1112 神々の会議
今年も異世界農場をよろしくお願いします!!
私は知恵の神ヘルメス!
今、天界に風雲急が告げられている!
その原因は、地上に新たな国家が築かれようとしていること!
しかもその開祖となろうとしているのは、ここ最近世界に革命的なことばかりもたらしている男、聖者。
そんな聖者が国を興そうとしているのだから神々も騒がずにはいられないというわけ。
『……今地上に、新たなる国家が誕生せんとしている……!』
『これには神も黙って傍観しているわけにはいかぬ。神の務めは人を守護し、見守ること』
『なればこそ、人の集合体である国家を守護することもまた、神の務め……!』
というわけでこの世界すべての神々が集まり、会議を行うことは何らおかしな話ではない。
おかしな話ではないが……!
『そしてこたび建国されるのは、あの聖者が開祖となり君主となる……!』
『そのように貴重な機会を逃してなるものか……!』
『聖者の国の守護神になるのは、私だ!!』
私欲が渦巻いておられる。
そう、ここに集結して睨み合っている神々どもは皆、これから興される聖者の国の守護神にならんと、そのたった一つしかない席を巡ってバチバチに火花を散らしてるってわけだ。
頼んでもいないのに!
国家に守護神は必要か?
まあ、いる。
王権神授説なる言葉もあるように、王とは神に認められて成立するものだ。
その王が運営する国もまた然り。
ゆえに国とは、守護する神を得てこそ国家として成立するのだ!!
……なんてのは神側の都合ではあるんだろうけれど。
神にとっては重要な問題でもあるんだろうなあ。
それで聖者の国を、どの神が後ろ盾になるか白黒ハッキリさせようというのがこの神会議の議題らしい。
そんな重要会議が、神々の伝令役であるこのヘルメスのあずかり知らないところで開催されてるなんて、どういうこったい!?
『アンタが地上を眺めてニヤニヤしてたからでしょう? アホのアンタにいちいち話通してなんて悠長してられないほど、あの議題は緊急性高いってことよ!』
うっさいアルテミス! いちいちアホアホ言うな!!
しかし指摘はもっとも。
どの神も、行儀よく段階履んでられないほどに聖者の国を欲しているからこそ、この神の伝令役ヘルメスをすっ飛ばしてこの場に集まっているわけだ。
いつもは何度呼び掛けてもなかなか集まりやがらねーくせに!
『とにかく! 聖者の国はこのハデスが面倒を見よう!』
集合する神々の中から一神、言い放つのは冥界の神ハデス伯父さん。
『何故なら彼の国が建設されるのは地上においてであり、その地上は冥界神の管轄であるからだ! 担当区域の統治を、担当者が務めるのは至極当然!!』
『それはどうかな?』
テンポよく反論するのは大海を支配する神ポセイドス伯父さん
『地上にあるものすべてに冥界神の管理権があるなら、人族と人間国には天界神が後ろ盾しているのは何故だ? お前の理屈が通るならば人族もまたお前が守護していなければおかしいだろうハデスよ?』
『そ、それは……人族はゼウスが生み出した種族だからして……!』
『然りよな、実際お前らが守護する魔族も、お前ら冥界神が生み出した種族。神は、自分の生み出した種族に責任を持つのだ! だとしたら聖者の国は、この海神ポセイドスが担当するのがよろしかろうと思う!!』
なんで?
『何故なら、あの聖者が妻とする者こそ、この海神ポセイドスが生み出した人魚族であるからだ! 神は自分の生み出した種族に責任を持つ! とするならば、我ら海神族は聖者の妻を守護し、聖者の国の庇護者となってやってもよいぞ!』
あー、あのプラティちゃんね。
地上人の中ではなかなかに賢明怜悧で、まこと聖者のパートナーに相応しい器量の持ち主だ。
その良妻が人魚族であることがポセイドス伯父さんにとっては無限大のアドバンテージ。
『聖者自身が異世界より来訪した……この世界の神々のいずれにも縁を持たない存在であるからこそ、その聖者にもっとも近しい連れ合いを基準とするのがよかろう、よって聖者の国を守護するのは、この海神ポセイドスで決定!』
『いやいやいやいや! 認められるかそんなん! 海の神が陸上にしゃしゃり出てるんじゃねえ!!』
怒りのハデス伯父さん、喧々諤々の口論。
ここまでがいつもの風景。あの二神、いっつも同じような内容で言い争っておる。
しかし、今日も今日とてああして対立するのも無理のない話。
これから設立される聖者の国……その守護神ともなれば聖者やその民からの信奉を一身に集めることは確実。
そうなればたくさんの供物や、捧げものを得られることも確実であろう。
すべての神が羨む、聖者が生み出した極上のご馳走も……。
そう、結局のところ神々がああしてバチバチやり合っているのも、結局は美味いもの目当てというわけだ。卑しいな。
『冷静に分析している場合じゃないわよ。何のためにアンタを引っ張ってきたと思ってるの』
アルテミスから怒られた。
何なの?
