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110 乳なる種族

「ええー? 本当にヴィールに突貫しちゃったのか?」


 あとで話を聞き、当惑とばかりに目を丸くしたのはエルフのエルロンだった。

 どうやらプラティは彼女を情報源に竜乳のことを知ったらしい。


「エルフの中では伝説的な飲み物なんだ。エルフの祖先が、竜の乳を飲み覇極の力を得て、当時の魔王を破ったんだとか」

「やっぱりそれ系の飲み物なんだ……!」

「ヴィールのことを知って、彼女からも竜乳が出るのかなあ? と世間話程度にしたんだが、まさか本気にするなんて……!」


 プラティはそういう子なんです。


 ちなみにヴィールは、困惑のやり取りの挙句、泣きながら飛び出していった。


「そんなにミルクが欲しいなら、おれが極上のヤツを用意してやるううううッッ!!」


 とかわめきながら。

 それ以来、早六日。彼女は一度も帰ってきていない。

 本拠である山ダンジョンに戻った様子もなく。どこに行ったかまったく不明。


 それでもまったく心配されないところが最強種ゆえといったところか。


「そもそも竜乳は伝説の飲み物で、実在するかどうかも不明とされている。そりゃあ実物のドラゴンを目の前にして、対話も可能となったら試しに聞いてみたくなる気持ちもわかるが……」


 クソ度胸の産物でしかないと。


 たしかに冷静になって考えてみたら、一人二人分ならまだしも今や百人以上の大所帯になった我が農場を賄う分をヴィール一人で搾り取るわけにはいかんしなあ。


 いや、ドラゴン形態に戻ってあの巨体からならもしくは……?

 ダメだ。

 どっちにしろ心情的に、何と言うか……!


「私もちょっと無理だなあ。竜乳って、いわばソーマとかネクタルと同レベルのアレだぞ。そんなの日常的に摂取するようになったら、もう普通のミルクが飲めなくなりそうで怖い……!」


 そういう意見もある。


 だからやっぱり竜乳は却下ということで。

 でも他に当てがないしなあ。どうするかなあ。

 やっぱり牛以外の生物に範囲を広げて、乳を出しそうなモンスターを洗い直してみるかなあ?


「いや、魔国にコネがあるんだろ? 乳牛を丸ごと送って……?」

「エルロン、その案はね、既に出てるんだ」

「却下されたのか。何か問題でもあったのか?」

「いや別に」


 ……とめどもない会話をしていた矢先のことだ。


 ヴィールが戻ってきた。


              *    *    *


 ヴィールはドラゴン形態で、しかも手から籠をぶら下げていた。

 籠といっても、巨大なドラゴンに見合った大きさだから、俺たちから見たら船か何かと見紛えるぐらいに大きい。


『ご主人様、持ち帰ったぞ!!』

「持ち帰ったって何を?」


 相変わらずドラゴン形態のヴィールの声は、必要以上に大きくてやかましい。


『当然、ミルクを出す生き物だ!!』


 そう言ってヴィールは持っていた籠を、すとんと地面に置いた。

 アイツにしては割と丁寧な動作だ。


 本当に、その籠に生き物が入っているのか?


『さあ、着いたぞ。今日からここがお前たちの住み処だ! 出てくるがいい!』


 と言うヴィールの声に従ったのか、籠が内側からモゾモゾと動き出した。

 籠は、見た目葦か藁で編まれたような感じで、まさしく籠! といった風だが、ただひたすら巨大であることが違和感。


 それがモゾモゾ動いているということは……。何かがよじ登ろうとしている?

 内側から?


 そして、籠の縁から顔を出したのは、何の変哲もない人だった。


「人!?」


 いや、何の変哲もないわけじゃない。

 籠の中から出てきた人は、頭から角が生えていた。

 湾曲して、表面がごつごつした角だった。


 この時点でもはや何の変哲もない人どころではない。


 そして美しい女性。


 籠の中からは一人ならず、何人もの女性がよじ登って脱出してきたが、いずれも例外なく若く美しい。


 一体誰?

 何者ですか!?


「あれはまさか……、サテュロス!?」


 俺と一緒に表に出ていたエルロンが、何か知っているらしい。


「獣人の一種だ。サテュロスは山羊の合成種と言われて、険しい岩山も難なく乗り越える脚力が特徴だと言われている。……あともう一つ」

「?」


 エルロンはそこで唐突に言葉を詰まらせた。

 しかも顔を赤らめて。


「サテュロスの女性は……、ミルクを豊富に出して美味なのだと」


 なな。

 なんだってー?


『これでミルク問題は解決だぞご主人様! さあ、このヴィールを褒めたたえるがいい! そしてミルクを材料に作った美味しい料理を真っ先におれに食わせるのだ!』

「このバカー!!」


 思わず大ジャンプでドラゴン形態ヴィールの目線の高さまで飛んでしまった。そしてツッコミの勢いで殴る。


「いくらミルクが欲しいからって! 余所の人を勝手にさらってきちゃダメでしょ!! この人たちには、この人たちの暮らしがあるの! あと人権が!」


 知らぬ土地に連れてこられ、戸惑う風のサテュロス? さんたちに駆け寄る。


「すみません! ウチのバカ竜が! 勝手な振る舞いをして本当にすみません! ヴィールには責任もってアナタたちを元いた場所に送り帰すように言い聞かせますから!!」


 いきなり知らない場所に連れてこられ、さぞや不安なことだろう。


 アホ竜の振る舞いは飼い主(?)たる俺の責任。

 全力で謝罪と賠償をしなければ!!


「ち、違います!!」


 そこで、十人ほどいるサテュロスの中で一番年長そうな女性が言った。

 大人の色気ムンムンに溢れたお姉さんで、この集団の代表っぽい。


「私たちは、みずからの意思でヴィール様に同行したのです! ヴィール様には我が種族の危機を救っていただきました! そのせめてもの恩返しにと!」

「は!?」

「ですから、むしろ私たちからお願いします。どうか私たちをこの土地に置いてください! そしてここに住む方々のためにたくさんおっぱいを出させてください!!」

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