅原道真公。
アヌビス神。
閻魔大王。
そしてオーディン。
クロノスおじいちゃんのマブダチである菅原道真公はお馴染みであるとして!
他神界よりアヌビス神、閻魔大王、それに神帝オーディンまでもが参列!
神々の戦争でも始めようかっていうぐらい壮観!?
『本日も絶好のラグナロク日和ですなあ……!』
やめろ! ホントに最終戦争を引き起こそうとすんな!
北欧の神々はナチュラルに血の気が多い!
『それで……今日は何のご用件で?』
ハデス伯父さんが引きつりながら尋ねる。
この御方もウチの神界代表として頼りになるぜ。
『決まっておる。いつぞや我々を召喚した聖なる者が地祭神を求めておるとか』
『それならば我らも、その役目を担う資格があると思って、こうして選ばれにやってきたというわけよ』
『何しろ我らは彼に求められて召喚された実績がありますからなあ』
勝手なこと言ってんじゃねーよ!!
聖者の住む世界は我らオリュンポス神族が治める世界なの!!
余所の世界のアンタらが入り込む余地なんてないんだよ!
それなのにどうした!?
どうせお前らも聖者くんの作った料理を捧げてもらうことが狙いなんだろ!
わかってるんだぞ!
おい目を反らすな、こっち向け!!
とか言ってると来訪神の中の一神がなだめかけるように言う。
誰だっけ? 菅原道真公か?
『まあ落ち着きたまえ、マイナーな一分野だけを切り取った知性を司る神よ。実名はヘルメスくんと申したかな?』
うるせえ、なんかそこはかとなくバカにしたような言い方をするな!
錬金術は世界の真理を解き明かす神秘の学問なんだよ!
『卑金属から黄金を創作するなんて胡散臭いんだけど?』
うっさい!
パトロンから資金をせびりだすための方便なんだよいいだろ!!
それよりなんですか!? さっさと本題に入れ!!
『失敬失敬……、この世界の神々よ、よく考えてみたまえ。信仰とはいかなる形で表されるか、を』
うんぬ?
『人々が親身になって敬ってくれる。その事実に比べれば、その土地をどの神が治めているかなど些末な問題なのではないか? 我が世界では摂末社と言って境内に別の神を祀ることもよくある。要は人間に、神を信仰する意思があるかどうかよ』
くッ、我らオリュンポス神族にとって痛いところを突きやがる……!?
なんだ、私たちオリュンポス神族は人から崇め奉られなくて可哀想だねと言いたいのか!?
そりゃ地上であんだけ悪さしていたら崇めたくない気持ちもわかるけどさ。
『その点この菅原道真は、聖者の敷地内に唯一社殿を建ててもらっている神であること、承知であることと思うが? これぞ彼の者が、この学問の神をもっとも信仰している何よりの証拠と言えよう?』
うぬぅうううううッッ!?
たしかにそうだった!
聖者くん、何故か彼が運営する農場の一角に神を奉じる社を建てて、そこに祀られているのがこの菅原道真公なのだ!
だからこの神、異邦神であるにもかかわらずチョイチョイこっちに遊びにくるし、こっちの世界に慣れすぎなんだよ!
ああ、なんで聖者くんは農場に、私を祀る神殿を建ててくれないんだ!?
『ふっふっふ……まあ、我が社殿には美しい梅の花が不可欠だからな。毎年咲き誇る梅を見て楽しむためにも私の加護が必要なのだろう』
それただの観光地じゃん!
神を祀ること関係ないじゃん!!
『神殿とか神社とか大抵そんなもんだろ』
『どれだけ観光価値を高めて人を呼び寄せるかが興亡のキーですわ』
何故か他の神々からも道真公よりの意見が出ている!?
どういうこと!? 寂しいじゃん!?
道真公も、勝ちを確信したようなホクホク顔で……。
『そういうことでこの世界においては外つ神だが、もっとも聖者から慕われているという点で、この私が彼らの守護を担おうではないか。この菅原道真が氏神となったからには、氏子たちには万年の理知的な生活を約束しよう』
なんだその言い方だと我々オリュンポス神族にはまったく知性がないかのようじゃないか!?
たしかにそうだ!?
『学問こそが人を人たらしめる! よく学びよく知ることで人はみずからを高め、より高次な存在へと進化できる! 我が守護国家は誰もが分け隔てなく学び、国民の平均的知性が底上げされる理想国家となるであろう!!』
なんか国家論を語り出した。
『道真公は生前は官僚だったんだから国家運営に思うところがあったんだろ』
友だちのクロノスおじいさんが分析する。
まあ、海外まで渡って学んできたことを国のために活かそうと思ったら疑獄で地方へと追いやられ、恨みで怨霊化するぐらいだから情熱もさぞかしあるんだろうよと思った。
『神々側の思惑抜きで、道真殿が守護神になるのが一番人にとって都合がいいように思えてきた……』
やめてクロノスおじいさん!