『冥界神と海神が言い争いをしている傍らに……見てみなさい、あの情けなく縮こまっている我が陣営の代表を』
どういうこと?
とりあえず言われたとおりに視線を巡らせて、言い争うハデス&ポセイドス伯父の周辺に気を配っていると……。
……いた。
たしかに気配の極めて希薄な神が、座り黙っている。
どの神かと記憶を照合させてみれば……我らが兄弟神、芸術神アポロンではないか。
あんなところで何してるんだ?
『もちろん、聖者の国を我々天界神が守護すべきと主張しているのよ』
とアルテミス。
『聖者の国はどの神にとっても値千金。とりあえず所有権を主張しておかない手はないじゃない』
『所有権』言うな。
そんなんだから天界神は……って言われるんだよ、そんなんだから。
『だからこそアポロンは天界代表として会議に参加してるんだけど、やっぱり伯父たち相手に遠慮が出てしまうのか思うように弁論を展開できていないのよ。アポロンのヤツ、遠慮がちな上にヘタレだから』
双子の兄神に対して何たる言い草。
仕方ないか、この妹神アルテミスは典型的なツンデレ妹神だからして。
『だ、誰がツンデレよ!? アポロンがあんなオジサンどもに挟まれて可哀想……なんて思ってないんだからね!!』
こういうところですよ。
『とにかくアポロンがああして言われっぱなしだと、私たち天界神の沽券に係わるのよ。だからこうしてアンタを連れて来たんじゃない! アンタ口八丁手八丁が得意な神でしょう。むしろそれだけが取り柄と言っても過言ではない!』
何たる言い草この女神。
兄神に対してはツンデレだが、他の神に対しては単なる暴言なのがまた酷い。
まあ、それでも聖者の建てる国を巡って我々天界神が指をくわえて傍観しているわけにはいかない……という主張には同意だ。
黙って見過ごすには利益が大きすぎる。
だって聖者が生み出す食物、料理、珍味にお酒……すべてが美味しすぎるのだもの。
彼らの守護神ともなればあの美味しい料理が毎日のように捧げものに……。
……想像しただけで涎がジュルリ。
そうだよな! そんな美味しいポジションをみすみす他界神に持ってかれるわけにはいかないよな!
ここは私に任せてもらおう、神界きってのネゴシエーターと呼ばれし言霊使いヘルメスに!
自慢の話術でブラジャーからミサイルまで何でも揃えてみせるぜ!
『その意気よ! 詐欺師を司る神としての本領を発揮してきなさい!』
そんなの司ってないですけど!?
くっそ、私のこと普段からどういう風に見てるんだ?
はなはだ不本意ではあったが、そのことに触れている時間もないのでとりあえず論戦へと飛び込む、このヘルメス。
『あいや待たれよ。天界神より知恵の神ヘルメスご注進いたす!』
『『ひっこんでろ!!』』
うわわわわわッ!?
ハデス伯父さんとポセイドス伯父さんから一括された!?
凄まじい迫力。
さすがはウチのアホ父ゼウスと並ぶ、神の王たち。
他神と比べても一頭秀でた存在たちだ。
そんなのと論戦することになってアポロンも確かに災難だったであろうな。
それでも天界神若手ナンバーワンで正当な継承者であるからには、しっかり受けて立ってほしかったが……。
『ダメだ……渾身の一発ギャグがスルーされた今、私には打てる手段がないんだぁ……!?』
ダメだコイツ。
こんな緊迫した論戦の場でスベり芸を披露できるのもある種クソ度胸であるが。
こうなればなおさら、この知恵の神ヘルメスが臨時の天界代表として、この困難を乗り切ってみせる!
聖者の美味しい料理を捧げてもらうために!!