ここは私たちオリュンポス神族のシマなんですよ!
そんなこといわれたら元からいる我々のメンツが立たないじゃないですか!?
『メンツなんてあると思っている? キミらに?』
ないです!
大変申し訳ございません!!
『ふっふっふ……果たしてそうかな?』
何ッ!?
誰だ、もしや私たちオリュンポス神族を擁護してくれるのか!?
『いや、オリュンポスの神々に立てるメンツがないのはたしかにそうだと思う』
手厳しい!?
上げて落とすなよ!?
『私が疑問を呈したのは、本当に聖者が慕っているのがそこの花の神なのか? ということだ』
『学問の神だが』
ただ梅の花への執着が酷いだけで。
そしてそう問題喚起するアナタはどなた?
『私はアヌビス神。悠久なるナイルでの冥界の審判を司る神。かつてこの世界の聖者に召喚されたことから多少なりとも縁がある』
そうでしたね。
頭がなんか犬みたいな、こっちの世界ではなかなか見られぬ異形の神様だ。
エキドナの子どもとかにこんなのいそう。
『ウチのケルベロスたんと仲よしになれるか……!?』
ハデス伯父さん、ダメですよ。
同じ犬でもあっちは神様ですよ!!
そのアヌビスさんがこっちの神界にまで来て一体何のご主張を?
『では改めて主張させてもらおう。先ほどそちらの神は、ご自分を祀る社だけが聖者の敷地内での神聖施設だと言っていたが、果たしてそうだろうか?』
そうだそうだ!
ヘパイストス兄さんの神棚だってあるんだぞ!
規模が遥かに小さいけどな!!
『その他にも、遥かに規模の大きいものがあることを知るまい。……そうピラミッドだ!!』
『ピラミッド!?』
そう、俄かに信じられないことだが聖者くんとこの農場にはたしかにピラミッドがある。
ピラミッドどいえばとある王朝が建てた王族の墓で、なんでそんなものが聖者の農場にあるのか疑問だ。
『あれ、ヘルメスくん知らんのぉ? ピラミッドと言えば王墓である以上に、呪われたダンジョンであることがJRPGでは常識だよ?』
『知恵の神であるというのに知識が限られてないかいヘルメスくん?』
なんだよ得意げに。
そんな俗っぽいことにまで精通してなくたっていいだろう。
とにかくピラミッドだよ、ピラミッド。
『ピラミッドどいえば我らエジプト神族のもの。我らが冥界アアルへ至ろうとする意志の証! つまり聖者は死後、我らの庇護を受けようとしていることは明白ではないか!?』
力説するアヌビス神。
いやしかしながらピラミッドの本意的にはそうかもしれないけれど聖者くん自身はもっと軽い気持ちでピラミッド建てたものかと思うけども?
ピラミッドを軽い気持ちで建てるなという気もするけれども、聖者くんの生まれの文化圏からしてやっぱりピラミッドは王墓というよりも呪われたダンジョンという認識じゃないのかな?
しかしアヌビス神は力説をやめない。
『ゆえに私は、聖者の信仰に応え彼の死後、楽園アアルへ向かえることを今のうちから確約しよう! そのためにも聖者の遺体をミイラ化する準備も進めなくてはな! 知ってる? 遺体をミイラにする処置法!』
知らんし知りたくもない。
『我らの眷属たちは死者を埋葬する際には遺体をミイラにするものだ! 何故なら死して肉体から離れた魂はいつの日か現世に返ってくるのだから、戻ってきた時に体がないと困るだろう!? だから死体をしっかり保存する必要があったのだ! 死体を保存するということは、死体を腐らせないこと! つまり防腐処置の極みこそがミイラの本意ということだ!』
うるせえ、知りたくないって言っただろうが。
『そんなミイラの製造法は、まず遺体をしっかり洗浄! 腐敗の元は細菌であるから除菌殺菌はいかにも重要だ! さらに死体はまず内臓から腐る! なので腐敗の皮切りになる腸を取り出すのだ! 腹を割ってな! そして取り出した内臓もしっかり壺に入れて保存しておく! 魂が戻った時に内臓も揃ってないと困るだろう。
脳みそを鉤棒で掻き出すことも忘れずに!!』
だから説明しなくていいって言ってるだろうがあ!!
そんなおぞましい工程を聞かされて、今夜眠れなくなったらどうするんだ!?
そんなに意気揚々と話さなくても聖者はお前んところの冥界にはいかないから安心しろ!
彼だって死後そんな処置は受けたくないに決まているよ!!






